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どんな目で見たんですか、うーちゃん……?

 胸元に忍ばせた護符が一度動いたあたり、まだはるなさんは学校にいるうちに片をつけよう、という狙いは捨てきっていないようですね……リーリエの呪詛返しもあるはずですが、やはり専門家には及ばない、ということでしょうか。

 不穏な時間ではあったものの、四限を終え、時間はお昼。


「リエ、天野さん。二人が良かったら……一緒に食べない?」


 お弁当箱をもって、そう誘いに来てくれるみやちゃん。


「みやちゃんからお誘いいただけたのですから、喜んで。新しいお友達と、もっと仲良くなりたいですから。うーちゃんも構いませんよね?」

「……リエさんの笑顔を独占したいですが、その思いがリエさんの笑顔の妨げになるのなら、我慢します」

「……天野さん? 目力だけで私を殺そうとしないで?」


 ……どんな顔をしているのか、少し見たくないですね。恋人の全側面がいとおしいといえど、本気で怒っているところは見たくないというかなんというか。


「……天野さん、独占欲強すぎ。完璧に人殺したことある人の目だったんだけど」

「うーちゃん……」

「リエさん、なぜそんなにかわいそうなものを見る目で私を見るのですか」


 かわいそうというか、すごい心配です。私と少しでも仲良くしようとする人みんなにそんな目をするとなると、私以外との関係性が……。


「うずめお姉さま~! って、アマツジ! あなたうずめお姉さまとケンカしたんじゃなかったんですの!? 何を仲睦まじくお昼を楽しもうとしているのですか!」

「いえ、そもそもケンカとかしてないですし」

「だましましたわね、アマツジィ……!」

「だますも何もさくらさんが勝手に勘違いしただけでは……」


 おかしいですね、さくらさんとの会話はうーちゃんがすべてしていて、私は一言も発してないのになぜか私に向けられる敵意が強くなっていくんです。


「とにかく、あなたがいるとリエさんに悪い影響しか出ないので帰ってください。気疲れで倒れかけるところまで行ったんですからね、全く……」

「あ……その、アマツジ。わたくし、何もそこまで追い詰めたかったわけでは……いえ、うずめお姉さまをわたくしから奪ったにっくき恋敵という意味では殺したいほど憎らしいのですが、それはあくまでうずめお姉さまの感知しえないところで済ませるつもりだったというか……」

「さくらさん……ちょっと素直に内心を表現しすぎでは」

「とりあえず、二度とリエさんの前に顔を出さないでください」

「お姉さま!? それは遠回しにわたくしからお姉さまと会う機会を奪っているのですが!? ぐぅぅぅ……いつか見てらっしゃいアマツジイィィィィィィ!!」


 ……物騒なことを口走っていましたが、私吸血鬼なので死にませんし。まあ、問題はないでしょう。


「……辻野さんは、変わらないね、天野さん。安倍さんが変わりすぎただけ?」

「そう、ですね……高校デビューというやつであればいいのですが……」


 ……? はるなさんの話? 変わりすぎた?


「うーちゃん、それってどういうことですか?」

「あ……いえ。その……はるなさんは、高校生になってからかなりキャラというか、人格が変わって。本人が良しとしていても、こちらから見ていると心配になるほど。なので、少しお話しにくかったのです」

「……え? うーちゃん、はるなさんのことが怖かったのでは?」

「怖いには怖いですよ? 法に触れるギリギリのことまでやっているようなので」


 それは……陰陽師としての務めを始めたが故の変化なのでは?


「何かをきっかけに変わろうとする人、多いから。あまり気にしなくてもいいんじゃない? そのうち正気に戻るって」

「そうかもしれませんが……なにか悪さをする前に戻ってほしいものです」


 この口調……怖いには、怖い。けれど、それは心配しているからなんですね。

 だとしたら……いえません。私の敵だなんて。


「そうですね……悪いことなんて、しないのが一番ですから」


 うんうんとうなずきながら机といすを私たちに近づけるみやちゃん。


「はい、リエさんの分のお弁当です。急ぎで作ったものとはいえ、ゆらさんお手製ですから、きっとおいしいですよ」

「あ、私の分もあるんですね。ありがとうございます、うーちゃん」

「……あれ? なんで天野さんがリエの分まで?」

「形だけみたいなものですが、ホームステイ先が私の家なんですよ。ね、リエさん」

「は、はい! 海外暮らしなので、こっちにまでメイド隊が来ていなくて……」

「あー……なるほど」


 ローテンションで答えるみやちゃん。どうやら、特に関心はなくなったようですね。


「ホームステイで恋が芽生えるガールミーツガール……良い……」

「あ、咲子さんも一緒に食べます?」

「……本来、百合の間に挟まるのは男女問わず許されないこと。でも、金野さんは挟まろうとしている。その抑止力としての私」


 突然のリーリエに少し驚くけれど、近くにいてくれればいろいろ安心ですね。交換条件も家で描ければ満足、と言っていましたし。

 ……見られながらキスするって、それどんな羞恥プレイだろうとは今も思いますが。


「心配しなくても、どんな形であろうと付き合ってる二人を割く気はないよ」

「……なら、お弁当自体に誘わないはず。何が狙い?」

「……加賀野さんの挟まる判定と比べてちょっと私の判定が甘かった。けど、二人とも許可してくれたし、まあ四人で、ということで」

「違う。二人と二人。百合と、百合を愛でる背景の二組……」

「分かった……分かったから」


 リーリエの強引なまでの割り込みによって、ある程度の距離を保つ私たちと、リーリエ、みやちゃん。

 ……いえ、リーリエ。そんな親指立てて『どう?』って顔されても困るのですが。


「咲子さんは本当に女性同士の恋愛が好きですね……」

「タチ。ネコ以外に言葉をかける必要はない」

「……とうとう名前ですら……」

「いいから。いちゃついて。あーんしてあげて。口移しだとなお良し」

「加賀野さん、背景って自称するならもうちょっと黙らない?」


 どこから生まれた言葉か知りませんが、女三人寄れば姦しい。三人でさえ騒がしいと思われるのですから、四人になればなおさらでしょうね……。


「まあ、とりあえず食べましょう。リエさんもお腹がすいているのでは?」

「ええ、お腹がなってしまいそうなほどです……こんな言い方、少しはしたないでしょうか?」

「そんなところもまた、いとおしい」


 もう、本当にうーちゃんはさらっとそういうことを言うんですから。恥ずかしいじゃないですか……。


「……なんで私の目と脳はカメラのように瞬間瞬間を完璧に保存できないのでしょう」

「…………無理な話だと思うよ」


 こんな二人の前なので、余計に。


「さ、リエさん。どうぞお召し上がりください。足りなかったらお分けしますし、お口に会わなければ取り替えますので」

「そんなお気遣いは不要ですよ。ゆらさんのお料理、とてもおいしいですから」


 そんな話をしながらお弁当箱を開けると、やっぱり。事前に準備しておいたと思われる、うーちゃんの物と比べてしまえば質素ですが、余った材料で急きょ作ったとはだれにも思えない出来です。ゆらさん、さすがです!


「いただきます」


 ちゃんと手を合わせてから、一口目。

 これは……ニンジンをベースにしたドレッシングのようなものでしょうか? 根菜の持つクセなどは何か別のもので抑えつつ、ニンジンも、かけられた野菜の味も活かしています。本当にゆらさん、お料理上手ですねぇ……。

 ほかにも、有り合わせのお弁当とは思えないほどの品数を食べてはいちいち驚き、そのたびにうーちゃんにほほえましげに眺められる。

 もう決意していることですが……この時間の邪魔は、誰にもさせたくありません。うーちゃんにとって可愛い後輩でも、私から見ればまた千年の眠りにつかせることができるかもしれない、危険な相手。それは、うーちゃんにとっても危険なことだから……心を鬼にしましょう。もとより吸血鬼ですが、民間伝承のように、冷酷で、無慈悲に。


「……? リエ? なんか顔つき怖いよ?」

「え? さっきのうーちゃんと比べてどっちが怖かったですか?」

「天野さんのは人殺してる目。リエのは人を殺そうとしてる目、って感じ? まあ……大げさなたとえかな。ちょっと顔洗ってくる。正気じゃないの、あたしだったりして……なんて、笑えない冗談だよね」


 そういって、みやちゃんは席を外しました。


「……ようやく落ち着いて百合を鑑賞できる」


 ちょっとくらい心配してあげましょうよリーリエ。


「待っていても申し訳ない気分にさせてしまうでしょう。さ、リエさん。当家自慢のコック長の腕のさえ、ご覧ください」

「……そうですね。そうしましょうか」


 少し心労をかけてしまっていることに申し訳なさを感じつつも、うーちゃんの言うことも納得できるので、とりあえず食事に戻るのでした。

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