不意に襲い来る陰陽師と、魔法使いの対価
うーちゃんの教科書を見せてもらって、三限目を受ける。数学……うーちゃんの理解した範囲では知っていますが、これ何の役に立つのでしょう。
良く分からないところをうーちゃんに教えてもらいながら、何とか授業に追いつこうとしていたとき。
「……あれ?」
ふいに、まぶたが重くなりました。
でも、眠いからではありません。
これは、前にも感じた……リーリエの言う、昏睡の術!
「……エさ……むた……」
まさか、学校で仕掛けてくるなんて……! うーちゃんの声が遠くに聞こえる……だめ、ここで負けては、どうなるか分からない!
こうなるのなら、リーリエに呪術対策を教えてもらえば……そうだ、リーリエに助けを、求めれば……もしかしたら……!
「咲子、さん……保健室……」
「──さん! ──さん……体調……!」
ガタガタと体が揺れるのを感じる。体を揺さぶられているのではなく、車いすごと揺られている……ということは、どこかに移動させられているのでしょう。
「……ん。アマツジさん!」
「う……ん……りぃ、りえ?」
「……ごめんなさい、解呪すればいいと思って、探知を優先していたわ。けど、これでもう大丈夫。陰陽道は、方角を重要な要素としている……この距離の移動でまじないが解けたのなら、そして、私の探知が間違っていなければ……大まかな場所は、安倍はるなのいる、一年B組の教室。もう、確信をもってもいいレベル。けれど……学校という、一般人の方が圧倒的に多く、平和な場所である以上、今から乗り込んでいって叩きのめすことはできない。ただ、これで相手はこちらの敵がだれか、を確信したと認識するはず。もし次があったら、私が呪詛返しをするわ。日本の術式はガラパゴス進化遂げすぎていて、専門家には到底及ばないけれど……」
瞼の重さが消えると、そこは廊下で、リーリエが私の前で早口で説明してくれました。
そうか、リーリエが解呪してくれたことを察知すれば、誰がそうなのかは分からなくても、術師の存在には気が付きますよね。
……でも、こちらの方が一手先を行っているはずです。
リーリエによって、はるなさんが陰陽師だと分かった。つまり、敵がだれかわかりました。
けれど、はるなさんからはリーリエがいる、というのは分かっても、イコール加賀野咲子だとは分かっていない。
狙われるのが私ということに変わりはないけれど、私の仲間がだれか分からなければ、向こうは攻めにくくなるはずです。
「リーリエ。うーちゃんの事を任せます。気配を追うのなら、私が術なしでもできますから……学校が終わって、彼女が一人になったところを狙って、一噛みして私を狙えないように深層意識に刻み込む程度で済むでしょう。だから……」
「分かっている。じゃあ、お役立ちアイテムを渡しておく」
そう言うと、制服のポケットから何枚かの紙切れを取りだすリーリエ。
「……日本の術式に対する護符を何枚か。これを持っているだけで、少しは対抗できるはず。それと……力の源、いるんじゃない?」
たしかに、吸血鬼としての力を使うのならば、少量の血液が必要になりますね。今のリーリエなら、相当な力を手にすることができるはず。
「ごめんなさい、少しだけお願いします」
取りだした護符に手を伸ばすも、リーリエはなぜか渡し渋ります。
「……対価、ですか?」
「まあ……古馴染みだからこそ、もらうべきものはちゃんともらわないといけない。師匠もそういってたし」
「でも、お金はないですし、こんな自然がない時代で魔法薬の素材集めなんてとてもできませんし……」
「……ゆりちゅっちゅ」
「……え?」
「天野さんとゆりちゅっちゅしてるところをスケッチさせてくれたら……今必要なものを渡す」
…………え?
「……ゆりえっちしているところをスケッチさせてくれるなら、今後百年くらいは必要なものを渡し続けるし、なんなら思いだして一人でする」
「待って……待って? その、つまり、私がうーちゃんとキスしているところを見せろと? 学校で……?」
「……謹慎処分にされて、見れなくなると残念だから、天野さんの家でいい……」
「じゃあ、後払いで……え? それでいいんですか?」
「……私は納得してる。あなたが納得すれば、それで契約成立」
そう言って護符を差し出すリーリエ。これを受け取ったら、私はうーちゃんとキスしているところをスケッチされることに……。
……ええい! 恥ずかしさでは死にませんが、呪われれば死ぬかもしれないですからね! 背に腹は代えられません!
「……ふふ、毎度あり」
「キスまでですからね! っていうか、後でデコピンくらいさせてもらいますから!」
「……ふふ。美少女と美少女のゆりちゅっちゅスケッチ……後で清書しなきゃ」
「……聞こえてませんね!?」
護符を受け取るけれど、何か不安が増したような……不思議だなぁ、もう!!




