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仮説は踊る、けれど成り立たない

 二限目の授業が終わり、始まった時同様、立たずに礼だけをする。

 とりあえず、頭の中で仮説はある程度まで組み上がりました。

 はるなさんは、安倍晴明の末裔など、何らかの力を行使できる存在である。

 悪鬼、悪霊を祓うという陰陽師の役割を継いでいて、私のこともその対象としている。

 ただ、これだと疑問も残ります。

 なぜ、彼女は私の不意を突かないのか。

 なぜ、私にヒントを与えるように天野家の内情を話したのか。

 うーちゃんに聞けば……でも、うーちゃんには天野家が私に何をしているのか、の詳細は伝わっていないはず。それをこちらから明かすのは気が引けますね……。

 うーちゃんの気持ちに嘘はないはずです。大切に想う相手から、自分の家がどんなひどいことをしてきたのかを伝えられるなんて、酷すぎます。

 とはいえ、はるなさんに直接問いただしても尻尾を出してくれるとは思えません。おそらく、さっきと同じように煙に巻かれて終わるでしょう。

 天野家のことは、天野家に聞けばいいのでは? とも思いましたが、私は彼らの前に姿を現した時に全てお見通し、という態度をとってしまったので、真実がばれていないと分かれば何らかのごまかしをしてくる可能性も高いですし……。

 ……うぅ~! いい案が思い浮かびません!


「リエさん、どうしました?」


 考え込みすぎたのが顔に出ていたのか、うーちゃんにそう問いかけられます。

 全てを話してしまいたい、という欲が出ます。

 悩んでいるすべてを明かし、うーちゃんがどう思うのか。それを聞いて、どう動けばいいのか……それを知りたい、自分がいます。


「……いえ、何でもありませんよ。気にしないでください」


 でも、それだけはだめ。全てを話さないと、うーちゃんも動けない。けれど、全てを話せば、きっとうーちゃんはとても傷つくから。


「……アマツジ、さん。恋の、悩みなら……相談、のるよ。背景だけど……」


 ふいに背後に気配を感じ、振り返るとスケッチブックさん──もとい、咲子さんが立っていました。


「お心遣い、感謝いたします。ですが、自分で考えるべきことだと思いますので……」

「…………」


 そういっても、咲子さんはなぜかこちらに歩み寄り、私にしか見えないようにスケッチブックの中を見せました。


『さっき、安倍はるなに多目的トイレに連れていかれるの見かけた。恋人に明かせないような、でも誰かに明かしたいことがあるのなら話して』


 そこに書かれていたのは……! そうか、咲子さん、あの様子を見ていたんですね。お優しい方……優しい人の周りには、優しい人が集まるものなのでしょうか。


「……こんな百合を描いてる。美しい百合を見るためなら、何でもする。それが私……」


 そう言うと、咲子さんは小首をかしげました。本当に私じゃ力になれない? と、問いかけるかのように。


「……そう、ですね。人に明かすことで、意見を聞けることもありますよね」

「リエさん? やはり、何か悩んで……?」

「天野、さん。世の中には、親しければ親しいほど話せないこともある。たぶん、アマツジさんの悩みは……そういう、系統」


 咲子さんがそう言うと、うーちゃんはためらいがちに、けれど納得したように立ちかけた椅子に座り直しました。


「……変なことはしないでくださいよ」

「……完成された百合の間に挟まろうとするものは、男でも女でも滅びるべき。二人の仲について聞くことはあっても、手出しなんてしない」

「……はぁ。妙な説得力は日ごろの行いからですね。わかりました、でも……私に何か至らない点があったとしたら、教えてください。リエさんが言いにくいことでも、直したいですから」


 うーちゃんとそう話し終えると、咲子さんは私をどこかへと押し始めました。

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