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ちょっぴり悪い子モードです

 ベッドがわずかに揺れ、うーちゃんが起きたのだと感じ、私も目を覚ます。


「おはようございます、リエさん」

「おはようございます。うーちゃん、今日は学校ですか?」

「そうですね。しかし、困りました。リエさんとほんの少しも離れたくない自分がいて……」


 困ったなぁ、という表情でうーちゃんは頬をかく。


「じゃあ、一緒に行きませんか?」

「リエさん、お気持ちはうれしいですが、現代の勉強についてこれますか?」

「ええ。昨日、ちょっと夜更かししてしっかり勉強しましたから。それに、私もうーちゃんと離れたくないですし……だから、ね?」

「そんな言い方されたら断れないじゃないですか、もう」


 言い方こそこんな感じですが、うーちゃんはとてもうれしそうです。

 私? 私だって、もちろんうれしいですとも。


「想いあっていることがはっきりしたので、初めてのデートと言ってもいいですね♪」

「買い物は友達としてでしたからね。たしかに、そう言えるかもしれません」


 デートとして行く買い物は格別でしょうね、と言いながら、うーちゃんは部屋の中にある三面鏡に向かい、髪型を整える。


「もう、手ぐしは本当は髪の毛に良くないんですよ?」

「良くご存知ですね。テレビもネットも見ていないのに、どこでそれを?」

「吸血鬼には秘密があるんですよ、ふふふ」


 私はうーちゃんの知っていることならある程度知ることができましたが……その方法をお話するのはまだ先にしましょう。ちょっと……いえ。かなり刺激が強いですからね。


「でも、足の筋力はまだ戻り切っていないんです。迷惑かもしれませんが……」

「まさか。あなたと共にいることができるのなら、地獄に堕ちることすら甘美に満ちています。私の恋人」


 そっと私を抱きあげ、車いすに乗せてくれるうーちゃん。結構力ありますよね。それとも、私が軽いんでしょうか?


「地獄になんて行かせませんが、私も同じ気持ちです。私の恋人」

「……ふふっ、お嬢様学校とはいえ、ここまで強い愛情で結ばれた二人を見たことがないので、学校では少し自重しないといけないかもしれませんね」

「それは残念ですが、買い物の日に会ったあの子もいるんですよね。そうなると、恋人関係になっていてはおかしいですか」

「ええ。彼女には取引先の娘、といってしまいましたからね。本来、学校に行くのすら不自然に思われても文句は言えません」


 たしかに、そうですね。

 でも、表では付き合っていることを口にしないのは、新しい秘密ができますね……。

 どうしましょう。燃えてしまっている私がいます。

 うーちゃんも、同じ気持ちでいてくれているのでしょうか……?


「リエさん、きっと私と同じことを考えていますね?」

「さあ、どうでしょう? ふふふ」


 お互い、あえて口には出しません。

 けれど、どこかできっとそれは正しい、という思いがある。

 これが、恋人ということなのかもしれませんね。


「家の中では永久女様でいますけれど、あの子もいるのなら素の私を知っていますよね。そうなると、高校では普通の女の子、ツェツィーリエちゃんでいたほうがよさそうです」

「家の中だからいいですけど、永久女様としてのしゃべり方だと痛い子だと思われますからね」

「まあ、それは大変。うーちゃんが変人を連れてきた、と思われないように頑張って普通の子でいますね」


 とはいえ、この扉の先ではまだ永久女様です。今まで同様、尊大な態度を取らなくては。

 ……尊大なだけでは、あの三人と何も変わらないのですよね。早く威厳があるけれど、親しみやすい人になりたいものです。

 トン、トン、とうーちゃんの足音が小さく響いたと思うと、本館へつながる扉が勝手に開きました。あれ? ここは自動ドアじゃないはずですよね?


「おはようございます。うずめお嬢様、永久女様」

「ゆらさん? どうしてこんなところに?」

「もうこそこそしないで済む、と思うと気が焦りまして。朝食をお運びしたいところでしたが、お嬢様御自ら二人きりの時間を邪魔しないで、というご命令を受けたことを聞き及びまして。ご朝食の案内だけ、させていただこうかと。お嬢様には、あの三人が永久女様に怯えきった顔で食事をしているのを眺めて悦に浸る趣味はないと愚考いたしまして」

「そうですね……憎くても、家族ではありますから」


 うーちゃん……やさしさと甘さは違いますよ。

 許せないことの一つ二つどころか、十や二十を簡単に超えるでしょう?

 それを許すのは、自分の心にふたをすること。つまり、今までと何も変わりません。


「うずめ。腕の力が戻ったか確かめたい。こよりは、吾一人で十分」

「ツェツィーリエ様?」

「……なるほど。お嬢様になくとも、永久女様にはそういった趣味がおありなのですね?」

「無論。吾の可愛い、可愛いうずめをいじめ抜いた罪……本来の形に戻すだけで許すはずもなかろう」

「では、うずめお嬢様は離れへお戻りください。永久女様をご家族と同じ食卓へお連れした後になってしまいますが、食事をお運びいたしますので。永久女様、失礼いたします」


 そういって、車いすを押しだすゆらさん。


「あなたがどういう存在なのかいまいちよく分かってないけど、良い趣味してるよ。あたしと一緒だ」

「そなたも眺めるが良い。うずめを助けるほどだ、さぞあ奴らの間抜け面を見たいことだろう?」

「まあね。けど、お嬢様の食事をこれ以上遅れさせるほどの理由でもないし。給仕担当にこっそり写真でも撮らせるさ」

「ふむ、写真……記録手段の一つであったな。それは良い。あ奴らの畜生にも劣る行い、その罰を受けるさまを記録できるのなら、なんと愉快なことか」


 あくまで永久女様としてゆらさんに接する。

 あの三人がどんな顔で食事するか……ふふ、とても褒められない言い方ですが……ワクワクしますね。

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