頭に残るのは、あなたの味
えっと……うん。いろんなことがありましたね。
まだそういうことをするには早すぎる、と言ったら、ものすごく残念そうな顔をしたけれど、すぐに私の素晴らしいと思う部分を何時間も語られて。
その合間合間、隙を見てはついばむようにキスをされて。
そのたびに文句を言うのだけれど、うーちゃんに『リエさんがしてきたキスの方が官能的でした』とか言われて、私は顔を真っ赤にするしかありませんでした。
しばらくして、扉をノックする音がして、ちょっと怒り気味で扉を開けたうーちゃんが二人分の夕飯を乗せたワゴンを押して帰ってきたけれど、食べている間ですら情熱的な視線を向けられ、もうどうしたらよいのか……と、思いきや、今日一日私を押したり、少しとはいえ心の底から泣いて疲れたのか、私の隣に横たわると穏やかで幸せそうな笑顔で眠ってしまって。
「もう、こんなに疲れているのならすぐに眠れば良いのに……」
さんざん赤面させられたけれど、寝ている姿はやっぱり少女そのもので。
「……やっぱり、学校というところでも一緒にいたいですね」
そう呟いて、私はうーちゃんを起こさないようにベッドから出て、空虚でしかなかった部屋の片隅に置かれた机とイス、その上に山のように積まれた教科書へと向かいます。
「……うーん。大体は知ることができましたけど、やっぱり自分自身で得る知識も大事ですよね」
山のように、でも教科別かつ、上から簡単なものとして積まれている教科書を読み始める。
こういった心配りは、小さなことではありますが嬉しいですね。コック長さん……ゆらさんが作ったであろう夕食にも、民間伝承で吸血鬼が苦手とされているものは一切使われていませんでしたし。
まあ、私はその手の物に対して弱いわけではないので、今度お会いした時にでもお伝えしましょう。それとも、ノートの切れ端にでもそういった気づかいは必要ない、と書いておきましょうか。永久女様らしい、古くいかめしい表現……古文の教科書から学ぶしかないでしょうか……いっそ、もう本当は現代のしゃべり方ができるってばらしてしまいましょうか? でも、それしたらうーちゃんが秘密の関係が~、とかすねそうですねぇ……。
「とりあえず、古文の教科書は……これですね…………え? 旧仮名遣い? ……日本語使いこなせるって、それだけですごい人な気がしてきますねぇ……」
なんでこんなにいろんな文字を思いついて、それぞれ違う意味をつけるんでしょう……読み方だっていろいろありすぎて、知ることはできても理解にまではいたりません……。
漢字の起源は様々とはいえ、音読みと訓読みって何ですかほんと。訓読みの方はもう当て字の間であるじゃないですか。”咲”という一字とっても、しょう、さく、えみ……確かに”咲く”以外の読みはまれにしか使わないようですが、”山咲う”と書いて”やまわらう”とかもう……普通に生きてて使いますこれ?
漢字と、その読みを考えた人達に文句を言いたい気分になりながら、黙々と勉強を続けます。
と、言っても今日知れたことの復習みたいなものなので、教科書をぺらぺらめくって、記憶違いがないかを確認するだけですが。
「うん、さすがうーちゃん。記憶違いほとんどないですね……私も寝てしまいましょうか」
一通り流し読みし終え、ベッドに戻る。うん、ちょっとよろけますけど、この部屋の中程度なら歩き回れますね。血を飲めばあっという間に回復できそうですけど、それは本当に最後の手段にしておきましょう。
ああ、かわいいなぁ、うーちゃん。こんなにかわいい子に、キスしたんですよね、私。
……ちょっと、急すぎたでしょうか。でも、嫌だったらあんなに愛の言葉を向けてくれませんし、こうして一緒に寝ることもありませんよね。
生まれて初めて感じた、自分以外の唾液の味を思いだしながら、私は眠りにつくのでした。