初めての口づけ
優しく。だけれど、うーちゃんの口の中に私の唾液が流れ込むように。私の口の中にうーちゃんの唾液が流れ込むように。深く、優しく。
そんなキスをして離れると、私たちの唇がお互いの唾液が混ざったものでまだつながっていて。夕焼けが幻想的に私たちを照らしています。
「リエ……さん……?」
何が起きたかわからない。そんなうーちゃんの表情を見ながら、車いすに座り直す。
「……恋なら、私だってとっくにしています。かっこよくて、可愛くて、時々おかしくなるけど、そんなところもいとおしくて──天野うずめさん。私は、永久女ではなく、ツェツィーリエ・ベヒトルスハイムという一個人としてあなたが好きです。大好きです!」
私が半ば叫ぶように言うと、ドサドサ、という音がした後に、後ろからためらいがちに抱きしめられる。
「私で……いいのですか? あなたと同じ時を歩むこともできない、ただの人間です」
「うーちゃんが私との永遠を望んでくれるのなら、吸血鬼にするための血の吸い方をしてあげます」
「あなたが大切にしてくださる自分を愛しきれない、情けない女ですよ?」
「だからなんですか。うーちゃんが自分を愛せないのなら、それができるようになるまで私がその分愛します」
言葉を重ねるたびに、腕に込められた力は強くなっていく。
けれど、決して痛くないそれは、とても心地よい。
「あなたを守り通せない、むしろ守られてばかりの弱い私だとしても……愛してくれますか?」
「ええ。うーちゃんが生きている間……いいえ、永遠に」
ほんの少しだけ、痛いくらいの力が込められて、耳元で声を殺した鳴き声がする。
「うーちゃん。友達として二週間過ごしただけで、こんな気持ちになってしまうあなたは、とても魅力的で、守ってあげたくなるくらい弱弱しい。けれど、あなたは自分を信じるだけでとても強くなれる子だから。それにね、ここまで来て、一方通行の関係ってそんなにないと思うんです。確信があるんです。うーちゃんは自分の事を弱いというけれど、いつか私を守り通してくれるような人になってくれるって」
「……はい……っ!」
しばらくの沈黙。だけど、気まずくはない。後ろ暗いことなんて、何もないのですから。
抱きしめられた時のように、ためらいがちに抱きしめる腕を離すと、うーちゃんは落とした荷物を拾い上げ始めたようでした。
「すいません、思いがけないことに動揺してしまって」
「気にしないでください。私もちょっといきなりすぎたかな? とは思っているので」
「……でも、分かりました。リエさんが私を愛してくださっているのと同じように、私もリエさんのことを愛しています」
……改めて言われると、少し照れますね。
「正直に言ってしまうと……一方通行の愛だと思っていたんです。一緒にお風呂なんて入れるのも、女同士だからで、男女だったらこうはならなかっただろうとか、手の甲と髪へのキスも嫌がられただろうとか」
「うーちゃんが同性だから、障害は低かったです。けど、うーちゃんが男の人でも、うーちゃんがうーちゃんだったら、きっと好きになっていました」
「そういわれる自分を、誇りに思います。相手がリエさんだから、こう思うのだと思います」
そう話をしながら、離れへと入っていく。
長い間外にいたからか、私の部屋はとても暗く見えるけれど、これからうーちゃんと共に過ごすのなら、これくらいの方がムードがあるかもしれません。
「うーちゃん。さっきの、私が寝ている間にされていなければ初めてなのですが、うーちゃんにとっては……どうでしたか?」
さっきのキス、ムードなんてなかったですよね……初めてがあんなので、うーちゃんは良かったのでしょうか……。
「心配いりません。最高のファーストキスでした」
「なら、良かったです。いきなりすぎて、ムードとか大丈夫だったかなー、なんて今更思って」
そう言いながら立ちあがってベッドに移ろうとした時でした。
「きゃあ!?」
うーちゃんが、いきなり私をお姫様抱っこしたのです。
「う、うーちゃん!?」
「今ならわかります。私は……生まれて初めてあなたを見た時から、ずっと恋をしていました」
ベッドにやさしく下ろされると同時に、まるで押し倒されたかのように私の体の両横にうーちゃんの手が置かれる。
「ですから……これ以上のお預けは、とても無理です」
…………あれ? ひょっとして、私……えっちなことされちゃいます?