買い物を終えて
先ほどの騒ぎの後も、少しずつ洋服店や、さまざまな種類のお店をめぐり、私の膝の上はもちろん、うーちゃんも両腕にぶら下げるのが精いっぱいなくらい、買い物を楽しみました。
支払いは心配でしたが、父親からブラックカード? というものを制限なく使ってよいという取引を出発前にしておいたので、心配はいらないそうです。不思議なものがあるのですね。
「はぁ。楽しかったですが、車に戻ればまた永久女様にならなきゃいけないんですよね。口調の使い分けは疲れませんが、うーちゃんをうーちゃんと呼べないのは少し寂しいです。もっと二人きりで過ごす時間ができればいいのですが」
「いっそ誰の前でもこのようにふるまえば……いえ、それでは二人きりの時の秘密の関係が公になってしまいますね。それはそれで、口惜しい」
「そうだ、一緒に寝ませんか? 私のベッド、一人で寝るには広すぎて……」
田島さんの待つ車に戻る途中で、そんな話をします。
「愛とは押し売りをするものではないんですから、襲ったりしませんよね? うーちゃんだったら」
「んぐっふぅ……確かにそう申し上げましたが……愛する方と一つのベッドで、という状況に耐えられるかどうか……」
「おかしなうめき声を出すほど悩ましいんですか!?」
「私は女ですから耐えられましたが、男だったらもうとっくに耐えられないところです」
男の人だったらとっくに犯罪といっても良いようなことをしてきたと思うのですが、それは黙っておきましょう。
「まあ、それはそれとして。私がリエさんと一緒に眠れば、お互いに守ることができると思います」
たしかに、私が一人でいれば当然うーちゃんも一人です。私はともかく、うーちゃんが何かされる可能性は十二分にありますね。
「では、今晩からは一緒に寝ましょう。少し手間をかけてしまうかもしれませんが」
「そのようなことは! リエさんと一緒に眠れるというだけで、喜びが青天井ですよ!」
「屋根、作りましょう? そんなに喜ばなくても……」
「敬愛する方と同じベッドですよ!? 喜ばない方がおかしいでしょう!?」
「えっと……あぁ、はい。まあ、うーちゃんですもんね」
今は不審者さんですね。さっきまでのかっこよさが台無しなような、完璧じゃないから親しみやすさを感じるような。
でも、そんなうーちゃんに好感を覚えているのも確か。
友情……と、言いきるには、もうごまかしきれませんね。
でもでも、それを口に出してしまえばうーちゃんに大変なことをされてしまいそうなので、私の準備が整うまでは口に出すわけには……。
「リエさん? 顔赤くなっていますが……吸血鬼でも熱中症になるんですか?」」
「え!? や、やだなーうーちゃん! 千年飲まず食わずで眠りっぱなしだったんですから、そんなのになりませんよー! それはまあ、汗はかくんですけどね! ほら、今日も暑いですから!」
「ならよいのですが……あ、そろそろ駐車場ですね。念のため、リエさんがひざの上にのせている荷物も私が持ちます」
「分かりました。すいません、使用人の前では永久女様でい続けると決めたせいで……」
「お気になさらず。この秘密の関係は、私が望んだことですから」
とはいえ、うーちゃんまだ持てるんでしょうか……大丈夫ですか? 腕、まだかけられますか?
「では、改めて。押しますね」
何とかしたらしいうーちゃんがそう言って車いすを押し、駐車場に入ります。
こちらに気が付いたらしい田島さんはすぐにこちらに駆け寄り、うーちゃんの荷物を持ちました。ああ、これも予想の内だったんでしょうか。
「田島とやら。これからもうずめにつくせよ」
「恐れ多くはありますが、言わせていただきます。そのようなこと、言われるまでもありません。自分の生活のためにうずめお嬢様に仕えられなかっただけで、うずめお嬢様があのような環境にいることは、心ある使用人ならばみな異議を申し立てたかったのですから」
そうだったんですね……たしかに、私を勝手に使って何をしていたか知りませんが、あんな大きなお屋敷を作ったんです。影響力も相当なものでしょう。
どんなに優秀でも、前に仕えた相手を悪く言って暇を出された、とあっては雇ってもらいにくくなる。
家庭があれば、どうしても自分の家庭を優先してしまう気持ちは分かります。
「使用人の方が血が通った人間らしいとはな。だが、古来よりそのようなものよな」
「永久女様も、そのような環境に?」
「女の過去を安易に詮索するものではないぞ?」
「はっ……申し訳ありません」
車いすから車の中へと移動する間に、そんな話をする。ちゃんとシートベルトをして、と……。
少し待つと、うーちゃんが私の隣に。もう少し遅れて、車いすをトランクにしまった田島さんが運転席に座ります。
「それでは、帰りましょう。ツェツィーリエ様、今回のお買い物は楽しんでいただけたでしょうか?」
「存分に。吾の時代とはずいぶんと形が変わったものよな。日ノ本においても、吾の生まれ落ちた地でも、あのようなものはなかった」
永久女様と、それに仕える少女。その形を崩さないよう気をつけながら、雑談をしながらうーちゃんのおうちに向かうのでした。