うーちゃんはずるいです
不安そうなうーちゃんに、とりあえず今日は買い物を楽しもうといって元気になってもらって、楽しい時間を過ごすこと……二時間か、三時間くらいでしょうか。
正直、私も不安ではありましたが、それを吹き飛ばせるほど楽しく、新しいことを知ることができる買い物でした。最近の服は夜会のドレスでもないのに露出が多いですねぇ……水着のビキニなんて、私、恥ずかしくて着れそうもありません。見つけた時にはわはわしてたら、うーちゃんが『リエさんの白磁の肌をケダモノの視線にさらすなど……』とぶつぶつ言いだしたので、着たくても着れそうにないですけど。
ところで、うーちゃん。私が目覚めた時に私に対して劣情を覚える、といってたのちゃんと覚えてますからね?
「はぁ、座ってるだけでも疲れるものですねぇ」
「お疲れ様です、リエさん。ソフトクリームいかがですか?」
独り言をつぶやいた時、フードコート? でおやつを買ってきてくれたうーちゃんにそう声をかけられます。
「なんですか? それ」
「甘くて冷たくて、おいしいですよ。口で説明してもわかりにくいですし、溶けてしまうのでまず一口いかがでしょう」
そういって、私に二つあるものの片方を渡すと、自分で持っているものの先端を口に含むうーちゃん。
溶ける……ということは、氷のようなものでしょうか? それにしては柔らかそうですが……そっと口に含む。
…………! これは!
「甘くて、冷たくて、口の中で雪よりも滑らかに解けて……! この風味は牛乳でしょうか! でもそれだけじゃなくて……!」
「バニラですよ。中世ヨーロッパでようやく輸入できた程度なので、リエさんの時代にはないものですかね」
「バニラ! すごいです! この甘い香り、私すごく好きです!」
はしたないとは思いつつ、もう一口、もう一口と進む手を止められません。
「あ、リエさん。あまり勢いよく食べると……!」
「う……頭が、急に痛くなりましたぁ……」
「……冷たいものは、一度にたくさん食べると頭が痛くなるものなのですよ。次からは気をつけてください。それと、クリームが口元に」
うーちゃんはそう言って私の口の端についたクリームをぬぐうと、そのまま自分の口の中へ。
「う、うーちゃん!?」
「ふふ、直接舐めた方がよろしかったですか?」
「ハンカチ持ってるんですからそれで拭けばいいじゃないですかぁ! もう!」
吸血鬼でも汗ぐらいかくんですから……第一、私の体についたものを口に入れるなんて不衛生ですし……。
いえ、その。それをふまえた上でなお、こんなことしてくれたのなら、その……うれしさと恥ずかしさが半々なんですけど……。
うーちゃんって、不審者さんのようにも、女の子のようにも、素敵な異性のようにもふるまうからずるいです!
「うーちゃんは、本当に私を敬ってくれてるんですか?」
「……ほんの二週間ほど前までは。今は、年の近い女友達のようにすら感じますが……二週間前とは異なる敬愛をあなたに抱いています」
ほら……こうやって、急にかっこよくなるんですから。
「……じゃあ、本当なんですか。私に対して……不純な感情を持っているっていう、二週間前のアレも」
「不純ではありません。愛しています、純粋に」
「~~っ! 真剣な顔で言わないでください!」
「冗談で口に出してはいけない言葉だということくらい理解していますので」
「あうぅぅぅ……そんなに言うと、本当に恋に落ちちゃいますよ?」
あまりの恥ずかしさに本音を少しだけ漏らすと、うーちゃんは一瞬だけですが、全身の動きを止めました。
止まった時と同様、唐突に動きだしたと思ったら、ソフトクリームをものすごい勢いで持つ部分まで食べてしまいました。
「……リエさん、屋敷に戻りましょう。大丈夫です、あの離れ、ましてやリエさんの部屋には私以外近づきませんから。どんなに大きな音が出ても大丈夫です」
「うーちゃん! 冗談です! 冗談ですぅ!!」
すさまじい勢いで車いすを押しだすうーちゃんに、本気で叫んでしまいました。
少しだけ注目されてしまいましたが、服は着替えておいたのでそれ以上のことはありませんでした。