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日本語って、難しいんですね……

 十分あたたまったので、お風呂から出て、体を拭き、うーちゃんの服を貸してもらいます。


「しかし、本当に回復が早いですね」

「そうですね、お風呂に入る前は肩を貸していただいて歩くのがやっとだったのに……お風呂のおかげでしょうか?」

「いえ、ただの水道水ですし、温泉だとしてもそこまで即効性があったらもはや霊泉です」


 ……胸の部分が余りますね。

 胸の部分が余りますね!


「あの、リエさん。声に出てます」

「……だって、本当に胸の部分が余るんです」

「分かりましたから。きっと栄養のある食事でもっと成長しますから」

「吸血鬼だから不老不死なんです……これ以上成長しません……」

「……そういうところだけは、伝承通りなんですね……」


 やめて……かわいそうな人を見る目で見ないで……うーちゃんと比べて胸が小さいのだけで十分傷ついているんです……追い打ちをかけないでぇ……。


「はぁ……うーちゃんの話を聞いて、学校にも行ってみたくなっていたのに……これでは、服を買ってもらわないと、サイズが違いすぎます」

「学校に、ですか……ちなみに、リエさん。日本語の読み書きはできるのですか?」


 …………。


「いえ、できないならできないって言ってください。そんな泣きそうな目で笑わなくても大丈夫です。日本の識字率が高くなったのも、江戸時代に寺子屋という学校みたいなものができていたからこそですし」

「ごめんなさい……長生きだけが取り柄です……」

「大丈夫です! 私の教材をお貸ししますので、小学校の勉強から始めればよいのですよ! 私も教えますから!」


 うう、なんか全部うーちゃんにやってもらってますね。ここまでお世話になってしまうと、本当に貞操くらいしかお返しできるものがないのでは?


「ただ……日本語は……難しいんですよね」

「難しい? どのようにですか?」

「いえ、アルファベットを使う地域なら二十六文字と、それの組み合わせでできる単語の意味を知っていれば、ある程度読み書きできるのですが……日本語には、五十音がひらがなとカタカナという二種類の書き方があり、さらに漢字というものがもう数え切れないほどあって。漢字だけは全部覚えなくても良いのですが、ある程度は覚えないと単語を理解することすら……ちなみに漢字には一文字で何種類もの読み方があるものもあって……リエさん。ごめんなさい。急に難題をぶつけてしまって本当にごめんなさい。だから静かに涙を流さないでください」


 ……私、あの離れでうーちゃんと二人っきりでいるのが一番幸せかもしれません。

 五十音ということは、五十個の文字があるのでしょうか。ひらがなとカタカナということは、合わせて百個あるのでしょうか。

 全部覚えなくていい漢字。数え切れないほどある中の必須の文字を覚えるだけでもどれだけかかることか……。


「…………こんなことなら、定さんに読み書きを学べばよかったです」

「千年前となると、江戸時代よりも前、平安の頃ですし……この家が栄えたのもリエさんがいらして何代かしてからなので、文字の読み書きができるかは疑問です。現代の日本語でしゃべれる理由が分かれば、文字も覚えられそうなものですが」

「私にもわかりませんからねぇ……学校はしばらく先でしょうか……」

「海外からの留学生ということにしておけば……いえ、それでも日本語の読み書き、会話が多少できなくては怪しまれるでしょうね。会話は問題ないですが、文字が分からなくては授業で遅れるだけ……それに、千年間の文明の進化をご存知ないということは、歴史もまたしかり……さきほど、神聖ローマ帝国の崩壊を初めて知られた様子からもそれは分かります……小学校レベルのものから、コツコツやっていくしか……?」


 うーちゃんが頭を捻っていますが、結局コツコツしかないですよねぇ……現代の人々がわざわざ段階を踏んでいるのですから、都合よく頭の中に全部たたき込むなんてできないでしょうし。


「うーちゃん。その五十音だけ教えてください! きっと小さな子向けの本はそこから始めているのでしょう? 漢字は……五十音を覚えたら、もう少し大きい子向けの本で勉強しますから! 歴史とかは、その後になりますが……とにかく、頑張りますので!」

「そうですか。わかりました。では、この後すぐにでも始めましょう。リエさんとの買い物を少しでも楽しむために。そして、ひらがなカタカナ漢字を現地で復習するために!」


 おお、うーちゃんが燃えています。熱血な先生ですね。と、くれば問題は、生徒である私がついていけるかどうかですね。


「よろしくお願いします、うずめ先生♪」

「……教師と教え子という関係も興奮しますね」

「隙あらば妙な方向に走っていませんか、うーちゃん?」


 よく分かりませんが、とりあえず悪い方向に向かっているのは分かったので、釘を刺しておくのでした。

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