一緒にお風呂~入浴編~
数分後、ようやく私に触れることを決断したうーちゃんに助けてもらいながらお風呂に入ります。
「あぁ、あったかいですねぇ……外は猛暑ですが、それでもお湯につかるだけでこんなに気持ちがいい。日本人は良い文化を持っています……」
脱衣所もエアコンが少し強めに動いていたので、余計でしょうね。裸でいると、少しですけど寒かったですから。
「私の故郷……少なくとも、私がいた時代にはこういったのは身近になかったですからねぇ。固まった体がほぐれていくのを感じます……はぁ~、気持ちいい……」
「リエさんの故郷って、何処なんですか?」
「あ、そう言えばお話していませんでしたね。神聖ローマ帝国です」
「……現代にはない国名ですね」
「え、滅んじゃったんですか? 神聖ローマ帝国」
吸血鬼というだけで追いかけまわされたので特に良い思い出もありませんが、母国がなくなったというのはさすがにショックです。
「リエさんの名前……ツェツィーリエ・ベヒトルスハイムという響き的に、ドイツの方だとは思っていましたが、まさかそこまでさかのぼるとは……」
「今はドイツっていうんですね。まあ、とにかくあの頃は兵士が傷をいやすための温泉があったくらいで、私吸血鬼ですからそんなところに行ったら殺されちゃいます」
「本当に……リエさんは吸血鬼伝承からは程遠いですけど、吸血鬼なんですね」
「今は吸血モードじゃないのでいたって普通の歯ですけど、吸血モードになると犬歯がのびて牙になるんですよ。実はさっき、あの三人に見せつけてやりました」
「ああ、それで退室の際に怯えていたんですね……」
お風呂という開放的な空間だからでしょうか。会話もどこかはずみます。
「そういえば、うーちゃん長くいてくれる日と、短い間いてくれる日がありましたけど、なにか仕事でもしているのですか?」
「いえ、私はまだ働いてはいません。高校に通っていたんですよ」
「……こーこー?」
「ああ、えっと……学校という、文字や学問を教わる場所があるのですが、そこに」
「現代ではそれが当たり前なんですか!?」
「日本では中学校までは義務教育となっていますが、高校からは自由ですね……そうか、リエさんの時代にはまだ学校と呼べるようなものはないですね」
中学校までは義務……中学校というのがどの程度かはわかりませんが、文字や学問を教わる、となると現代の人ってとっても頭が良いのでは?
「すごいですね……そんな教育を受けるだけのお金が用意できるなんて、皆さん大金持ちなのでは……」
「いえ、義務教育の範囲は無料ですよ。給食という、学校側で用意される昼食のお金は払わないといけませんが」
「え……それ、どういう仕組みなんですか? 授業料なしで教えてくれるような、変わり者の先生が大勢……? でもその方たち、いったいどうやって生計を立てて……?」
「えー……現代社会では、税金というものがあります。昔もありましたけど、現代では特権階級のためだけでなく、一般にも使われるようになりました。義務教育の学校に勤める先生は、そこからお金をもらっているので、生計は成り立ちますよ」
やっぱり、千年というのは長すぎる時間ですね。私の知らないことだらけになっていて、別世界のようにすら思えます。
「まあ、少なくとも日本では特権階級のために結構さいてしまうこともあるのですが」
「身分制度はまだ残っているのですか?」
「国会という、国全体のことを決める場に立つ、少なくとも表面上は一般人に選ばれた議員、これが現代日本では特権階級でしょうね。もちろん、悪いことをすれば逮捕されて、罰せられますが……扱いが違いすぎることもあって、一般人としては戸惑うばかりです」
「こんな広い家に住んでいるのは十分特権階級では……?」
「私だけはその輪の外に出されていましたから」
それでも一般の人から見たら十分すごいところにいると思うのですが……と、いう言葉を飲み込んで。
「うーちゃんはその輪の中に入れました。それが良いことなのか、悪いことなのかは良く分かりませんが」
私がそう口にすると、うーちゃんは少し考える様子を見せました。
「……ただ、気をつけてください。次期当主にしか言えないような後ろ暗いことをしているのです。リエさんが眠っている状況があの人達にとって好ましいのなら、何をしてきてもおかしくはありませんから」
「そうですね。そこは気をつけます」
血縁だけの家族……そんな言葉が、うーちゃんの家族を指す言葉に表れていますね。
今から本当の家族になるのも難しいことですが……いいえ。時には、肉親であっても分かり合えないと気はありますよね。家族関係には、下手に口出ししないでおきましょう。
「うーちゃんのためにも、私はどうかされるわけにはいきません! よーし、頑張るぞぉ!」
意気込んで、体に力をこめる。
すると、目線の位置が上がりました。
「……リエさん、さすが吸血鬼。すさまじい回復速度です」
「立てちゃい、ましたね……あはは」
なんということはありません。ただ、弱った体が少し元に戻ったというだけ。
それだけなのに、なぜだか面白くて。
座り直して、しばらくうーちゃんと笑いあうのでした。




