一緒にお風呂~準備編~
改めて厨房に入っていったうーちゃんがコーヒーと軽食を持ってきてくれたので、それに舌鼓。あのコック長さん、若いのにすごい料理お上手ですね……。
そして、来た道をそのまま戻り、玄関から中へ。
「涼しい……外の空気は暑すぎますね」
「お疲れ様です。汗をかいたのなら、シャワーを浴びてはいかがでしょう? あるいは、お風呂につかるか……」
「お風呂! いいですね、日本に来てすぐの頃、少しだけつかったことがありますが、こんなに気持ちのいいものかとびっくりしたものです」
千年前といっても、私にとっては眠り続けただけですから、つい最近のようなもの。お風呂の気持ちよさは、しっかりと覚えています。
「では、一緒につかりましょう。うちのお風呂は大きいので、四人とか、五人くらい普通に入れますからね。それに、介助がないとリエさん、まだちょっと危ないですし」
「変なことはしないでくださいね?」
「もちろんです。愛とは押し売りをするものではありませんから」
あっ、やっぱり愛ってそういう意味での愛だったんですね……。
そう口には出せず、私はうーちゃんに押されてお風呂場へ。
「そう言えば、私って着替えがないですよね。お洋服、どうしましょう……」
「今日は私の服で我慢していただくしか。明日になれば使用人たちにも話がいくでしょうから、車を出してもらって、買い物に行きましょう」
うーん。うれしいのですが、車いすも買ってもらって、服も買ってもらって、リハビリに介助に……私、うーちゃんにお世話になりっぱなしですね……。
「何か、恩返しができればよいのですが……」
「心配いりません。私は、こうしてリエさんと語らえるだけでうれしいですから。それに、家族からの扱いを改善してくれたではないですか。お金のことは、両親からの気持ち程度の小遣いなので、何も気に病むことはありません。明日買い物に行くなら、お金を出させましょう」
「まあ、私と一緒なら断られることも無いでしょうね」
過剰な脅しは禁物ですが、これだけの屋敷を建てているのです。うーちゃんにちょっとお小遣いを渡させるくらいなら、何の問題もないでしょう。というか、それもまたうーちゃんの待遇改善の一種ですし。
「しかし、本当に大きなお屋敷ですねぇ。周りを押してもらいながら見ていましたが、私が日本に来る前に住んでいた場所の、貴族のお屋敷くらい大きいですよ」
「それは……まあ、リエさんのおかげというか」
「それ、リハビリの時も言っていましたね」
たしかに、私はこの家に取って永久女様、などと仰々しい名前で呼ばれるほどの存在。でも、なぜそんな扱いを受けるのかはうーちゃんにもわからないらしく。
ただ、天野の家にとっては、眠っている私はそれだけで益になる、らしいです。
いったい、眠っている私は何をされていたのでしょう。おかしなことでなければよいのですが……。
「ここが浴場です。さあ、リエさん……ぬ、脱がしますし、脱ぎますよ?」
「……本当に、おかしなことをする気はないんですよね?」
「手は出しませんが、それはそれとしてお慕いする方の裸体は眼福ですから」
「そ、そうですか」
若干どころではない緊張を感じつつ、でも結局服を脱ぐにはうーちゃんの介助がないとできないので、なすがままです。
「リエさん……本物の美人は、余計な装飾など不要とその身をもって証明していますね」
私の服を脱がし終えると、うーちゃんはそんなことを言いました。
「……うーちゃんの方がおっぱい大きいじゃないですか。それに、目覚めた時に言ったでしょう? 少なくとも、私から見てうーちゃんだって美人ですからね」
小声で言いましたが、二人しかいない脱衣場ではしっかり聞こえたようで、少し照れながらうーちゃんも服を脱ぎました。
「そこに鏡がありますけど、ほら。こうしてリエさん自身のプロポーションも見ながらだと、全体的にはリエさんの方が均整が取れていると思いませんか? 胸が大きければよい、というわけではないんです」
「……それでも、うらやましいものはうらやましいです」
まあ、私が眠る前はまだあまり贅沢できなかったので、おっぱいが大きくならなかったのも仕方のないことなのですが……。
「さすがにお風呂までは車いすでは無理ですよね。うーちゃん、肩を貸してください」
「…………」
「……? うーちゃん?」
「ちょっと待ってください。その白磁の肌にお互い裸で触れる、という状況に心の中の天使と悪魔が暴走しているので」
「…………」
言葉を失う時は今でしょうね、多分。
不安に思いながらも、とりあえずうーちゃんに介助してもらえないとどうしようもないので、裸のままうーちゃんが決断するまで待ち続けるのでした。