神界(ディオ)
「いつまで私の膝の上にいるつもり?」
「あぁ、すいません。アテーナ、さん。」
やっと、身体が動く。
今まで辛かったのに、不思議なくらい疲れが取れた気がする。
「……」
「アテーナでいい。」
「そ、そうですか。」
とりあえず、この人に頼るほかない。
幸い言葉とか通じそうだし。
「ニホン、だったね。」
「え?」
「レオの出身地。」
「あっ、はい。」
「どこにあるの、そのニホンというのは。」
どこって言われてもなぁ。ここがどこか分からないし。
アテーナーがあのアテネ関係してるとすれば…
「きょ、極東の方に。」
「ほう、極東か。」
伝わった!
ということはここはヨーロッパ、
アテネがあるのは…ギリシャか!?
「あのー、ここはどこなんですか?」
「ここ? 神界だけど。
それも知らなかったの?まぁ、人間が来るところではないわね。」
「神界!?ということは、アテーナも?」
「おい! そんなことも知らずに今まで私に接してきたのか!」
「ヒィッ!」
「なんてね。冗談冗談。 ……、私も直接人間とこう話すのは初めてだから、どう関わればいいか分からないのはお互い様ということで。」
「ほんとは極東の神を紹介できたらいいんだけど、あいにく顔見知りは少なくてね。」
「俺はどうすれば…。」
「……しょうがないなぁ。アプロディーテのところにでも行こうか、レオ。
何か、手がかりがあるといいけど。」
「アプロディーテ?」
「美と豊穣の神よ。」
「どうして美と豊穣?」
「知らない。でもそういう神として生まれてきたんだから、仕方ないじゃない。」
「そういうことじゃなくて、えっと、他の神様じゃなくてどうしてその神様なのかと。」
「彼女が一番話が分かるから。ただそれだけ。
死者の神や私のような武神に相談したって何にもならないでしょ?」
神、神ってここには普通の人間はいないのか。
まぁ神界って言うくらいだからなぁ。
これからどんなファンタジーが始まるんだぁぁぁ!
なんかもう生きてる心地しないわ…。
悩んでも仕方ないけど。
何がなんでも帰還策を見つけないとな。
「そうそう、レオ。
君どうやってここに来たの?」
「それが分かっていれば困りはしませんよ。」
「普通、神界に人間は立ち入れない。半神半人の英雄さえ、ここに来れるのは少ない。
私だって直接人間を見たのはレオが初めてなんだから。」
だめだ。どんどんこの状況についていけない。
半神半人ってなんだよ!
ヘラクレスか!
って、それはギリシア神話だわ!
あれからかれこれ20分ほど道無き道を歩き続けている。
建物一つ見当たらない、人も通らない。
やっと落ち着いて周りを観察できる余裕が出てきた。
周りを見渡す。
雲一つない青空と緑、剥き出しとなった赤土色の岩に囲まれた、何というか自然豊かな土地には間違い無いが、壮大すぎて言葉が出ないほどだ。
よくよく考えたらこんな美少女と2人で…。
いやいやそんな悠長なこと考えている場合ではないのは重々承知なんだが。
「そろそろよ。」
海が見えてきた。海だよな、これ。
なんか絵に描いたように美しすぎる。
不安になってきた。
ずーっと岩礁が続いている。
「この辺のはずなんだけどなぁ。」
本当にこんなとこに神がいるのか?
一見何も無いんだが。
アテーナは一心に探している。
「ニケ!いるんでしょう? 出てきてちょうだい。」
「ハイハイッ。このニケ呼ばれて参上いたしました!」
「アプロディーテを探してるんだけど、手伝って。」
「了解であります!」
「よろしく。」
急に変なの現れた。
なんだあのちっこいの。
翼生えてるし、天使?
「ここかなぁ。いや、こっちかなぁ。アプロディーテ様〜!あ、あっちかも!」
なんかドジっぽいな。
アテーナも手伝ってと言っておきながら、完全に任せてるんだけど。
「なぁ、アテーナ、アイツ、大丈夫なのか?」
「大丈夫、あれでも一人前の神なんだから。」
「へぇー。
急に出てきたけど、どっから出てきたんだ。」
「ずっと一緒にいた。ただ姿隠してただけ。」
「マジか。」
つまりアテーナと2人きりではなかったと。
なんかちょっとショック…。
舞い上がってた自分が恥ずかしい。
「この神界にはどれくらい神様達がいるんだ?」
「私もよく知らないけど。ただ私達一族の神だけでなく、ゲルマンやエジプトからレオの故郷、極東の神々もいるって聞いてる。」
「そして私達神々は、人間界の均衡をはかるという存在としてこの神界にいるんだけど。
だから、昔は人間と交わる神も多かった。
今でこそ人間への積極的な関わりは控えるようされているけどね。」
「じゃぁ、その人間と関係を持っていた神なら、その…なんだ、人間界に行く方法も…!」
「えぇ、きっと分かる…。けれどー」