第二話 黒い目の少年
しばらく目次とにらめっこしていた俺を横から眺めていたスティが、ふいに本に手を伸ばしてきた。
「読めないだろ。俺も正直なんて書いてあるのか読めないんだよ。」
スティはページをめくっていく。
…てかお前も読めなかったのかよ。
「ユウもここなら読めるだろ。」
そういってスティは本の一ページを俺に見せてきた。
書かれていたのは、地図だった。
しかも、どこかで見たことのある地図。
「…ってこれフラリスクエストの地図と同じじゃねーか!」
一部知らないところもあったが。
「それじゃ、そのフラなんちゃらはこの地図を参考にしたのかもな。いや分からないが。」
てことは属性とかそんなのも同じってことか?
もしそうだとすると、俺は何属性なんだ?
「なあ…もしかして、属性とかってあるのか?」
スティは驚いた顔を一瞬見せた。多分、スティのことも知らないやつが属性に関しては知っていたのかとかそんなんだろう。
「ああ、あるにはあるぞ。教えると長くなるが…。」
「大丈夫だ。俺の知識と全く一緒だったと思ったら切るから。」
「わ、わかった…。」
スティは目の前にホワイトボードを出した。
「これは…収納魔法?」
「いや、転移魔法だな。んじゃ説明するぞ。」
そういってホワイトボードに手を置くと、一瞬で文字や図が出てきた。
「これは…分からん。」
「印刷魔法。…属性は、全部で5つあるんだ。」
「火属性、水属性、風属性、光属性、土属性か?」
ゲームの知識で答えていく。
「正解だ。その様子じゃ、それぞれ何が得意かも分かっていそうだな。」
「それは…属性魔法の事か?それだったら分かるが…。」
俺が言うと、スティが満足そうに頷いた。
「そこまで分かってたら大丈夫だ。」
「あ、でも俺の…。」
属性は何かわからないんだけど、という前に、スティはホワイトボードをその場から消した。
そしてそのままキッチンに向かっていった。
どうやら授業はおしまいの様だ。残念、けどまあどこかのタイミングで聞けばいいか。
食事の途中。スティは急に俺に訪ねてきた。
「ユウは将来何になりたいんだ?」
「何って…けいさt、じゃなくて。」
ついいつもの調子で言いそうになった。危ない。
「そりゃあ…冒険者だろ。」
「分かるぞ、その気持ち。」
どこに共感したのか分からないが、スティは納得してくれた。
この様子だと冒険者、なれそうだな。
「てことはあれか?剣とかの練習を…。」
「しないといけないんだが、どこですればいいのやら。」
俺は派手に悩むしぐさをする。
なんでこんなことをするかって…どうせだったら勇者さんに教えてもらった方がいいんじゃないか、というよこしまな考えがあるからだ。
「じゃ、俺が教えてやろうか?俺だったら剣を作ることだってできるし。」
してやったり。しかも特典までついてきた。
「お願いします。…属性魔法はどうしたらいいんだ?」
大体のこと、というか属性魔法以外はスティに教えてもらえば十二分だろう。
ただ、問題は属性魔法だ。
スティは目の色からして火属性だろう。ただ、俺の属性が全く持って分からない。
「属性魔法なら心配しなくても大丈夫だぞ。基本は元々出来るようになっている。そっからどう伸ばしていくかは、練習次第だな。」
それはよかった。
―――いや良くないぞ。結局練習しないといけないじゃないか。
「そもそも、俺はお前の属性がわからない。」
打つ手なくなったじゃねーか。
「どーすんだよ、それじゃ。」
「どうやったら伸びるかは自分が一番わかっているはずだ。」
身も蓋もない事を言うんじゃねーよぉぉ!
ま、駄々をこねても仕方がないので、暇なときに考えることにするか。
「ま、今日は明日に備えて早く寝るんだな。」
「明日何をする気なのかは…聞かないでおくよ。」
「楽しみにしておいてくれ。」
…残り少ない今日という娯楽を精一杯堪能するか。
夜。一人で住むには広すぎる家だとは思っていたが、やっぱり空き部屋は大量にあったようだ。
簡易ベットを作ってもらい、今日はもう寝る…わけがない。
早速、属性魔法について考えようじゃないか。
そこら辺にあったペンと紙を取り出して、題名を書く。
そして下に、とりあえず今知っている属性を書く。ついでにその属性魔法も。
とりあえず、それぞれの属性魔法を片っ端からぶっぱなしていこうと思う。
出来ないとは思うが。
10分後。
「とりあえず…この中のどれでもないことはよくわかった!」
誰もいない部屋で叫ぶ。まあ、この辺りは森だったので人という人はスティしかいないと信じていたからそこできたんだが。
結果から言うと、何もできなかった。そもそもどういう感覚でやればいいのかすら分からなかった。
なんなんだろうな、俺の属性。目の色からして土属性が近いかと思ったが、それも全くできなかった。
今のところこれ以外に確かめるすべのないので、寝ることにした。
いや、本当に何なんだろうな、俺の属性。
「…寝たか。」
その頃、スティは【受動検知】をフル作動させていた。
「さっき急に叫んでいたからバレたのかと思ったが、そうでもなかったようだな。」
軽くため息をついた後、スティは窓の一つを全開にした。
そして、しばらく目をつぶっていたが、ふいに目を見開いた。
『…聞こえるか、国王さん。』
『聞こえているぞ、スティーバー。今日は何だ?』
定期的に連絡を取っているのか、随分と砕けた言い方だった。
『今日、黒い瞳を持つ少年を拾った。』
『ものみたいな言い方して…は?』
『驚くのも無理はない。俺も隠せなかったからな。』
スティは窓に向かって頷いていた。はたから見れば変な人だ。
『てことは、ついに現れたってことか?』
『断定はできないが、可能性がないわけでもない。』
『どうすれば…。緊急警戒態勢を組めばいいのか!?』
少々パニックに陥った国王は口調が荒くなった。
『落ち着け。とりあえずしばらくはこちらにとどめておくことに成功した…というか、本人がそうしたがっている、ていう感じだな。』
『といいますと?』
『既に【思考操作】が使えるようになっている。本人は無意識の様だがな。』
『危ないじゃないか!大丈夫だったか!?』
国王は余程動揺したのか、連絡が途切れてしまった。すぐに回復したが。
『すまない。取り乱してしまった。』
『大丈夫だ。幸い、こちらと意見が合致していたし、操作力は微量だったからな。要望がテレパシーで送られてきたようなもんだったぞ。』
『そこは【魔法連絡】じゃないのか…?』
呆れ具合が声のトーンで丸わかりだった。
『まあ、くれぐれも気を付けてくれ。また何かあったら連絡を頼む。』
『分かってる。』
こうして、夜は更けていく。
これからは、できるだけ毎週水曜日に投稿できるように頑張りますが、事情より予告なしで遅れるかもしれません。ご了承くださいませ。