①届いた一枚のメッセージカード
『親愛なる魔女ルシェリへ
これから会いに行きます
貴女のネムより』
郵便受けに入っていた一枚のメッセージカードを見た私は思わず眉をひそめた。
「何これ? いたずら?」
一応裏面も確認してみるが、真っ白で汚れひとつ付いていない。
再度、メッセージの書かれた表面を上にする。普通の黒インクで書かれたメッセージ以外、特に押印などもない。
もしこれが郵便として届けられたのなら、どこかに受付印があるはずだ。
それがないということは、このメッセージカードは郵便物として届けられた物ではないということになる。
郵便物でないのなら、このメッセージカードは誰かが直接投函したか、あるいは魔法で送ってきたのだろう。
「いたずらにしては手が込んでるわね」
私の家は山奥にポツンとある一軒家だ。
もともと廃屋になって打ち捨てられていたのを魔法でちょいと手を加えて、そのまま住み着いている。二階建てのログハウスで、開けた場所にあるので日当たりも良く、私としてはけっこう気にいっている。
ただ、この家へ来るには獣道を延々と歩くしかないので、立地は悪い。
私はホウキで空を飛べるから不便はないが、たまに郵便物を持って来る配達人は全身汗だくで家に着く頃には息も絶え絶えだ。
そして一息ついて、さあ帰ろうとなった時に晴れやかな顔が一転絶望に染まり肩を落として帰って行く。
そんな場所にわざわざメッセージカードをいたずらで入れに来る酔狂な人間はまずいない。
ーーということは、このメッセージカードはおそらく魔法で送られて来た物なのだろう。
その証拠にメッセージカードに意識を集中させると、わずかに魔法を使用した痕跡があった。
「魔法を使ってまで、こんないたずらする奴は一体何処のどいつよ!?」
メッセージカードに書かれた差出人の名前を睨み付ける。
「この『ネム』って誰よ? そもそも『貴女のネム』って何? 私は誰の物でもないわよ!」
そのままメッセージカードを破り捨ててしまいそうになる衝動を何とか抑え、私は未だ荒ぶる心を静めるため、ひとまず台所へ向かいお茶を淹れることにした。
水を入れたヤカンを火にかけ、沸騰するまでの間にティーセットと茶葉を用意する。
ティーセットは、数年前の蚤の市で一目惚れして、値切りに値切って手に入れた一品だ。白を基調としながらも淡い色彩で描かれた花が美しく、見た目も優雅で高級感ある作りが嬉しい。
お気に入りのティーセットを眺めていたら、ふとたまには高級な茶葉でお茶を淹れたくなり、いつもの茶葉を置いた棚ではなく、普段使わない戸棚を開ける。
間違って飲まないよう、戸棚の奥の方に隠してある高級茶葉を取り出すため、手前の物を一旦退かして高級茶葉の缶へ手を伸ばした時、同じく普段は奥の方に隠されていて見えなかった子供用の食器が目に入った。
その瞬間、心の奥底に鍵を掛けて閉じ込めていた記憶が私の中を一気に駆け抜ける。
「……思い出した」
ネム。
それは十年前に気紛れで拾い、二年間だけ育てて自己保身のために死ぬと分かったうえで手放した養い子の名前だった。