#6-任務
皆さんお待ちかね、同時刻ピタゴラースギルドハウスの女性寝室。
燐寧、エミィ、メミル、三人共風呂を上がり既に寝巻きに着替えていた。
「--いや〜我ながら今日のミネストローネは上手く出来たと思ったんだよね!どうだった?美味しかった?」
料理担当のエミィが二人に聞く。
エミィは饒舌ゆえ、女性団員同士で会話をする時、そのうちの半分ほどは大体彼女が口を開いている。
「えぇ、とても良かった。元々エミィちゃんの作るものは美味しいけれど、更に腕が上がったんじゃないかしら?」
「あたしもそう思う!毎回ご飯楽しみだもんなぁ」
二人は口々にエミィへ返答した。
「えへへ、そっか!やっぱそう言ってもらえると嬉しいもんだね」
「嘘じゃないからな!ほんとにあんたの料理美味いよ」
照れる彼女にメミルがダメ押しを掛ける。
「うん、わかってる。うちとブルーノの作る料理を食べてくれるメミルんとりんりん達の表情、いつも幸せそうだからこっちまで嬉しくなっちゃうよ」
「ふふっ、しっかり見てくれてるのね、嬉しいわ」
エミィの言葉に燐寧は微笑んだ。
りんりんというのはエミィだけが使う燐寧のあだ名。
「けど、いいなぁ〜。料理が出来るって、やっぱり女としては憧れるよな」
メミルはそんな言葉をつい発した。
「なになに、メミルん料理興味あるの?教えたげよっか?」
「え、ほんと?」
彼女はエミィの提案に目を見開く。
「もーちろん!恋愛成就にも、胃袋掴むってのは大事だしね!」
「……へ?」
「あら、その話出しちゃうの?」
楽しそうに、また悪戯に笑うエミィと燐寧に対し、今度は目を丸くするメミル。
「この際、料理マスターしてユンボのハート掴んじゃいなよっ」
エミィは悪戯な表情のまま、メミルへ身を寄せた。
「……っ!!は、はぁ〜〜!?」
「うふふ、その反応だと勘付かれてないかと思ってたかしら?」
顔が紅潮していくメミルに、燐寧は微笑んでいた。
「か、勘付くも何も、そ、そんなの、え!?はへ!?」
「あはは、何をそんな動揺してるんだし〜〜」
「少なくとも、私達にはお見通しよ?男性諸君はどうか分からないけれど……」
観念したのか、メミルは少し俯く。
「……いつから……?」
「そうだね〜、なんか徐々にかな!二人は同期だし、それに何となくユンボと話してる時のメミルん楽しそうだなって思ってさ」
「いつも私達の前で披露してくれるじゃない、夫婦漫才」
「め、夫婦って……っ!!」
メミルの顔が再び赤くなっていく。
「観念しなって!明日から料理教えたげるから!ビシバシいくからね〜」
「わ、わかったよ……!で、でも他のやつに言うなよ!?恥ずかしいんだからな……!」
「分かってるわよ。女の子だけの秘密、ね?」
「でも応援はめっちゃするからさ!」
「……あ、ありがとう……っ」
「うふふっ」
「へへ〜っ」
顔の赤みが取れず、恥ずかしさからか俯きがちになるメミルに対して、全く目を背けず笑う二人。
「じゃあ私も何か男性ウケのいいお料理でも教授しようかしら!」
「……い、いや……っ!料理はエミィに教わるから、その、燐寧には他の女の子らしさ貰おうかな……!」
「あら、そう?」
「あはは、でも面白そうなのに」
「面白くねーよ!」
提案をそれとなく却下される燐寧、その内容を面白そうに煽るエミィ、そしてそれを威勢よく突っ込むメミル。
余談だが、燐寧はその独特な味覚と調理センスにより、料理担当をやんわりと降ろされた過去がある。
__________
それから三日ほど経った日の午前。
朝食前、ピタゴラースの面々は広間に集まり卓を囲んでいた。
ちなみに、メミルもエミィに教わりながら少しずつ炊事の準備に携わっているが、なかなか上達の兆しはないようだ。
さて、結局ほとんどをエミィとブルーノが担当した朝食を、皆の前に運び終えられた時点でガストが口を開いた。
「朝飯の支度が出来たが、頂く前に一つ話したい。今日のことについてだ」
「どうしたの?団長改まっちゃって」
「仕事の話かな〜?」
「大事な話みたいだね、ガスト」
エミィ、剣人、セルトがそれぞれ反応する。
他の面子もガストへ視線を寄せた。
「あぁ、その通りだ……。うちのギルドへ、任務の依頼が入った。どうやら少し離れた場所にある村の管轄で暴れている連中がいるようなんだが、そいつらの正体もまだ掴めてないみたいでな。民間では限界があるとのことで、調査して欲しいとの依頼だ」
「……魔都の人間かしら」
彼の話した内容から燐寧が推測をする。
「……分からない。だが、その可能性も十二分にあると思う。だからこそ慎重に調査していきたい。全員、把握してくれ」
ガストが返した。
「分かった」
「分かったわ」
セルトと燐寧がそう返事したのを筆頭に、ギルドの面々は皆一様にガストへ任務遂行への意思表明をしてみせた。
この様にこの世界のギルドや戦士は、民間人からの任務の依頼等が入ることもあり、その依頼人からの報酬もまた彼らの活動費や蓄えとなる。
ガストはピタゴラースの仲間と共に朝食をとりながら、任務の詳細と動き方や陣形を説明した。
その内容によると、メンバー8人は今回2つのチームに別れてそれぞれ行動をすることになった。
「まずチームAは、俺ガスト・ガスパール、ピンランド=ブルーノ、トナルド=エミィ、まで考えたんだが……」
そこまで言葉を紡いだガストは、ちらりとユンボを見遣り、また口を開く。
「ライラボットは、ヴァーミリアと同じチームの方がいいか?」
もう一度言うのだが、ガストはこの手の感情にとても疎い。
あまりの不意打ちに、ユンボは慌てふためいた。
「……っ!?はっ、え!?な、な、なんで!?」
周りも一瞬場の空気の流れが止まったが、すぐにニヤつき出した。
そして少し遅れて、メミルの顔もみるみるうちに赤くなっていく。
次の瞬間、彼女は燐寧とエミィの方へと振り向いた。
「燐寧!エミィ!!あんたらまさか……!!」
「うちらはなーんも話してないよ」
エミィが答えた。燐寧も同調の意として、微笑みながら頷く。
それを見たメミルは紅潮した顔のまま困惑する。
「じゃ、じゃあどういう…!?」
そこへ不意にセルトが声を上げる。
「俺は、ユンボとメミル同じチームにすればいいんじゃないかな〜って思う」
剣人とブルーノも便乗する。
「いいね〜その方がバランスもいいんじゃない〜?団長〜」
「何だよいい感じじゃんか二人とも!」
それを踏まえて言葉を発するガスト。
「ふむ、女性陣はどうだ?」
「うちも賛成!」
「えぇ、私も構わないわ」
エミィと燐寧も異議なしの表明。
「では、当の本人達はどうだ?」
ガストは最後にユンボとメミルへ目を向けた。
当の二人はつい押し黙ってしまう。
そして互いが互いをチラリと見やった。
「……あ、あたしは……ユンボさえ良ければ、全然……」
「は、はぁ!?何だよそれ気持ちわりぃな……!!」
「じゃ、じゃああんたは嫌なの……?」
「そ、それは……別に……いい、けどよ……」
ユンボもメミルも相も変わらず顔の紅潮が引かない。
中々に初々しい。
「決まったみたいだよ、ガスト」
二人の様子を見て、ニヤつきながらセルトが声を掛けた。
ガストはそれに答える。
「そのようだな。ではチームAは俺と、ピンランド=ブルーノ、トナルド=エミィ、轟 剣人の四人でいく」
「ういよ!」
「はーいっ」
「は〜い」
名を連ねられたブルーノ、エミィ、剣人が返事をした。
ガストがもう四人へも言葉を発する。
「ではチームBは、セルト・ティルアノ、涼香 燐寧、ライラボット=ユンボ、メミル・ヴァーミリアの四人となる。いいな?」
「OK」
「えぇ」
「ま、任せろ」
「……がんばる」
こちらもセルトと燐寧とユンボとメミルが、それぞれ返事をした。
「チームAの指揮は俺が執る。チームBの方の指揮は……ティルアノ、頼んでもいいか?」
「あぁ、頼まれるよ」
そのガストとセルトの会話で、両チームの体制は決まった。
メミルがふと顔を上げれば、向こうにいるエミィがこちらにウィンクをしてくる。
メミルは満更でもないものの、簡単に弱みを見せたくない意地でそれを威厳なく睨み返していた。
そして燐寧もメミルに近寄ってくる。
「上手くやるのよ。私も近くでサポート出来ることあったらするからね」
「う、うるさいなぁ……!でも……ありがとう……」
メミルはそう返すと、照れ隠しか、またふいと余所を向いてしまった。
「では皆が飯を食い終わり次第、任務遂行の出発準備に取り掛かる!俺はもう食い終わった!ご馳走様!」
ガストはそう言って自分の食器を洗面台へと運び、そこで仁王立ちをしている。今日の洗い物担当は彼なのだった。
to be continued……