#5-ギルド
カツンカツン……
神聖な空気の流れる、高貴な白の床と壁に囲まれた広い空間に靴の足音が響く。
「カリブラーニャ=サナ、只今帰還致しました」
足音の主はサナだった。
そしてここは、聖王都イェモンダムシティの王宮。
「うん、ご苦労だったカリブラーニャ」
そう彼女に声を掛ける男性。
宝石が軽く散りばめられた装飾の、寸分も狂わぬ採寸が施されたスマートな白銀のスーツに身を包んでいる。
彼は広い空間の奥底に据えられる玉座に堂々と座していた。
「お気遣いの言葉、有難うございます」
サナは静かに頭を下げながら言う。
玉座の両横には、顔を含める全身に大きな黒い布を纏った凄みな雰囲気の背の高い男性がそれぞれ一人ずつ立っている。
玉座に座った男性はその彼らに声を掛けた。
「うん、君ら一旦下がっていてくれないか。僕はカリブラーニャと少し大事な話がある」
そう命令された二人は、玉座の主へ会釈をすると別室へと下がっていった。
「……うん。して、どうだった?今回転生してきた彼は別格転生だったんだろう?」
「はい。私自身直接腕を交えましたが、柊 自己……1000000人目……。なかなか期待を見込める魅力がありそうです」
「なるほどね。君がそう言うならそうなんだろう。1000000人目ってことは、最強の絶対的候補である別格転生ももう七人目。うん、楽しみだなぁ」
「彼はきっとここに来るでしょう。聖王であるキャンベル様の元へ」
「うん、期待してるよ。1000000人目には……」
聖都最高権力者である聖王キャンベル・チェロティザスターは玉座の肘掛に頬杖をつきながら、そう呟いた。
__________
とある山林。
「待て!!聖の刻印ねーんだろお前!!」
「何だよそれ!!何のことだ!?」
青年が黒いローブを纏った小柄な男を追っている。
「今の言葉で確信した……!!魔都の人間だなお前……!!」
「だったら……!!だったら何だよ……!!」
「魔都の人間は逃がさねえ……!!」
そう言うと、青年は黒いローブの男の前へ躍り出た。
「うおぉっらあぁ!!!」
ザンッ……!!
そしてとうとう、彼はローブの男に正面から大きく斬撃を浴びせる。
「ぐっ……あぁ……!!」
斬られた男は小さく断末魔を上げると、そのまま倒れ、動かなくなった。
すると山林の奥から、その現場へ少女が現れる。
「大丈夫か、ユンボ!」
少女は青年の男……ライラボット=ユンボへ、そう声を掛けた。
「あぁ、なんとかやってやった……。ったく、お前がこいつを取り逃した時はどうなるかと思ったぜメミル……」
遅れて登場した少女は、メミル・ヴァーミリアという名だった。
「っ、ごめんってば……!」
「魔都の人間は生かしておいてはいけないって、聖都からの伝令だろ?」
「ま、まぁ、現にこうやって殺せたんだし、結果オーライじゃんか!」
「俺のお陰でな!!さ、ギルドに帰るぞ」
そして、メミルとユンボは山林を後にした。
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場面は小規模の建物へ。
「帰ったぞー」
「ただいまー」
二つの声を聞き付けて、屋内の奥から複数の男女がパタパタと玄関へ駆けてきた。
「おかえり〜ユンボ〜メミル〜」
「どうだったん?魔都の人間はいたんか?」
それぞれがユンボ、メミルに声を掛ける。
どうやら、この建物の中で同じギルドの仲間同士として、共に生活をしているようだ。
「あぁ、ばっちり退治してやったぜ!」
ユンボがそう歯切りよく答える中。
「は、ははは……」
メミルは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
「まぁお前がしくじらなければ、もう少し早く帰ってこられたんだけどな」
「うるさいな!ここで蒸し返さなくてもいいだろ!」
二人が顔を見合わせて言い合う。
そんな彼らを、少し口角を緩めながら見守るその他の面々。
そのうちの一人、男性団員のセルト・ティルアノが声を掛ける。
「まっ、あとは部屋でゆっくり聞かせてくれよ!二人とも疲れたろ、早く上がりな」
このギルドハウスには部屋が5つある。
男性寝室。
女性寝室。
風呂。
トイレ。
そして他より少し大きめの間取りの広間。
メンバーは全員、その広間に集まった。
そこには人数分の座布団が置かれており、一番奥の一際大きい座布団には男性がじっと胡座をかいていた。
「ガスト!ユンボとメミル帰ってきた」
その男性にセルトが声を掛ける。
「おう……おかえり」
そう返事をする、座布団に鎮座したガストと呼ばれた彼はこのギルドのリーダー、ガスト・ガスパール。
ガタイが良く、寡黙で頼れる男だった。
そのまま流れるように、ギルドの団員達は各々の固定位置である座布団にそれぞれ全員、腰を下ろす。
皆が座り終えた頃合いを図り、女性団員のトナルド=エミィが悪戯に笑いながら切り出す。
「で?メミルはまた何かやらかしたの?」
ユンボがすぐさま答えた。
「そうなんだよ、こいつの目の前に怪しい奴が現れたから、聖都の刻印あるか確認しようとしたら逃げられたんだと!俺がその後追いかけて斬ったから良かったもののよー」
「なんで帰ってきて早々あたしは公開処刑されなきゃいけないんだ……!」
「まぁまぁ、いつものことじゃん」
嘆くメミルにセルトが突っ込むと、一同に笑いが起きた。
この和ましい雰囲気のギルドの名前はピタゴラース。
団員は全部で八人。
【ガスト・ガスパール】
男性、26歳、ピタゴラースの団長。
あまり多くを語らないが、その頼れる背中を団員は追いかけている。
【セルト・ティルアノ】
男性、25歳、ピタゴラースの副団長的存在。
無口なガストに代わって、団員のまとめ役を買って出ることが多い。
【涼香 燐寧】
女性、23歳、ピタゴラースの女性団員の中で一番の名手。
ギルドの様子を物静かに微笑ましく見守っている。
【ピンランド=ブルーノ】
男性、23歳。
独特な口調をしているピタゴラースのムードメーカー。
【トナルド=エミィ】
女性、22歳。
明るくお調子者で、服装や外見に気を遣うタイプ。
【轟 剣人】
男性、22歳。
ゆったりとした雰囲気を流す好青年、あまり表情を崩さないが割とノリ自体はいい方。
【ライラボット=ユンボ】
男性、21歳。
ピタゴラース一熱い男と言われる通り、とにもかくにも行動派。いじられキャラになりがち。
【メミル・ヴァーミリア】
女性、19歳。
ピタゴラース最年少で、何事も一生懸命なのだが空回りしがち。ユンボよりもいじられキャラ。
以上の八人で、今日はメミルとユンボが行った見回りの様子を会合していた。
が、その内容の七割ほどは、その二人の掛け合いを面白可笑しくその他の六人が見守るというものになった。
この世界にはギルドが幾つも立てられており、その中でも聖都寄りのギルドは魔都の人間を討伐すると、聖王宮からそのレベルや貢献数に応じて報奨金が支払われるというシステムになっていた。
ピタゴラースもそんなギルドのうちの一つ。
そして、今日はメミルとユンボがしていた見回りは、報奨金の為に魔都の人間を探すパトロールの様なものなのだ。
勿論ギルドに所属せず単身でそのシステムを利用して稼ぐことも出来るのだが、いかんせん危険性が高い為、戦士はリスク回避の意も込めて大抵ギルドに属していた。
そして当然ギルドに入っていようが、戦うこと自体に危険性は伴う為、戦士をせずに商人になったりその他の道を志す人間も沢山いる。
さて、ピタゴラースの面々は会合を終え、夕飯も全員で摂り終えた。
ちなみに主に料理を担当するのは、エミィとブルーノである。
その他の家事等もそれぞれ分担して生活している。
夕飯時が終わり、食器洗いを今日の担当であるセルトと燐寧が行い、それから全員が順番に風呂に入った。
暫し自由な時間が流れ、そして夜も更け。
男性団員は男性寝室へ、女性団員は女性寝室へそれぞれ撤収した。
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「---いつも思うんだけど、なんで人数比率は違うのに寝室の大きさは男女一緒なん?」
ブルーノがふと、愚痴とも取れる発言を零す。
「ガストがハウスの設計する時にうっかりミスっちゃったんだよ、ねー?」
セルトがそう答えながら、ガストへ視線を流す。
「……このハウスを建てた時は、まだ今よりギルドが少人数だったんだ。すまんな……」
彼はセルトの視線を受け入れた後、素直に謝った。
「あ、いや……!それなら俺が悪かったん!団長の謝ることじゃない!」
「ははは、何慌ててんだよブルーノ」
手を振って慌てるブルーノをユンボが煽る。
「うるさいぞユンボ!それよりお前はどうだったん?今日は見回り中ほとんどメミルと二人きりだったろ?」
「あ、それ僕も気になるな〜。二人の時でもメミルちゃんとちゃんと話せるの〜?」
ブルーノと剣人が疑問をユンボへ向けた。
「は、は……?どういうことだよ……?」
「あはは、分かりやす過ぎるよユンボ」
言葉を震わすユンボに、セルトはつい笑った。
「な、なんのことだよ…!」
「まったく、往生際が悪いな。好きなんだろ?メミルのこと」
冷や汗のユンボに、セルトは追い討ちをかけるように、目を細めて笑みを浮かべながら問うた。
「……っ!!は、はぁっ!?な、なんで……!!」
「なんで知ってるんってか?そりゃお前見てりゃわかっちまうよ!わははっ」
動揺するユンボの背中をブルーノがバンバンと叩いて笑う。
「だから言っただろ?分かりやす過ぎるって」
「ユンボは単純で素直だもんね〜」
セルトと剣人も楽しそうにはやし立てていた。
「……ふむ……何となく話が掴めた」
ようやくガストも口を開いた。
「つまり、ライラボットはヴァーミリアに好意を抱いている、という認識で間違いないか?」
そんな彼にセルトは少し呆れたような目を向ける。
「ガスト……お前気付いてなかったのかよ……」
ピタゴラースの団員、ライラボット=ユンボは同じギルドの仲間のメミル・ヴァーミリアに恋慕を抱いていた。
そしてピタゴラースの団長、ガスト・ガスパール。
彼は少し鈍感なところがある。
to be continued……