第9話 領主の家に捕らえられていた女を救う
「あそこが領主の家か」
「はい」
サキナは言った。
俺とサキナ、それにロンはある家の前に来ていた。
家というより、それは屋敷に近い。
もとは貴族の家だったのかもしれない。
その屋敷は領主の邸宅だ。
領主亡き今、奴の支配していた村をすべて完全に救うことができる。
俺の支配下にできる。
ロンのような一人で魔物を狩ることができる人間がいれば、俺は苦労せずに魔石を大量に仕入れいることができるだろう。
倒れることもなくなる。
そのためにも、まずは領主がどこを領地とし、どの村を支配していたかを知る必要があった。
「領地の地図があそこにあるんだな」
「ええ。自分の支配している場所ですからね。おそらくはあるでしょう」
「よし。お前らはここで待っていろ」
そう言って、俺は屋敷の方へと歩いていった。
門兵を殺し、屋敷の中に入ると悲鳴が上がった。
俺はそのとき、角をはやしていた。
なるべく怖がってくれるようにな。
領主には妻と娘がいたらしい。
俺を見て悲鳴を上げたのは娘の方だった。
「領主は俺が殺した。お前らも殺されたくなければここから出ていけ」
エルフであろうが、子供を殺す気はない。
執事と思しきエルフが俺に切りかかってきたので、腹を割いて殺した。
領主の妻が悲鳴を上げた。
彼女たちはメイドに連れられて、走って屋敷を出ていった。
しばらくすると屋敷は空になる。
俺はサキナたちを呼び寄せて、屋敷の中を捜索した。
「ありました」
ロンが俺をある部屋へと呼び寄せた。
そこは領主の自室らしく、豪華に飾られていた。
壁に地図が貼ってあり、領地に線が引かれている。
村は全部で17。
全て救わなくてはならない。
そう考えていると、サキナの悲鳴が聞こえた。
俺たちは慌てて、悲鳴の方へ向かった。
◇
悲鳴は地下から聞こえてきた。
光魔法を使いあたりを照らしながら進むと、松明を手に持ったサキナがへたり込んでいた。
「どうした?」
「あ、あれをみてください」
見ると、そこは地下牢で、中に女が傷だらけで壁に繋がれていた。
右足が半分切られた状態でブラブラとつながっている。
悲鳴に目を覚ましたのか、彼女は顔を上げる。
「だれだおまえら」
かすれた声で、彼女は言った。
「領主に捕まったのか」
「ああ、おかげでこのザマだ」
「今出してやろう」
俺は鉄格子をひん曲げた。
彼女は目を見開いた。
「へ、すげえやつがいたもんだ」
手錠を粘土のようにひねり曲げて外す。
彼女は自分を支えることができないようで、地面に倒れそうになった。
俺は彼女を支える。
「すまない。恩に着る」
「その傷も治してやる」
俺は彼女の口に血液を垂らした。
すると、みるみるうちに傷が治る。
彼女は驚き、自分の足で立ち上がった。
短髪の彼女の額にはいっていた傷もなくなって顔がよく見える。
可憐というより綺麗といったほうが形容としてはあっている。
が、その言葉遣いが玉に瑕だが。
「すごい! もう歩けないと思っていたのに。あんた何者だ?」
サキナは少し不機嫌そうに言った。
「デウス様です。角が見えませんか? 神の証ですよ。この方は神なのです」
「すぐには信じられねえが、この回復力は驚いた。ありがとう!」
彼女は俺の手を握った。
サキナは更にムッとした。
「あたいはサーニャ。レジスタンスの一員だ」
「レジスタンスとはなんだ」
「元冒険者の集まりさ。エルフに対抗した組織だよ。あたいはこの家に侵入して情報を集める担当だったんだがヘマをやらかしてこんな目に。あいつめ。今度あったらただじゃ済まない」
「領主なら死んだぞ」
「え!!!」
サーニャは目をかっぴらいて驚いた。
「俺の村に攻め込んできやがったから――」
俺はことの詳細を伝えた。
サーニャはニヤニヤしながら聞くと、最後には大笑いして、俺の腕をバシバシ叩いた。
「いやー! よくやった! すげーやつだ!」
「ちょっと!」
サキナはさすがに怒り出した。
「私達の神になんてことするんですか! やめてください」
サキナは俺の腕を引っ張り、サーニャから引き剥がした。
「ああ、すまんすまん。つい興奮しちまって。そうか。領主は死んだか」
サーニャは腕を組んで微笑み肯いている。
「なあ、お前たちの村にはもうエルフはいないんだよな」
「ああ」
「あたいを連れてってくれないか? どんな村かみてみたい」
「普通の村です。あなたはレジスタンスに帰ってください」
「そういうなよ。な。同じ人間同士だろ。エルフに支配されなくなった村ってのを見てみたいんだよ」
サキナは俺を見上げた。
俺はため息をついた。
「わかったよ。つれていく」
「よっしゃ。旦那わかってるねぇ」
サキナはサーニャを睨んだ。
◇
「すっげぇ!!」
村に着くとサーニャは興奮した。
「あれ訓練してんのか!」
「村人に自衛してもらわないと困る。魔物を自分たちで狩るためにもなる」
「旦那が教えてるのか?」
「俺には騎士の経験があるからな」
「騎士! それであんな実用的な訓練ができるのか! すげええ!」
サーニャは飛び跳ねんばかりに感動している。
「村人も全員活気に溢れてるし、死んだ目をしてるやつは一人もいない。それにみんな健康そうだ! これこそ村のあるべき姿だよな。な!」
彼女は俺を見上げていった。
「まだ足りない」
「え?」
「領主の支配していた村を全部奪う。そして、この村と同じようにする」
サーニャはそれを聞くと両手を握りしめて「くうう」とうなった。
「すっげえ計画だ。領主がいなくなった今それも可能だもんな。こりゃレジスタンスも黙っちゃいられない!!」
ふんふんと鼻息荒くいうと、サーニャは肯いた。
「なあ、ここをレジスタンスの拠点にしていいか?」
「は?!」
サキナが驚く。
「ただでとは言わない。村の奪還を手伝うからさ。それに魔物も狩ってくる。なあいいだろ?」
勝手に話をすすめるやつだが、魔石が入るに越したことはない。
「ああ、いいだろう」
「よっしゃあ!」