表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

第8話 領主が攻めてくる

 事は突然起きた。


 馬に乗ったエルフの軍勢が村にやってきたのだ。

 彼らは皆鉄の鎧を着て、まるで、かつて人間が騎士だったころのように振る舞っていた。


 村人たちは悲鳴を上げ逃げ惑った。


「慌てるな。俺の家に隠れていろ! ロン、サキナ! 村人たちの誘導を頼む」


 俺がそう言うと、彼らは走って俺の家に向かった。

 サキナが言った。


「しかしデウス様は」

「俺はあいつらと話をしてくる」


 訓練の途中だったために地面には盾や剣が散らかっている。

 俺はそれをまたいで歩き、エルフたちと相対した。


 エルフたちは馬を止めた。

 

 彼らの先頭にいるのは、いかにも、身分が高そうな騎士。

 鎧はところどころ金のメッキが入っている。

 胸当てには紋章が入っており、それはこの村のどこかで見たことのあるものだった。


「誰だお前ら」


 俺はエルフの言葉でそういった。 

 はじめ、先頭のエルフは俺に見向きもしなかったが、俺がそういうと、見下した。

 

「人間ごときがエルフの、それも領主である俺にむかってその口の聞き方はなんだ」


 俺はこのとき角をしまっていた。

 ただの人間に見えて当然だ。


 そうか、領主の存在を忘れていた。

 他にもこいつが支配している領地があるということか。


 老騎士は領主の凄惨な所業を記憶していた。


 村に来るたびに娘を一人、村人たちの前で殴り殺した。

 老人の四肢を切り落とし、死ぬまで炎魔法で炙った。

 抵抗すれば、それ以上に残忍な方法で殺した。


 こいつは殺さなければならない。


 こいつを殺せば他の村の人間も救える。


 救える?

 

 俺は食欲だけで村人を救ったのではなかったか?


 しかし今、心のなかで燃えているのは怒りだ。

 義憤だ。

 救わなければならないという思いだ。


 老騎士に心を支配され始めたか、あるいは……。


 俺は笑うと、言った。


「エルフごときこの程度で十分だろ。この村のエルフに会いに来たのか? 残念ながらみんな殺してしまった」


 そう言うと、エルフの集団からクツクツと笑い声が起こった。


「そんなわけ無いだろう。人間ごときが我々に勝てるはずもない」

「試してみるか、そこの若造。豚みてえな顔してるお前だ」


 俺は笑みを浮かべて言った。

 言われた豚顔のエルフは、顔を真っ赤にして、馬を降りた。


「粉微塵にしてくれる」


 エルフは魔法陣を展開し――――


 首がはね飛んだ。


 俺は右手を振って血を飛ばした。


「次は誰だ?」


 尋ねると、エルフたちは馬の上から俺に向けて一斉に魔法陣を展開した。


 魔法が放たれる。


 俺はあえて、そのすべてをくらった。


「デウス様!!!」


 隠れていろと言ったのに、サキナとロンが叫んでいる。


 俺はすべての魔法を食らったがかすり傷程度。

 すぐに治癒した。

 魔法消去を使ったわけでもないのにこの威力か。


 これで本当に領主に従う騎士をやっていけるのか。


「こんなものか。呆れる」


 俺は身を揺らした。


 エルフたちの顔が驚き、蒼白になる。


 俺の腕には騎士の一人の頭が、髪を握る形でぶら下がっていた。


「ほら次だぞ」


 エルフには俺の動きが見えないらしい。

 人間の何倍、エルフの何倍もの速度で動けば見えないのも当たり前だ。

 

「うわああああああぁぁぁあ」

 

 エルフは逃げ惑ったが、遅い。

 逃げる先に首が落ち、それを自分の足で蹴っている。


 最後にまだ馬に乗っている領主だけが残った。

 やつは状況を見て、馬の踵を返し逃げようとした。


「待てよ」


 俺は馬のすべての足を切り落とした。


 領主は地面に転げ落ちた。

 俺が近づくと後ずさる。


「ま、まて、話を聞いてくれ」

「なんだ?」

「お前を名誉エルフにしてやる。人間たちを支配する権利をやろう」


 俺はやつの右腕を切り落とした。


「ぎゃあああぁあぁあああ」

「そんなもの望んじゃいない」

「じゃあ何だ? 金か? 金ならいくらでもやる。だから殺さないでくれ」

「金もいらない」


 今度は左足を切り落とす。


「ああああああああああぁぁぁ。もう嫌だ! やめてください! やめてください!」

「お前は村人たちの声に情けをかけたのか! 助けてくれと言われて助けたのか! それでも領主か。ゴミが」


 俺は領主の四肢をすべて切り落とした。

 やつは意識を失った。


 足りない。

 まだ足りない。


 炎魔法で切断部を焼いた。

 痛みに領主は意識を取り戻した。


「がああああああぁぁぁあ」

「起きろよ」

「痛い痛い痛い痛い!!!」


 俺は自分の指を切り落として、溢れ出る血を領主に垂らした。

 領主の四肢がもとに戻る。


 領主は困惑した顔をする。


「慈悲を、慈悲を与えてくださるのですか!」

「んなわけないだろ」


 俺はまた腕を切り落とした。


「ああああ! そんな!」


 領主の顔は絶望に歪んだ。


「なるべく正気をたもっていてくれよ。お前が殺した村人の数だけ死んでもらうんだからな」

「嫌だ! 嫌だ! がああああああ!」


 領主は四度と持たずにショック死した。


 いつの間にか村人たちが俺の後ろに立っていた。

 流石に恐れられただろう。

 村を追い出されるか?


「デウス様」

「わかっている。俺の姿に恐れをなしたのだろう。村を出ていこう」

「そんな! 違います!」


 サキナがそう言うので、俺は眉間にシワを寄せた。


 村の老人ダニーが言った。


「恐れなどしません。デウス様のお姿は村の怒りそのものでした。私達はいつか、このような日が来ることを信じておりました。デウス様、ありがとうございます。これで私達は完全に支配から開放されました」


 今までとは違い、村人たちは俺を囲み、膝をついて祈りを捧げた。

 まるで、本物の神のように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ