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第7話 村人を訓練する

 俺はそれから毎日、魔物を狩ってきては村人たちにふるまった。

 魔石は食わずにとっておいた。


 なぜかこの体は人間の食べ物だけではすぐに空腹になる。

 魔石を食べず人間の食べ物だけで過ごしてみようと考えたのだ。


 その結果。


「大丈夫ですか!? 大丈夫ですかデウス様!!」


 一週間後、エルフの倉庫を見て回っているときに俺は倒れた。

 空腹は限界に達し、頬はこけていた。

 人間に擬態すると人間と同じ症状が出るらしい。


「魔石を……魔石を持ってきてくれ」


 サキナに言うと、彼女は走って俺の家に行き、両手いっぱいの魔石を持ってきた。

 俺は片っ端から魔石を喰らう。

 途端に体調がよくなった。


 やはり魔石を食わなければいけないらしい。

 まずい魔石を……ああ。


 人間のうまい料理を食ってしまった今となっては、魔石は泥を食っているような気分だ。


「これからは魔石をとっておかなければならないな」


 俺はそう言って立ち上がった。


「ご気分はどうですか?」

「大丈夫だ。心配ない」


 サキナはひどく安堵したようだった。


 エルフの倉庫には剣や盾、弓が並んでいた。

 鎧も鉄製の物がある。


 もともとは人間が使っていたものだ。

 記憶がそう言っている。


 と、外で騒ぎが起こった。


「ゴブリンだ! ゴブリンの群れが来たぞ!」

 

 俺は剣を一振り手に取ると、倉庫を飛び出した。

 


 ゴブリンの群というから100匹以上いるのかと思ったが、実際は7匹程度だ。

 騒ぐほどのものじゃない。


 俺はため息を付いた。

 あのくらいなら村人たちでも倒せるだろう。


 そう思っていた。


「ぎゃああああ」


 村人の一人が、肩口を刺され倒れる。


「た、たすけてぇ」


 大人のそれも男が肩を抑えて後ずさっている。

 俺は一瞬で近づくと、持っていた剣でゴブリンの首を切り落とした。


 周りを見ると、村人たちは農具を構えながらも戦う様子はない。

 逃げ惑っている。

 倉庫に武器を取りに行こうとする者もいない。


 戦えないのか?


 生まれた瞬間から生きるか死ぬかの世界で生きてきた俺には信じられん。

 俺はゴブリンをすべて処理すると、傷を追った村人を治し、


 叫んだ。


「男の村人を集めろ! 子供はいい!」


 村人たちが俺の周りに集まってくる。


「ゴブリンごとき倒せないのか!」

「今まではエルフが倒していましたので」


 村人の一人が言った。

 名誉エルフが言っていたことはあながち間違いではなかったか。


 村人たちは戦えない。


 俺が村を離れるのを恐れる理由がよくわかった。


「わかった。お前らに訓練をつける」



 訓練は騎士式。

 老騎士セドリックの記憶をもとに村の男達をしばき倒した。


 訓練一日目が終わると、皆地面に倒れ込んだ。

 嘔吐するものもいた。


 全く軟弱な。

 そう、俺の中のセドリックがつぶやいている。


 皆が倒れる中で、唯一立っているものがいた。

 確か、名をロンといったか。

 

 青年で長髪を後ろで縛っている。

 なかなか顔も整っていて、誠実な印象を受ける。


 俺は彼に近づいた。


「立っているのはお前だけか」

「よくエルフの狩りに連れ出されていたので」


 ロンは頭を下げるとそういった。


「そうか。よく励め」

「はい!」


 それから2日に一回の割合で訓練を行った。

 皆ついてこれるようになったが、やはり、ロンの成長は著しい。

 元騎士の目からしても、このような人材はそういない。


 ある日の訓練おわり、俺はロンのもとを訪れた。


「村人たちのために魔物を狩る気はないか」

「あります! はじめからそのつもりで訓練に励んでいました!」


 背筋を伸ばしてロンはいう。


「よし。ではついてこい」


 俺はロンをつれて、森の中に入った。


 はじめからワイルドベアではやられてしまうだろう。

 俺はより小さなイノシシの魔物を探した。


「エルフとともに狩りをしていたといったな?」

「ええ。ただ、彼らについていっただけですが」


 それにしたって、人間より脚力も体力もあるエルフについていけるとは。


「では魔物の特性まではわからないのか?」

「すみません。わかりません。いつも疲れ切って盾にされるだけでしたから」

「わかった。魔物については教えよう。一人で狩ってもらう」

「え! 俺一人でですか?」

「ああ、そうだ」


 そう言って、俺は持っていた剣と盾をロンに手渡した。


「戦闘だ。基本は忘れるな。イノシシの魔物は突進が主な攻撃だ。どうやればいいか一度見せてやる。木の陰から見ていろ」


 俺は近くにいたイノシシの魔物に相対した。

 魔物は俺を睨むと、ワイルドベアと同様、後ろ足に魔法陣を展開した。

 

 突進。


 俺はひらりと体の向きを変え、かわす。

 俺の前をイノシシが横切る。

 首を狙って、変化させた腕を振り下ろした。


 首が切り落とされる。


「ぐぷ」


 イノシシが溺れるような声を出して地面に倒れた。


「突進に巻き込まれないようにしろ。いいな」

「……わかりました」


 ロンは今の戦闘を回想しているのかぶつぶつと何かをつぶやいてイノシシを見ていた。


 次に見つけたイノシシは先程のものより大きい。


「よし、あれを狩るんだ」

「わかりました」


 ロンは木の陰から出て、イノシシに向かい合った。

 イノシシは突然の敵に驚いたのか威嚇の声を上げ、すぐさま魔法陣を展開した。


 突進する。


 いかん!

 ロンは盾で突進を真に受けようとした。


 イノシシの牙が盾を突き通す。

 そのまま、首を振り上げた。


 ロンは盾にしがみついていたために、振り飛ばされる。


 近くの木にぶつかり気を失った。


 俺はロンのそばに駆け寄り、イノシシから遠ざけた。

 イノシシは首を振って、牙に刺さった盾を振り落としていた。



「んうう」


 ロンはうめき声を上げて、、目を覚ました。

 牙は盾を貫通し、ロンの腹に突き刺さっていたが、俺の血液で治しておいた。


「避けろと言っただろう。聞いていなかったのか?」

「すみません。体が動かなくなって、つい」


 俺は、ワイルドベアを狩ったとき、サキナが腰を抜かしたのを思い出した。


「恐怖を捨てろ。あいつらはまっすぐしか進んでこない。いいか」

「次はやってみせます」


 ロンは意志のはっきりした目でそういった。


 イノシシの魔物は近くで泥を浴びていた。どうやらこのあたりに巣があるらしい。

 あの場所から動く気配がない。


 俺はロンの背を押した。


「お前ならやれる」


 ロンは鼻から息を吸い込んで、うなずいた。


 イノシシのが気づく。


 突進する。


 ロンは身を翻した。


 彼は下方から切り上げるのを得意としていた。


 突進するイノシシの体をギリギリでかわす。


 剣が振り上げられる。


 踏ん張る。


 ロンは唸り声を上げた。


「うおおおおおぉぉぉぉ」


 ごとん。


 イノシシの首が切り落とされた。


 俺は驚いた。

 斬りつける程度しかできないと思っていたからだ。

 この短期間に相当力をつけている。


 ロンの成長が楽しみになった。


 俺は息を切らしているロンの背を叩く。


「やったな」

「はい。はい! デウス様に訓練していただいたおかげです!」


 ロンは叫んだ。


「これで、これで俺も村を救える! 力になれる!」


 俺たちはイノシシの血抜きをすると、村に持ち帰った。


 ロンは村人から称賛を浴び、俺はそれを後ろから眺めていた。


 悪くない気分だった。

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