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第6話 村人に肉を振る舞う、病気を治す


 俺とサキナは森にやってきていた。

 村のすぐ近くの森だ。

 村を出るとき、村人たちは心配そうに俺のことを見送った。


 それほどまでに出て行かれたくないのか。

 俺はただの魔物だぞ。


 サキナはその細い脚で俺についてくる。

 息が上がっている。


「おい。ついてくるのがつらいなら戻ってもいいんだぞ」

「いいえ……ついていきます」


 サキナは気丈に微笑んでそういった。

 

 仕方がない。

 俺はサキナを背負った。


「デウス様! 歩けます!」

「かまうな」


 俺はサキナを背負ったまま歩き出した。

 探知魔法を使い、獲物のほうへ近づいていく。


 ダンジョン内で探知魔法は必須だった。

 常に空腹な俺にとっては特に。


 近くにいた魔物は熊の魔物で、俺の2倍は身長がある。

 木の陰から覗くと、サキナは「ひっ」と声をあげた。


「私達ではひとたまりもありません」

「倒すのは俺だ。ここで待ってろ」


 俺はそう言うと、木の陰から飛び出した。

 熊の魔物の名前はワイルドベアという。

 俺の目の前にいるのはその中でも大きい部類だ。

 もしかしたら亜種なのかもしれない。


 ワイルドベアが俺に気づいた。

 後ろ足で立ち上がり、威嚇をする。

 太陽を背にして、影が俺を包みこむ。


 この手の魔物は身体強化魔法を使う。

 奴は地面に前足をつくと、後ろ脚に魔法陣を発動させ、突進してきた。


 俺は身構える。

 四肢に、強化魔法を発動させる。

 

 牙をむき、突進してきた熊は、右前足を振りかざした。

 俺はその前足をつかむと、熊を背負うようにして投げた。

 

 熊が近くの木にぶち当たり、木が倒れる。

 バキバキッとものすごい音がする。

 近くでサキナの悲鳴が聞こえた。


 熊は頭を振って立ち上がる。

 

 準備運動はこれくらいでいいか。

 

 ワイルドベアはまた後ろ足に強化魔法を使った。

 懲りないやつだ。


 俺は右腕を剣に変える。

 真っ黒で、太陽の光を反射する、鋭い剣だ。


 奴が突進を始める。

 俺も両足に、身体強化の魔法陣を発動する。

 

 交錯。


 俺は着地する。


 熊の頭がごとりと落ちる。

 血が噴き出す。


 俺は剣についた血を振り払って、元の腕に戻した。


「終わったぞ」


 俺がサキナの方を見ると、彼女はへたり込んでいた。


 サキナの方というのはつまり、クマが突進していった方だ。

 襲われると思ったのだろうか。


 俺は彼女の元へ歩いていく。

 サキナの足が震えていたので、しばらく座っているように指示する。

 

 狩った獲物は血抜きをしなければならない。

 老騎士の記憶がそう言っている。


 俺は熊の後ろ足をもって体を引きずると、近くの気にぶら下げた。

 脚を太い枝に魔法を使って固定する。


 しばらく放っておくと、血が止まった。


 俺は体を背負って運ぶ。

 頭はサキナに運ばせた。



 村に戻ってくると、ダニー爺さんや村人たちが驚いた。


「これを狩ってきたのですか」

「ああ」

「さ、さすがです! これは時折村に下りてきては襲ってきたワイルドベアですよ。エルフでも倒せなかったのに!」

「俺をなめるな。エルフごときと比べるんじゃない」

「はい! 申し訳ありませんでした!」


 村人が頭を下げた。


「これを料理して食え」


 村人たちは驚愕した。


「い、いいのですか!?」

「お前たちのために狩ってきた魔物だ。解体はできるな?」

「はい。しかし、デウス様がお食べになればよいのでは?」

「お前たちが飢えて死ぬのは困る」

 

 うまいものが食えなくなるからな。

 そういう前に、村人たちは感激した。


「ああ! ありがとうございます! ありがとうございます! 我々の神は何と慈悲深い! ありがたく頂戴します」

「そうしろ」



 解体作業は男たちが行った。

 相当量の肉が切り落とされた。

 村人全員に十分いきわたるだろう。


 村の中心に焚火を起こし、そこで棒に刺した肉を焼いていく。

 村人たちは焚火の周りで踊ったり歌ったりしていた。


 見ると、何人かの村人は地面に倒れたまま、その様子を微笑んでみている。

「何をしている」


 俺は横になっている女の一人に近づいて尋ねた。

 女は他の村人に比べて著しく体調が悪そうだった。

 顔は青白く、目はうつろだ。


 彼女は俺に気づくと体を起こそうとした。

 かなり辛そうだ。


 サキナが俺の後ろから走ってくると説明した。


「デウス様、彼女は病気なのです」

「申し訳ありません。こんな姿で」

「そのままでいい」

「申し訳ありません」

「この方はマーヤと言います。腕のいい料理人だったのですが、今は病におかされているのです」

「それはいけない」


 もっとうまい料理が食えるということか。

 では治ってもらわなければ困る。


 俺は右手の人差し指を刃物に変えた。

 左手の親指の先を切ると、血を垂らす。


「飲め」


 病人の女は、俺を神と信じているからか、躊躇なく、指から垂れる血を飲み込んだ。

 彼女の舌に垂れた血が滲み、吸収される。


 マーヤの顔色が変わっていく。

 血色がよくなり、目の焦点が合い始める。

 一度目を閉じ、開く。


 マーヤは体を起こした。

 自分の両手を見る。

 

 閉じて、開く。


「気分はどうだ」

「ものすごくいいです! え! どうして! こんな! 奇跡です! ありがとうございます!」


 すべての毒をダンジョンで経験した俺の血液だぞ。

 人間の病気ごとき治せないわけがない。


 ああ、これでもっとうまい飯が食える。

 楽しみだな。


 そんなことを思っていたら、騒ぎを村人たちが聞きつけた。

 料理人のニナが駆け寄ってくる。


「マーヤ! よくなったの?」

「ええ。デウス様のおかげよ。今までごめんね」

「ううん。ううん。よかったぁ」


 ニナは涙を流してマーヤに抱き着いた。


「デウス様。うちの主人もお願いします!」

「デウス様こちらも!」


 ああ治してやるさ。

 俺にうまい飯を食わせてくれ。

 

 俺は村人の病気を次々に治していった。

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