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第3話 村を救う

 神という概念は老騎士の記憶から知っているが、俺は絶対にそんなものじゃない。

 そもそもが魔物だ。


 俺は依然祈るように地面にひれ伏すサキナに言った。


「俺は神じゃない」

「あなたがそういうならそれでもかまいません。お願いします。エルフから村を救ってください。私を救ってくださったように」

「そういわれてもな」

「このダンジョンは死にました。多分誰かがダンジョンコアを破壊したのでしょう。魔物はもう出てきませんよ。食事はどうなさるおつもりですか」


 俺は言葉に詰まった。


「私の村に来ていただければごちそういたします。魔石に比べて味がどうかはわかりませんが、私たちにとってのごちそうを捧げます。ですから、どうかお願いします」


 サキナは頭を地面につけた。


 ごちそう。

 その言葉に唾液が出た。


 あのダンジョンコアよりうまいのだろうか。

 そもそも人間の食事というものに興味がある。


 エルフを処理するのはわけない。

 いい取引かもしれないな。


「わかった。村に案内しろ」

「ありがとうございます!」


 サキナは顔を輝かせた。



 エルフが乗ってきた馬に乗り、村に向かう途中、サキナに尋ねた。


「エルフは人間を虐げているのか」

「はい。数年前にエルフたちが人間を支配するようになりました。かつては冒険者たちが反抗していたのですが、エルフは魔法も力も桁違いに強力なので太刀打ちできずに……」


 老騎士の記憶と同じだな。

 昔は人間が街を作り、生活を営んでいた。

 騎士も冒険者も存在していた。


 それが今ではエルフが街を牛耳り、国王にまでなっている。


 サキナが説明を続ける。


「私たちは奴隷同然です。エルフたちに娯楽目的で殺されたものも数人ではありません。私の父や祖父も……」


 サキナは鼻をすすった。


「私も同じ運命をたどるところでした。デウス様に救われなければ。本当に感謝しています」



 村は木の柵で囲まれた数十人規模のものだった。

 エルフたちは村人をムチでうち、牛や馬が引く農具を引かせている。

 

 エルフだけでなく一部の人間が村人をムチでうっていた。

 サキナに聞くと名誉エルフと呼ばれる奴ららしい。

 エルフに媚びを売る人間どもだ。


 村人たちはひどく痩せていた。

 ろくに食事も与えられていないのだろう。

 本当に奴隷のようだった。


 俺は村に近づく。

 角をはやしたままだったので、彼らはすぐに臨戦態勢をとった。


「魔物だ! 武器を持て!」


 エルフが叫ぶ。


 人間の村人はエルフに押しやられて、前線で槍を構えている。

 中には老人や子供までいる。

 エルフは後方の安全な場所で待機していた。


 さすがに人型の魔物だと警戒するのか、エルフたちも剣を構えている。


「待って! 敵じゃないの!」


 サキナが俺の後ろから飛び出して、人間たちに言った。


「サキナ! 生きておったのか!」


 老人の一人が槍を落とすと、サキナのもとに走り寄ってきた。

 彼らは抱き合う。


「サキナだ!」

「帰ってきたんだ!」


 人間たちは次々に武器を捨てて、俺をよけて、サキナのもとに走り寄ってきた。

 俺の後ろに人間の輪ができる。


 エルフの一人が叫んだ。


「何をやっている。早くその魔物を殺せ!」


 村長らしき様々な装飾品を身にまとったエルフが叫んだ。

 彼の後ろから村長の妻らしき女エルフが駆けてきた。

 村長が叫ぶ。


「おい、お前は下がっていろ!」

「まって、ダンジョンに力試しに行ったティモシー達は? それにあの服」


 俺は答えた。


「殺したよ。喰ってやった。あっけねぇ最期だったよ」


 エルフたちの顔が一瞬蒼白になった。

 村長の顔は真っ赤に染まる。


「この、魔物の分際で。息子を!!!」


 俺の後ろにいる人間たちのことなど気にも留めず、エルフたちは魔法を行使した。

 その魔法陣は様々だ。

 炎、氷、風、雷。


 一斉に攻撃魔法が展開される。


 俺の後ろで悲鳴が上がる。


「大丈夫。デウス様なら、私たちを守ってくださる」


 サキナがそういう声が聞こえた。


 ああ。守ってやるさ。

 ごちそうが待ってるんだからな。


 俺は右手を挙げて、防御魔法を展開した。

 襲い来る、数々の魔法が、魔法陣にぶつかる。

 塵となって霧散した。


「防御魔法だと!」

「賢者でも使えるものはわずかだというのに!」


 俺は右手に魔法球を作った。

 魔力が凝縮される。

 魔力10000倍は伊達じゃない。


 それを見たエルフたちが後ずさった。


「なんだあの魔力量は!」

「まずい! 逃げろ!」


 エルフたちは背を向けたがもう遅い。

 俺は球をごみでも捨てるように放り投げた。

 

 数秒。


 魔法陣形成。

 前方、扇形に闇魔法が展開。


 触れたエルフは一瞬で塵と化し、魔石だけが地面に落ちた。

 その場にいたエルフは跡形もなく消えた。


 家から様子をうかがっていた女エルフたちが逃げだした。

 俺は人差し指を奴らに向ける。

 

 魔法陣発動。


 首が刎ね飛ぶ。

 おそらくこれで全部だろう。


 俺は振り返って、サキナに言った。


「終わったぞ。うまいもん食わせてくれるんだろ」


 サキナはぶんぶん頭を縦に振ってこたえる。


「はい! はい! ありがとうございます!!」


 人間たちは歓声を上げた!


「守り神だ。神様が私たちの村に降り立ったんだ!」

「あの角を見ろ、伝説通りだ」


 人間たちは俺に祈りを捧げた。


「ありがとうございます。ありがとうございます」

「早く食い物をくれ」

「はい! すぐに用意いたします」


 数人が村の中に駆けて行った。


 俺は落ちていたエルフたちの魔石を拾ったが、食うのをやめた。

 こんなまずいものよりごちそうが待っている。


「サキナ」


 俺は振り返り、サキナを呼んだ。


「何でしょうか」

「魔石を拾ってとっておけ」


 サキナは驚愕した。


「い、いいんですか! これはデウス様のものでしょう」

「今はいらない」


 記憶では魔法を使うときに魔石を使っていたはずだ。

 誰かが使うだろ。


「魔石までいただけるなんて! 感謝に堪えません」


 そこまで感謝されるとこっちも困る。

 魔石なんてそこらへんですぐに手に入るものを。


 俺はサキナに案内されて、村長が使っていた家に通された。

 当然、村長も先ほど塵と化した。

 家は広く、大きなテーブルと椅子があった。


 俺はイスに通されて、料理とやらが出てくるのを待つことにした。

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