第1話 世界最強のダンジョンでコアを食った魔物
食欲。
俺はそれだけで生きてきた。
初め、俺は何だったのだろう。
多分小さな虫程度。空腹を抱えた虫だ。
生まれた瞬間から戦争が始まった。
適者生存。
自然淘汰。
兄弟を喰らい母親を喰らい、みるみる体を大きくして、スキルを得ていった。
生まれた瞬間、持っていた称号
〈暴食〉
喰らえば喰らうほどレベルは上がり、敵のスキルを習得する。
敵の記憶すら習得して、戦い方を学んだ。
俺はこの称号のおかげで生きてこれた。
美味いものに出会ったためしはない。
皆不味い。
不味いが生きるためだ。
殺す術を磨き、死なぬ術を磨き、俺はこのダンジョンで生き残った。
しかし今、俺は異常なほどうまいものを食っている。
こんなものは食ったことがない。
何だこれは。
『意思を獲得しました』
突然、頭の中で声がしたかと思うと、意識がはっきりする。
目の前で起きていることがわかる。
俺は両手でなにか球体だったものをつかみ食らっている。
壁にはもともとこれがはいっていたであろう丸い穴が空いていて、そこからどろどろとした液体が流れ出ている。
洞窟のような場所だ。
頭の中にダンジョンという単語が浮かんだ。
どうしてそんな言葉を知っているんだ。
ダンジョンの中に高い断末魔のような余韻がこだましている。
多分、この球体を外したときにダンジョンが発した音だろう。
この球体はダンジョンにとって重要なものなのか?
――ダンジョンコア
またしてもいきなり単語が浮かぶ。
老騎士だ。
俺は昔食らった老騎士の知識を使っている。
いつ食ったか、どこで食ったかは覚えていないが確かに、老騎士セドリックの記憶が俺にはある。
俺はダンジョンコアを食い尽くした。
ああ。
満足だ。
途端に、またしても頭の中に声が響いた。
『称号〈大罪〉を取得しました』
『取得済みの称号〈暴食〉を統合します』
『称号〈傲慢〉を取得しました。▓▓を超えます』
『称号〈憤怒〉を取得しました。攻撃力が10000倍になります』
『称号〈色欲〉を取得しました。崇拝の対象になります』
『称号〈怠惰〉を取得しました。回復力が10000倍になります』
『称号〈嫉妬〉を取得しました。魔力が10000倍になります』
『称号〈強欲〉を取得しました。得たスキルの能力が10000倍になります』
体に異常なほど力が湧く。
「うがあああああ」
いきなりの頭痛に俺は叫んだ。
メリメリと音がして、頭から2本の角が生える。
七色に輝くそれは額から生えている。
痛みが収まると俺はゆっくりと立ち上がった。
振り返るとそこにはドラゴンが横たわっていた。
腹を割かれ、心臓を取り出されたドラゴン。
おそらくダンジョンコアを守っていたのだろう。
俺が殺したんだ。
心臓の中には魔石がはいっている。
俺はそれを食らって生きてきた。
やはり、心臓は2つに割られ、中から魔石が取り出されている。
俺は額の角に触れ、自分の体を見下ろした。
腹をさすった。
黒く、でこぼこした、生物の死体が折り重なってできたような体。
醜い。
醜い?
そんなことを今まで感じたことはない。
これも意思を得た影響なのか。
体を作り替えよう。
意思を持ったことで、自分のスキルを理解できる。
スライムか何かの能力を喰ったことで得たのだろう。
俺は〈身体変化〉の能力を持っていた。
何をもとにしようか。
醜くないもの。
老騎士。
彼がいい。
俺は老騎士の若いころに似た姿に体を作り替えた。
完全に再現できたわけではないが。
裸の、男らしい姿になった。
股の間にモノはない。
男らしい姿ではあるが男ではない。
俺に性別という概念はない。
俺はその姿のまま、目の前にあった巨大な扉を開け、ダンジョンコアのあった最深部から出た。