Past The Extinguisher ~過去を消す者~
純愛作品が書ける人が羨ましいです。
私は純愛なんてしたこと無いからね。書けないね。
だだっ広い広大な宇宙の中、俺は一杯のラーメンに顔を埋めていた。
こってり味噌ラーメン 850円
俺の財布の中には丁度930円しか無かった。
「……………………」
隣のデブが眼鏡を曇らせながらラーメンをすすっている。その丼の中には味玉が入っていた。俺は壁に掛けられている薄汚れたメニューを―――
味玉 100円
「……オヤジ、味玉を…………80円分くれ」
頭に鉢巻きを巻いたオヤジは少し固まったが、卵の端っこを切り落として、残りを俺の丼へと入れてくれた。
オヤジに感謝をし、俺は乾坤一擲丼の中身を全て平らげ、丼を舐め尽くした。そして財布ごと丼の脇へ置く。
「金……ココに置いておくぞ」
「はいよぅ」
俺は人生最後の会話を終え、店を後にした…………。
満たされた腹を撫でながら、俺は家路に着く。後はナニして死ぬだけだな。その前にトイレ……っと。
「――加藤裕吾だな?」
俺はトイレの公衆便所で、便器さんに聖水をぶっ掛けている最中、後ろから声を掛けられた。
「……?」
首だけ振り向くとそこには、
ガキの頃テレビでよく見た様な、戦隊物の格好をした女がいた。顔も仮面を被っていて分からなかったが、色がピンクだし声も綺麗だからきっと女だろう。
俺は聖水が終わると、落ち着いてズボンのチャックを閉め振り返った。
「何か……?」
「貴様には死んで貰う」
女は腰を落として構えを取ると、一気に俺へと詰め寄った!
「破!!」
―――ドン!!!!
女の掌底で吹き飛んだトイレの壁。粉々になった便器。外に居たアベックが驚き逃げ惑う。
俺は間一髪で躱し、事無きを得ていた……。
「……!!」
「ちょこまかと」
トイレの隅で逃げ場の無い俺。
「ま、待て! いきなりなんだ!?」
せめて説明が欲しい!
「……構わんだろ? どうせこれから死ぬつもりなんだから」
「そっ、それはそうだがダメだ! 俺は死ぬ前に徹底的にぶっこ抜いて無双転生するって決めてるんだ!!」
「それがダメなんだ」
女は仮面を思いっきり近付ける。テカテカした仮面に俺の顔が反射して映る。俺は何も言えずに壁に背を預けていた。
「貴様はこれから帰って抜く。それもヤケクソでbuu tube配信までする始末だ。更に悪いことに、それを見たどっかの大統領が貴様を気に入り国賓として迎え入れ、散々飲んだくれた二人は勢いで核爆弾のスイッチを押すんだ……」
お、おおおぉ? 何だ、何のことだ?
「世界は滅び、人口の九割九分九厘の人が死んだ。そして再び人類が再興するまで約3000年!!」
「私はそれを阻止するために未来から来た……」
女は一頻り説明を終えると、顔を離し再び構えを取った。
「さあ、後は貴様が死ぬだけだ」
「ま、待て! 俺が死んだところで未来が変わるとは限らないだろう!? 他の奴が世界を滅ぼすかもしれないぞ!!」
俺は、この訳の分からない状況下で何とかして生き残る道を考えた!
これから死のうとは思っていたが、自分の意思で死ねないのは勘弁願いたい!!
「大丈夫だ。私のモニターには常に少し先の未来が映っている」
女は腕時計型の小さなモニターを俺に見せる。そこには確かに何も無い世界が映っていた。
「死ぬ以外に方法は無いのか!?」
「貴様が死ぬ方が早い」
女は腰を落とし―――
「待て待て待て!! 止めてくれ止めてくれ!!」
俺は跪き女に命乞いをした。それもワンワン泣きながらだ!
自分でもみっともないと思うが正直死にたくない!!
「………………」
女はモニターを一目見た後、静かに構えを解いた。
やった! 祈りが通じたぞ!
「……未来が変わった―――!?」
俺は嬉しさの余り飛び跳ねてモニターを覗き込んだ。
そこには、頭に鉢巻きを巻いたオヤジが懸命に無双転生している様子をbuu tubeに配信している様子が映し出されていた!
女は慌てて何処かへ走り去っていった……。
「やった! 助かった!!」
俺は青天の霹靂とも言える珍騒動から生き延び、スキップで家へと向かった!
「よっしゃ! 帰ったら徹底的に無双転生を―――」
―――ドガン!!!!
俺の後ろにあった家の塀が吹き飛ぶ…………。
俺は肩をすくめ、静かに振り返った。そこには先程何処かへと走り去った筈の戦隊女が居た。
「未来が戻ったわ。やはり貴様は死ぬべきね……」
「……………………」
俺は死を悟った……。
もう終わりだ。ここで殺されて明日新聞に載るんだ……。
俺は涙を流しながらヨダレも垂らし、鼻水も垂らした。
「お別れの挨拶はいるかしら?」
「……最後に…………」
「なに?」
「……最後に顔を見せてくれ。そのへんちくりんな仮面が最後だなんて切ないだろ……」
「…………」
―――カポッ
女は両手でピンク色の仮面を外し、仮面の隙間から流れ出た長い髪の毛を靡かせた。
俺の目の前に現れた素顔は幼くも凛々しく、まるでクレオパトラ。まるで小野小町。まるで楊貴妃の様な美しさだった……!!
「結婚して下さいーーーー!!!!」
気が付けば、俺は頭を下げ、右手を前へ伸ばし告白をしていた。
しかし返事が無い…………。
俺は急いで頭を戻し、彼女の顔を見た。
「……あ」
彼女は顔中赤く染まったまま驚いた顔をして固まっていた。
「……は、初めて告白された…………」
い、イケるのか!?
俺はそのまま彼女の後ろに少し残っている崩れかけの壁に右手をつき、渾身の壁ドンをかました!
「ラーメン……食べないか?」
我ながら最悪の誘い文句だと思うが、彼女の腕に着けられたモニターには、さっきのラーメン屋で仲睦まじくデートをする俺と彼女の様子が映し出されていた―――
読んで頂きましてありがとうございました!!