遺跡ダンジョンの秘密
ストーンと名付けた新たなる相棒と愛あるあたしの生活 うふっ なんちゃって~♡
ダンジョンの秘密
第10話
帝暦2021年NANAの月14日 ドバ帝国
帝都トロイの辺境都市ヌーマタ 遺跡ダンジョン
探索者協会に報告する?それは自分達の利益を放棄することだ。その代わり発見の報酬を受け取り危険を回避出来る。
しかし、ニラは探索者だ。新米パートナーを抱えて居るがその能力はニラをも超えると思っている。危険を隣り合わせに未知を探索するのにこれ以上に無い味方である。未踏のダンジョンがそこにあるのだ。誰が尻込みをして他の者に譲るだろうか?いや居ない。居ないよね?だからニラはストーンに探索を続けると告げた。
「ニラならそう言うと思った。」と言ってストーンは笑う。
ずっきゅーん!!その笑顔にニラは胸打たれる。
卑怯だよぅ~ストーン。あたしの気持ちを知ってて言ってない?
そんな風にニラが浮かれて居ても慎重にストーンが先導した。
「俺が先導するから守りは任せたぞ」そんな風に言うストーンだが薄暗い中でも気配に敏感でニラが牽制の礫を投げる前に魔物に対応してみせる。
大まかな石積みの隙間から顔を覗かせる、見えにくいイモリにも飛び掛かられる前に剣を立てて対処して見せた。うん、魅せた。格好いい~
下に降りる階段はそこそこ深かった。真っ直ぐ降りて行くのでは無くて右へ左へ曲がってはいたが、どうやら大きな岩を避けてある方向を向いているようだった。地下なので確かでは無いが川を越えて北の山の方向を向いているように思えた。
唐突に階段は終わりを迎えた。大きな窖に出たのだ。大きさは20メトルくらいで高さは3メトルくらいで立って歩ける大きさだ。だが問題は大きさでは無い。中央で侵入者待ち構えていたモノがいたのだ。壁の小さな燭台が揺れる。
ゲコ!ゲゲゲゲヶゲヶゲヶー ゲコォ!
ヴェノムフロッグ?そう見える外観をしていたが遙かに大きい。
ビッツフロッグ?そう見えるような暗い緑色をしていた。
どちらとも違いながら遙かに手強そうなフロッグ系の新種の魔物だった。そして強い異臭。甘酸っぱい腐臭のような臭いはヴェノム系の魔物の特徴だ。
油断なく剣を構えるストーンはニラに灯を要求する。
「ニラ、ライトの魔法だっ!」
声と臭いでニラも直ぐにストーンの要求に応えた。ライトの魔法が2つ空中に浮かぶ。但し、ニラとストーンが降りてきた階段の方向詰まり2人の後方にである。
光が眩しかったのか少しずり下がりながらも
ゲコォ!と鳴く。
口から大きな赤紫の舌が飛び出しストーンに向かう。ストーンはそれを剣の面を向けて敢えて受ける。粘液が飛び散るのも構わず後へ押されながら耐える。舌が伸びきった所で引き戻されるスピードでストーンがヴェノム系フロッグに迫った。
中央の親玉のヴェノム系フロッグに隠れるようにしてストーンに飛び付いて近付こうとしていた小さな影をニラが佩いていた剣を振るって斬り殺す。小さなフロッグが2匹ニラの居た側に隠れていたのだ。反対側には3匹、ライトの魔法が光って直ぐにニラとストーンは小型の魔物を倒すことを優先したのだった。2人のパーティーでは攻撃力が高くない。幾らストーンが腕利きと言っても多数相手は難しい。しかもボスめいた巨大なヴェノム系フロッグは強敵に違いない。そう判断しての小物を減らす対応である。
ニラの返す剣がもう1匹のフロッグを空中で切り落とすとそのまま親玉のヴェノム系フロッグの背面に回る。ストーンは一度近付いたその身をニラが居た左へと飛び退く。反対側からストーンに迫っていた3匹のフロッグが着地して戸惑う。親玉のヴェノム系フロッグがストーンの動きに釣られて躰をもそもそ動かして向きを変えようとしているのをストーンは避けながら剣を振るう。
ストーンの剣はヌメヌメした体液と分厚く丈夫な体表で鈍い音を立てるがさほどダメージを与えていなかった。
戸惑っていた小さなフロッグがストーン目掛けて飛び掛かろうとしているところで2匹に短剣がザクザクと音を立てて突き刺さる。後を回っていたニラが放った短剣だった。ぶはぁっと言う呼吸音を立ててニラが残った小さなフロッグを切り上げた。勢いが付いてその小さなフロッグが親玉のヴェノム系フロッグにぶつかり落ちる。
ぎょろりとニラを親玉のヴェノム系フロッグが片目で睨んだ。
「大丈夫か?ニラ!」
ストーンの落ち着いた声を聞いたニラは破顔した。
「大丈夫よ、小物は片付けたわ!あとはこのでか物だけっ!」
ニラを警戒した親玉のヴェノム系フロッグの動きが止まったのでニラは後に下がりながら剣を構える。ほぼ反対側にいるであろうストーンの姿は巨体のフロッグに邪魔されて見えていない。
「剣が刺さらない!かなり厄介だぞ。」
ライトの魔法はまだ切れないだろうからそれまでに何とかしないと拙いことになるのは目に見えていた。こんな洞窟の中では火系の魔法は危険極まりない。よっぽど威力を押さえないとストーンにダメージを与えてしまうだろう。油系も駄目、火薬系も駄目、使えるとして水系か氷系になるだろう。
だが残念なことにニラは水系も氷系も魔法が使えない。こんな堅いフロッグがいるなんて想定外だった。それだけで無く躰を覆う粘液が剣などの物理的攻撃力を軽減してしまっている。かなり分が悪いと言えるだろう。
唯一希望があるとしたらストーンの魔剣の力だ。ニラは魔剣の切断力があれば攻撃力を減衰させてしまう粘液も堅い皮膚も通るのでは無いかと期待していた。
「ストーン!お願い、魔剣を使って!!」
懇願するような切迫した声にニラは自分でもかなり動揺しているなと思った。
ストーンはニラの掛け声に一度魔剣に手をやり乍らも躊躇した。
どうやらストーンは魔剣を余り使いたく無さそうだ。そうニラは判断し更にストーンに声を掛けた。
「・・・口を塞いで息を止めて!あたしが今からこのでか物のぬめりを何とかするから!」
ニラの声に反応したのか親玉のヴェノム系フロッグがしきりにストーンを気にしながらのそのそと躰をニラの方に向け始めた。その躰を動かすのにニラとストーンが切り倒したフロッグが邪魔だったのかいきなり口から舌を飛ばすと舌を巻き付けて食べてしまった。
「「!?」」
ニラとストーンは息を吞む。もしゃもしゃしているその顔にニラは顔を顰めた。自分の子分じゃ無かったのか?共食いの習性があるのかも知れないとニラは思った。しかしこれも隙と言えば隙とだ。
ニラは慎重に左手で腰の後に括り付けていた袋を外し、剣を戻すと素早く袋を持ち替えて親玉のヴェノム系フロッグの頭の上目掛けて投げた。袋は狙い違わず頭の上で弾けて粉末状の物を飛ばした。朦々と立ち込めて頭の部分が見えなくなる。何かの動きを感じてニラが飛び退ると親玉のヴェノム系フロッグの舌がニラの居た所で空を切った。間一髪、難を逃れたニラ。
舌の勢いに粉末が飛ばされたのか親玉のヴェノム系フロッグ姿が見えた。粉末が当たった部分が白く固まっていた。どうやら粘液を粉が吸い込んで固まったらしい。口の周りも固まったようでしきりにクビを振ろうと躰を動かす。
「ストーン!今よ!!!」
ストーンの覚悟が決まったのか躊躇していた魔剣を手にして上段に構えた。
構えられた魔剣に魔剣から漂いだしたような黒い霧が纏わり付くとストーンの腕にまで至る。霧に触れると痛みがあったのかストーンの顔が少し歪んだが溜を経て魔剣が立てに振られた。音はしなかったが魔剣から黒い霧が伸びて親玉のヴェノム系フロッグを縦に通り過ぎた。
「はあぁぁぁぁー」
溜息とも剣息とも取れる声がストーンから漏れ出た。
途端に2つになった親玉のヴェノム系フロッグが崩れ倒れた。見事に中央から2つだった。剣先も届かない場所まで切断されているのは魔剣の力では無いかと思われた。切断されたのは躰の半分ほどだったが内臓やら体液が飛び散ったのだ。とても見られたものでは無いがもう生きてはいないだろう。
魔剣を使った反動からかストーンが魔剣を鞘に戻すと片膝を付いて肩で息をしている。ニラは親玉のヴェノム系フロッグを避けながらストーンに急いで近づいて声を掛けた。
「凄いわね、魔剣というのは。でもストーンのお陰で助かったわ。あたしには攻撃力が足りなかったからストーンが居なかったらあのまま撤収するしか無かったわね。」
ストーンが立ち上がるのに手を貸しながらニラの目は親玉のヴェノム系フロッグの死体を見ている。まるで見続けていないと動き出すのを恐れているようだった。気付くとストーンがニラを見ていた。ニラは赤面しながらもくねくねする。あんまり見詰められると恥ずかしい。
「ニラのお陰だ。ニラの判断は最適だった。ニラの補助が無かったらきっと魔剣は使えなかったと思う。」こめかみを押さえながらストーンはニラをべた褒めする。あんまり恥ずかしいのでニラは話を逸らした。
「ほら、さっさと魔石を探して置かないと~」ニラは内臓を散乱させている親玉のヴェノム系フロッグに向かって屈みながら目をやる。魔石は躰の中央の赤みがかった臓器の下に在った。かなりの大きさだった。ニラが手に取りストーンのほうに立ち上がり、向き直る。魔石が無くなったせいで魔物は急速に腐爛して消えていく。後には干からびた赤い塊と細長く黒い紐状の物が残った。
ストーンの目がドロップ品に行くと屈んでその2つを手にした。そのまま振り返りニラに訊く。
「これが何かニラには分かるか?」
ニラは魔石に見とれていたがストーンの声にストーンが持っているドロップ品を見た。魔石を抱えたままニラは驚いたようにストーンの持っている物を見る。
「ドロップ品が2つ?凄いわね。あたしは鑑定のスキル無いから詳しいことは分からないけどどっちも薬剤の素材じゃ無いかしら。赤い塊は棗みたいな色してるけど元は心臓かしら?こっちの黒い紐は毒腺かも知れないわね。どっちもかなり珍しそうだから高く売れそうだわ♪」ニコニコとニラは言う。
うんうんとストーンは頷き満足そうだった。取り敢えず魔石もドロップ品もストーンのバッグに入れて光の魔法が切れる前に洞窟を探索することにした。
余り光の魔法も保たない。疲れてもいるからさっさとこの場を離れたがったがストーンはまだ気になることがあるらしくニラに光の魔法を1つ掛けさせた。
疲れているだろうに床を這うように、舐めるようにじっくりと調べ上げていく。30分程掛けて石畳のように綺麗に堅い床を調べ尽くすとストーンは気が済んだのか肩を竦めて階段近くで座っていたニラに首を振って見せた。
「どうも此処には無いようだ」
詳しいことは何もニラに説明はしてくれなかったが何かがあると期待していたらしい。
「気が済んだら帰りましょう。今度攻略するときは必要な道具も取り揃えてね。尤もストーンの魔剣があれば楽勝だろうけどね。アハハ」
上機嫌なニラは軽口をたててストーンに言い、小さな冒険はこうして終わったのだった。
謎だらけのストーンに急接近! したいから~ まだまだ冒険するのだぁぁぁぁー
新しい発見を求めて いざ行かん!!!!