ガワハ遺跡ダンジョン
小さなダンジョンでも恋人?と探検するのは楽しいとニラは思う。もちろん街中でデートも楽しい。
ウキウキ気分で始めたダンジョンに待つものとは?
第8話
帝暦2021年NANAの月14日 ドバ帝国
帝都トロイの辺境都市ヌーマタ近郊 ガワハ遺跡ダンジョン
ニラとストーンはペアのパーティーとしてダンジョンの攻略をする事にした。理由は二人だけで稼ぐには強すぎない魔物を相手に効率よく戦えるのがダンジョンだからであった。探索済みのダンジョンであれば出てくる魔物が分かるし危険を冒すこと無くドロップや経験を得ることが出来るからである。但し、そんなには稼げない。それでも構わないと意見が合ったのはお互いの連携を練習して互いを知りたいと思ったからである。ニラはストーン以上に喜んでいる事を隠していた。思わず含み笑いをしてしまうくらいには。
ヌーマタ近郊のダンジョンについての情報は冒険家協会に行って調べれば分かる。その結果帝都トロイに向かって1日半程の場所の川の岸壁に“遺跡“があることが分かった。魔物はフロッグ系やイモリ系の魔物ばかりで、たまに植物系のヴィシュに遭遇するらしい。ヴィシュは植物の根が絡まったような形をしていて蔓を伸ばして移動、攻撃をしてくる魔物である。得物を気絶したり絞殺して己の躰に取り込むそこそこ強い魔物である。
勿論、ストーンに掛かればヴィシュであっても一刀の下に始末出来る。ヴィシュの魔石もそこそこの価値があるから萎れた根の中に埋もれているのを手を突っ込んで引き出すのが少々気持ちが悪いのを我慢して作業をする。
お互いの位置を確認し合いながらダンジョンを進むのはニラにとってとても楽しいものだった。微笑めば照れたように微笑んでくれるストーンはニラにとって初々しくてどれだけ免疫が無いのよってくらい他愛が無いが、その微笑みを独り占めしていることにニラは満足できていたのだった。
遺跡の名前は『ガワハ』。見つけた冒険家の名前が付いた遺跡で、地上2階で地下5階の構成で階上に向かえばヴィシュが増え、階下に向かえばビッツフロッグ、ヴェノムフロッグやイーターニュート、ダートニュートなどが出る。ヴェノムフロッグの毒は気を付けなければならないが他に毒持ちは居らず2人パーティーには問題にならない。だから単独で攻略する冒険家もいる。ただ、1人で複数の魔物を相手にすると怪我も負いやすいし逃げ道を塞がれて帰れない場合とあり得るのだ。
ニラはストーンと相談して階上から攻略する事にした。植物系のヴィシュの方が大きめの魔石を持っているからだった。殆ど声がけをしないでアイコンタクトだけで連携を取るようにして魔物を刈って行く。壁や天井から根を出しているように見せかけて得物が油断して通り過ぎた所で出て来て背後から襲う習性があるからニラがカンテラを持って進み、怪しげな所を指し示しながら通り過ぎ、土塊を落としながら現れた所をストーンが一刀で殺して行く。
ストーンの持つ剣は魔剣でとても切れ味が鋭い。しかし、ヴィシュの体液は粘り気があり、魔剣と言えど何匹か斬り殺せば切れ味が落ちるので斬っては布きれで拭き取りをしなければならない。また、魔石をストーンが取り出している間はニラがストーンを守らなければならない。その繰り返しで両手程の数のヴィシュの魔石を集めた所で休憩をした。
「けっこう順調よね」とニラが言えば
「大した事の無い魔物だけど油断は禁物さ。今の所、密集して現れていないから手こずる事は無さそうだけどね」
ストーンはそう言ったがさっきの小ぶりのヴィシュはストーンが魔剣を拭いている所で落ちてきたからニラの投石で突き飛ばしていた。子供だったようで直ぐに暗がりに逃げていったのである。
「このままもっと上の階に進む?」とニラはストーンに訊いた。手応えが無いのが不満と言うよりヴィシュしか出て来ないのか不満と言う事だった。
「代わり映えがしないから戻って下の階に行ってみようか」とストーンが提案する。ニラの表情を見ながら持って来た水袋の水で乾きを癒す。
「うん♡」ニコニコしながらニラは応える。
戻り道で何組かのパーティーとすれ違ったがヴィシュには遭遇し無かった。流石に早々魔物は再生しないようだ。ヴィシュのような魔物の死体は通路の脇に寄せておけば魔石が無いために直ぐに腐敗分解して朽ちてしまう。死んだ魔物は魔素に還元されるとか他の魔物の栄養になるのだとか言われている。本当のところは分かっていない。魔物の中には魔石を取っても特定の部位を残す魔物も居る。これから階下にいる筈のイモリ系の魔物は尻尾の先端が残る。これは乾燥させてすり潰すことで強壮剤の材料となる。フロッグ系の魔物は毒腺を残す事があるのだ。この毒腺も薬剤の原料として売れるのだ。魔石と共にドロップするからヴィシュよりお得とは言えるだろう。
そこそこの収穫を得たニラとストーンは一度ダンジョンを出て、少し遅めの昼食を取ることにした。持参して来た乾燥した黒パンと塩漬けされた肉を川の水を湧かしたお湯で戻したスープと言う簡素な物だったがニラにとってストーンと先ほどのダンジョンの様子を話ながら摂る昼食は楽しいものだった。歓談しながらゆっくりと過ごす時間はピクニックに来ているようでとてもダンジョン攻略中とは思えなかった。
再度ダンジョンに臨む時には2人とも疲れも取れやる気充分だった。
しかも地下階に向かうダンジョンには他の冒険家が少なかった。お陰でサクサクと攻略が進む。あっと言う間に地下階5階にたどり着いた。
イモリ系フロッグ系の魔物を倒すにはコツが要る。どちらもぬめりを纏うから半端な力で剣を立てても滑りまくりさほどのダメージを与えられないのだ。かと言って魔法で倒しては魔石もドロップ品も手に入りづらい。魔法は牽制や誘導に使うのが正しい。ニラは出来るだけ小石を使う。ダンジョン内で規模の大きな広範囲魔法は危険で使えない。だから弱めのファイアボールなどでひっくり返るようにストーンの前に誘導する。イモリ系フロッグ系の弱点は柔らかく白い腹なのだ。ここはすんなりと剣が入る。それはそれはスパッとな。
地下5階は少し手狭な広間1つで何故か中央に石で出来た椅子がある。壁面は水で湿った石垣で結構隙間や崩れている穴がある。ここからイモリ系フロッグ系魔物が出て来ていると言われている。最初にここを見つけた探検家は椅子の上に宝箱を見つけたと言う。それ以来、極たまに宝箱が出現する事があるのでみんなここまで一応降りてくる。
「何にも無いね」とニラが言うと無言でストーンが壁を調べだした。
「一応、ギルドでも調査済みだから何にも無いと思うわよ」ストーンの行動を呆れたようにニラは薄く笑った。
「行き止まりや王の間には仕掛けが施されていることが多いんだ。」とストーンが答えるが何処からそんなことを聞いたのだろうとニラは思う。殆ど自分のことを話そうとしないストーンだが冒険家的な能力が高い事を一緒に行動して分かっていた。
一通り壁を調べて石で出来た椅子の背面を這いつくばるように調べたストーンが小さく言った。
「あったぞ」ストーンが何かしたのかゴゴゴという音と共に椅子が全面にずれて、階下に続く階段が現れた。
呆気に取られたニラにストーンが言う。
「このまま進むか?冒険家協会に報告するか?」
驚きの展開にニラはどうする?
ニラのドキドキは止まらない~!




