探索士はっちゃける
地下ダンジョンに閉じ込められたソーン
四苦八苦しながらも探索士らしく森を探索すると
第7話 地下森林の秘密
帝暦2018年※※の月※※日 ドバ帝国?
帝都トロイの衛星都市ミハエルの近郊 キリミネ連峰 ヘンピの村の裏山隠されたダンジョンの地階3階 森林の中の遺跡
独り暮らしと言うのは気楽な分、全て自分が熟さなければならない。たとえ思うように上手く出来なくても文句を付ける相手が居ないのだから仕方が無い。ましてやここはダンジョンと思われる森林の中の川縁である。危険な魔物を寄せ付けず暮らす工夫が必要になってくる。住処を護ってくれる者は居ないから留守中を荒らされないように為なければならない。
幸いなことに窪地のような寝所は下手な魔物や動物が入り込まないように石積みで防げる。まあ、早急に建物を建てたい所だがそんな技術が高が只の探索者にある筈も無く、唯一武器の短剣も木材の切り出しで壊したくない。そこで出てくるのが“石器“だった。川沿いと言うことで石だけは豊富にある。石と石を叩き合って割れた形を吟味選定して鏃や斧とするのだ。森には木の枝も蔦もある。原始人のような方法だが有用なことは確かだった。
コツコツと地味だがやるべき事が山とあった。木と木の間隔を確かめ、間に渡す木材を石斧で切り出す。1本を切り出すのに何日も掛かったが手にまめを作りながらやり通す。倒木にしてもそこから枝払いをして、更には必要な長さに切断しなくてはならない。ちゃんとした鋸が欲しいと何度思ったことか。無いものねだりせずに地味ではあるがコツコツと木材を切り出して行く。幸いにして時間だけはたっぷりとあるのだ。1本1本の木材の太さは自分の腕の太さ程度であり、同じくらいの太さの木を切り出すことが大変なだけで後は根気だけだと自分に言い聞かせては作業を続けた。
無論、木材を切り出すだけで無く縛り付けて渡す為の縄も合間に用意する。此方は川を少し下った流れの穏やかな処に葦が生えていたので乾燥してから結って行き、丈夫な縄とした。縄を作るのも探索士としての嗜みだと教えられているのだ。
材料を揃えて何とか形を整えることが出来る量が貯まってからがまた、大変であった。2人掛かりなら楽に出来ることを独りで熟すにはやはり根気と辛抱が必要だった。根気と辛抱だけは誰にも負けないと自信があったがやはり独りでは辛い。話し相手も無く、黙々と続けるのは難しく、時折投げ出しては森の中を探索して気を紛らわせる。幸いにして最初に仕留めた猪の燻製があったので食料調達を目的としたので無く居住地周辺の安全確認の為であったがこれがなかなか気晴らしになった。
森外れの小川のせいで大型の獣は余り近寄らず、生き物の警戒はさほど必要で無かったのが良かった。その中で猪でなく次の食料の目当てとしたのは角兎だった。猪ほど手強く無くて手作りの石槍が大活躍したのだ。
角兎は逃げ足だけは早いので逃げ道さえ塞いで回り込んでしまえば隙だらけになるので飛び跳ねる直前を狙って石槍を突き出すだけで仕留める事が出来た。しかも、大物の捕食者が居ないせいか大繁殖していたのだ。
ヒャッハーと叫びながら調子こいて狩り続けた結果、1度に20匹、いや20羽ほど手に入れてしまった。
幸いなことにその中には角兎の変異種である刃兎も混じっていた。刃兎は角が刃物の様な形状をしているので短刀代わりに最適であった。全てを解体して肉は勿論毛皮も剥いで川の中で鞣し、そこそこの材料を得ることが出来た。肉は乾燥させて燻製するのには向いていなかったので出来るだけ焼いて食べきるようにして、鞣した皮は敷物として活用する。乾燥した草の上に敷いて置けばそれなりに上等なベッドが出来た。湿気に気を付けて黴を生やさないように注意する。
刃兎の短刀を手に入れた事で攻撃力が格段に上がった。普段使いとして石槍を使い、刃兎の短刀・・・長ったらしいので兎短刀と言おう・・・で止めを刺す。食料としては取り敢えず足りているので小物の魔物は捌かず、埋めてしまう。むしろ、魔物と会わないように探索を進める事にしたのだ。
動物系の魔物は避けられても植物系の魔物が厄介だった。
蔦の魔物である茨蔦は触れてみるまで分からないのだ。しかも触れれば直ぐにでも絡みついてくる。棘が刺されば毒に犯される危険があり、いくら丈夫な上着を着ていても顔や首などを刺されては堪らない。薬草採取してある程度の毒消しは可能だが、効かない場合があると困るのだ。植種が多岐に渡ると言う事が対応を不可能にしているのである。一般的な毒になら対応できても、ソーンは専門家程詳しくはないのである。
だから、それらしい蔦は予め切断しながら探索を続けているのだ。しかし成長の早い蔦ほどやばそうな色合いの樹液を出して恐怖を覚えてしまう。飛び散る液体から逃げながら先に進む。進む先に何が有るのか判らないが植生が変わってくればそれが目印になるし、切り開いて有るのが判るように目印にしている。
ぶつくさ独り言を言いながら進むと次第に蔦類が少なくなって来て下草が無くなってきた。此処まで1時間余り真っ直ぐに進んで来たのでもう直ぐ大洞窟の中央に辿り着くだろう。元来た方向を見やって今居る場所の確認をする。天井を見るとやっぱり靄っている。湿気が漂っているのだと思う。
このぐらいで戻ろうかなと周辺を見回してソーンは違和感を覚えた。もう一度周辺を見渡す。視界が切れる所で木々以外の物が見えた気がした。
視点を低くして地面を見るようにして違和感の有った方向へゆっくりと進む。以前、視覚に対する結界の影響を受けないようにする方法を学んだ事があったのだ。感覚を狂わせる結界の場合は視界に違和感を感じさせないという。物理的に近寄ることすら出来ない強力な結界もあるらしい。
結界を生み出すにはかなり強力な魔力が必要なのだと言う。魔法を使う者が居る場合より魔道具を使って結界を造るのが一般的ならしいが結界を造れる魔法使いは『結界師』などと特別な言い方をする事もあるらしい。ソーンは聞きかじりではあるがそれを思い出して何が結界を造っているのか調べる積もりになった。
慌てずにじりじりと近付いて行く。視線を後方に向けて魔物にも注意を向けていたがなぜか昆虫や動物はそこそこ居そうなのに魔物は近付かないようだった。10Mほど進んだ所に窪みと小さな石碑を見つけた。石碑から先は明らかに空気感が違う気がする。結界を生み出している石碑は三角錐をしていて明らかに角度を合わせているようだった。角度からするとそのまま進んだ方角が結界の中心のようだ。
そのまま同じように進んでみると真っ直ぐに進んでいる筈なのに逸れているようだった。後を見ると進みながら地面に印を付けるように除草していたのが曲がっていたのだ。やはり10Mほどの地点で進めなくなってしまった。下げた頭が何かに押さえ付けられて進めない。諦めて頭を上げた。
普通に林が見える。ゆっくりと頭を振ると陽炎のような歪みが見える。眇にしながら頭を上げてそちらにゆっくりと進む。高めの草を刈り飛ばしながら歩くと大きな円を描いて元の場所に戻って来た。歪んでは居るがどうも円では無くて五角形のようだった。結界の内部は結界から見える風景を写しているようだった。立木の枝振りが同じであった。
窪みに石碑が埋まっていて見えないが石碑は5つあるらしい。五芒星形の内側の五角形が結界として働いて視覚だけでなく物理的障壁も発生させているようだ。
俄然興味が湧いてきた。僕には魔法が使えない。魔力が無いわけでは無くて並にはあるが魔法として起動できるほどの力が無いだけだ。恐らく石碑の中に魔石とか仕込んで結界を発生させているのだろうから石碑を壊すか、弄るだけで結界は壊れるだろう。誰が来るか分からないようなこんなダンジョンに造られた結界、誰が何の目的で造ったのか。何か重大な秘密があるのか。結界に素人な僕でも調べれば直ぐに分かる構造なのが凄く気になった。壊すと手遅れになるようなギミックが仕込まれているような気もする。
場所を確認するように近くの立木に手持ちの兎短刀で印を付けて振り返り「また来て攻略してやる」と宣言して住処に戻った。
ソーンは結界をどうやって攻略するのか
秘密は暴かれるのか
ソーンに何が待つ?




