ニラとストーンの出逢い
ヒロインは変わった外見の魔法使いです。
愛称は“ニラ“
どんな冒険者なのでしょう。
そして、どんな出会いが待っているのでしょう?
2話 冒険者ニラの災難
帝暦2021年NANAの月9日 ドバ帝国
帝都トロイの辺境都市ヌーマタ キリミネ連峰内のオゼの森入り口付近
冒険者ニラは焦って走っていた。
何せパーティー仲間がニラを置いて先にクエストに向かってしまったからだ。
ニラという名前は本名では無い。通称と言うか渾名のようなものである。
何故ニラと言うのかと言えば彼女の見た目が食べ物の“ニラ“そっくりだからだった。身長は180㎝以上で短髪が緑色で角のようにつんつんと立ち上がって居る。肌の色は別に緑色はしていない。むしろ冒険者らしく健康的な褐色をしている。ただ、枯れ枝のように細い。合う人合う人にちゃんと食べろよと言われてしまうくらいだ。だからと言って胸が無い訳でも無い。むしろボリューム満点である。自分の唯一の自慢とさえニラは思っている。
顔つきは十人並みだが目尻が少し下がっていて愛嬌が無いとは言えない。悪人顔では無いとニラは考えている。
左腰に吊された細剣を見ると剣士のようだがれっきとした魔法使いである。荒野に住むダートフロッグから造られた丈夫なロングブーツにスキニーなパンツと巻きスカート、上半身は重ね着されたカットシャツと厚手の肩パッドの入ったショートガウンである。手は剥き身だが手首から肘まではロングブーツと同じ素材のダートフロッグから造られたガードに覆われている。だが、ニラの好みなのかどれもこれも緑色系統で統一されてしまっていた。ダートフロッグの元々の色が緑黄色なので仕方ないとも言えた。全体の色合いは確かに“ニラ“のようである。ニラの瞳も翡翠色をしているから尚更である。それでも魔法使いらしく腰回りには細剣のベルトホルダだけで無く杖代わりなのか小ぶりのタクトも挿されていたり、小物入れやら小袋やら何に使うのか判らないような金属片が飾られている。
オゼの森はさほど大きくは無い。なだらかな小山を巡るような形をしている。疎らに生える薬草やホーンラビットなどのレベルの低い魔物が棲息する程度の森である。
しかし獣道を小山の側面に回り込むとそこには草むらに隠された洞窟があった。入り口は狭く余り深くは無いがなかなか大きな隧道となっていて高さも幅も3M近くあり雨を避けたり、数日なら過ごすのに不足は無い規模をしていた。洞窟の最深部は地下水洞に繋がっており水の確保すら可能だ。だから、冒険者が利用してオゼの森で狩りをしたりするのは必然と言えた。
しかし、人間が使えるならば人間に似た魔物にも使えるのだ。
ニラの所属するパーティー『暁の魁』は10日ほど前に此処にグリーンゴブリンの小さい群れが入り込んで居るのに気付いた。
グリーンゴブリンは低木が多い森に住み着くゴブリンである。身長は100から140㎝程度で棍棒や短剣を使う。自分たちより弱いホーンラビットのような魔物を集団で襲ったり、木の実を摘んだりして食べる。単独の冒険者でも集団で組み付かれたりすると危険である。集団戦を得意とするグリーンゴブリンを討伐するには広域魔法で弱らせてから1匹づつ始末するか、ボスを一気に斃すのが肝心である。グリーンゴブリンの数が少なければ蹴散らしてボスをパーティーで斃すことも出来る。とかく数が厄介な魔物なのだ。数さえ少なければ冒険者に取って脅威とは言えなかった。
見張りが1匹であることと出入りの数から10匹を越えない群れであると俺がそう判断したんだ!と強硬に主張したのはリーダーの戦士ダンナアである。ザ・冒険者と言うような鍛え上げられた肉体と風貌を持ち、毛むくじゃらの腕や長髪を振り回し誰にも反対させない。まるで我が儘なガキ大将である。
そうすっ!ダンナアさんの言うことに間違い無いっす!と迎合したのはひょろひょろっとした盗賊のヤソジである。ヤソジは決してダンナアには逆らわない。そしていつもダンナアについて回って居るので、たまにダンナアにうざったがれて蹴られたりしている。良くやるよとニラは呆れている。
まあ、なんだ。ゴブリンなら殺そう。いや、殺すべきだ。と賛成したのは全身を古びた金属鎧で固めたムミョウと言う虐殺者である。戦闘狂で戦い始めると相手を殲滅せずにはいられない。ただ、背丈は小さい。恐らく150㎝に届かないからゴブリンよりちょっと大きいだけだろう。もしかしたら中身は人で無くて小人では無いかとニラは疑っている。
ええっ?!怖いですと笑ってみせたのはヒーラーで神聖教神官のフラワーである。いつも笑顔で魔物を大きな杖で撲殺する。仲間の怪我を癒やすときも笑顔で癒す。若作りの為に笑顔が堪えない老婆女だ。陰で仲間の愚痴を零しているのをニラは知っている。
パーティーで魔法使いのニラだけが反対した。たった数時間の様子で少なく見積もる事を恐れたのだ。洞窟をうろつくグリーンゴブリンの群れは先発隊であって、もっとオゼの森より奥からやってくるかも知れない。数日は様子を窺った方が安全だと反対したのだ。
戦士ダンナア・盗賊ヤソジ・虐殺者ムミョウ・神聖神官フラワー・魔法使いニラが暁の魁のパーティーメンバーである。たった一人の反対はリーダーの決定を覆せなかった。とりあえず装備を整えてからクエストに臨むことだけは了承して貰えたのだ。
実は戦士ダンナアと魔法使いニラは結婚の約束をしている。ニラに取ってダンナアは好みでは無い。しかし、ニラも歳だ。最近19になった。結婚するには既に遅い。世間的には15で成人するから若い娘は成人した年に結婚を決めることが多い。小さくて可愛い女がもてる。だから背が高くて可愛く無いニラはもてない。既におばさんと呼ばれても仕方ない、そう思う。
戦士としての腕も立ち、上級に手の届く熟練した冒険者だからダンナアから結婚を申し込まれたのを受けることにしたのだ。冒険者同士で夫婦と言う生活もあるのだから好みでない相手でも問題ないと半分諦めて了承したのである。
冒険者の命は安い。いつ帰らぬ者となるかなど誰にも判らないのだ。
若い内にしたいことをしなければ後悔をする事になるとニラは思っている。だから、多少の我慢はする事にしたのだ。
ゴブリンの小さい群なら容易く潰せる、そうダンナアは言った。確かに洞窟を占拠している程度のゴブリンなら暁の魁でも戦えるだろう。それはニラの広域魔法を使うからだ。弱らせていないゴブリンは集団で襲われたら戦士ダンナアと言えども危険だ。ましてや規模が確定できていない群は何があるか分からない。ニラが結婚を承諾してからのダンナアには焦りがあるようにニラには見えた。自分のために頑張ってくれようとするのは嬉しいが危険を冒して欲しくない。これでもダンナアに少しは絆されているのだから。
戦士ダンナアはゴブリンを甘く見ている。ゴブリンリーダーくらいなら戦士ダンナア単独で倒せるだろう。普通のゴブリンでも1対1で対峙したなら10匹くらいまで倒せる。だが、無傷とはいかない。集団戦を得意とするゴブリンに組み付かれたら身動きが取れないまま封殺されるかも知れないのだ。単独行動を取りやすい者ばかりのメンバーが助けてくれるとは限らない。盗賊ヤソジや神聖神官フラワーは危険とみたなら直ぐに遁走するだろう。相手構わずに倒れるまで戦い続ける愚か者は殲滅者ムミョウだけだ。だが、ムミョウを当てには出来ない。戦い始めたら誰の指示も聞かないのは何時ものことだからだ。
そんなメンバーを何とか後から声を掛けてバフわを掛けて支援してきたのがニラだった。ニラが加わる前のパーティーは突貫しては逃げだし、回復しては突貫を繰り返す中級を越えることが出来ないパーティーだったと戦士ダンナアは言っていた。なのに功を焦ったダンナアはニラを抜きに仕掛けることにするなんて。後から必ずニラが来ると考えているのだろうか?ニラ無しでも出来ると高を括っているのだろうか?
小走りに急ぎながらニラは少し怒っていた。見つけたら只では済ませない。戦士ダンナアには少しは懲りて貰いたい。多分ニラの考えすぎで、戦士ダンナアの思うとおり少数のゴブリンしかいない。そうだ、そうに違いない。ゴブリンにしては足跡が乱れていなかったとか、足跡がくっきりし過ぎていて何が重い物を身に着けているのかも知れない何て言うのは思い過ごしに違いない。この胸の内に湧き上がる不安なんて何でも無い筈だ。
そう、ニラは自分に言い聞かせ、呟き続けてオゼの森の小道を急いでいた。
もうすぐ分かれ道だ。右が森を越えてさらなる山へ向かう道。左が洞窟へと続く獣道がある道だ。
突然ニラは道を蹴って草むらに身を潜めた。
分かれ道の奥側の小岩から人が出て来たからだ。岩の中から人が出て来た!
ニラは目を擦る。・・・見間違いだろう。岩の中から人など出てこれる筈が無い。岩の向こう側から道に躍り出たに違いない。
胡散臭そうなその男はかなり埃まみれに見えた。元の色はニラの好みの緑に違いなかったが擦れと埃と泥と思われる汚れにまみれていた。この暑い季節に着ているような服では無かった。もっと北の寒い地方か、高い山に向かう為の服装だ。無論冒険者は自らの躰を守るために肌を出したり薄着になったりはしない。暑くて汗をかくにしても我慢をして過ごす。防護の為に軽鎧や部分鎧を使うが肌を晒す事などあり得ない。
男は膝を付き、辺りをきょろきょろした後大声を出した。
「そこの人!悪いが教えてくれ!」
低くてニラ好みの声だった。辺りには誰もいない、ニラ以外には。
ニラが躊躇している内に男が立ち上がりゆっくりとニラの方へ歩いてきた。
ニラは仕方なく草むらから身を起こして何時でも逃げられる体勢で立ち上がった。
「あんた、誰だい?」
眇にしながらニラは睨みつける。男はニラのより低いがそれ程逞しさも感じない。戦士ダンナアの方がごつく逞しい。戦士ダンナアには当たり負けするだろう。
「俺は・・・・ 誰だ?」
首を傾げてニラに訊く。
「知るか!」ニラは怒鳴った。
怒鳴りはしたがその男が本当に自分で首を傾げているのを見て嘘をついている訳では無いのかも知れないとニラは思う。
「おかしいな?さっきまで自分の名前を知っていた筈なんだが。クレイバットを追って巣穴近くで何かしていて・・・・」
「レイドが捧げるなら跳ばしてくれると言うので・・・」
「・・・跳びこんだら此処に出たんだ!」
腕を組み途切れ途切れに呟く男。本当に自分の名前を忘れているらしい。
ハッとしてニラは
「あんたの事なんてどうでも良いわ!それよりあたしは急いでいるのよー!そこを退いてくれる?」
名無しの男は狭い登り道を塞いで仁王立ちしていた。
スタスタとニラは男の横をすり抜けようとすると腕を捕まれた。
「待ってくれ!俺の名前は良いにしても此処は何処か教えてくれ。」
振り向いて睨むニラに平然としている男はひげ面で少し頬が窪んではいるが鋭い目つきをしていた。ニラ好みで頬が緩みそうになるのを堪えて睨みつづける。少ししてニラは譲歩した。
「此処は キリミネ連峰内のオゼの森入り口付近よ。これで良い?」
「あんたの名前は?」
ふっとニラは笑った。
「自分の名前も忘れてる奴が人に名前を訊くの?」
「じゃあ、あんたが名前を付けてくれて良い!教えてくれ!」
「じゃああんたは石から飛び出てきたから“ストーン“ね。あたしはニラ。これでいいでしょ?」
ニラは手を離した男を置いて歩き始めた。
男はニラが名付けた名前を呟きながらなんか合っている気がすると言った。
そして、ニラの後を追い始めた。
「何であたしの後を追ってきてるのよ」
バサバサ、カツカツと音を立てながら後を付いてくるストーンに向かって後を見ずにニラは言う。
「こっちが町じゃないのか?」
数M離れた位置からストーンが答えた。
「違うわよ!反対方向に行けばヌーマタの町があるわ! そっちに行きなさいよ」
そう言えば町への道を教えいなかったなとニラは思った。
「そうか、分かった。ありがとう。」
素直に礼を言いストーンは立ち止まり、後を向き戻り掛け少し躊躇した後足早に急ぐニラの後を追ってきた。
ストーンに係わって時間を食って更に遅れた為、駆け足になっていたニラはストーンが再び追ってくるのに気づいた。
「だから、何であたしの後を追ってきてるのよ?」
思わずニラは立ち止まって振り向いた。真後ろを付いて来ていた為にストーンとぶつかりそうな距離に近付いた。
ち・近い!
男臭さが風に乗って吹き付けて来た。しかしその男臭さは加齢臭では無く逞しさを感じさせるニラに取って好ましい臭さというより香りと思えるものだった。
「場所と道を教えて貰ったがまだ礼をしてなかったのでな。悪いと思ったが後を追わせて貰った。驚かせて済まん。」
目の前の男は少年から男へ変わろうとしている微妙な年齢を感じさせていて、ニラはドキドキしてしまった。ドキドキは無碍に出来ない魅力に抗えない気持ちをニラに与えていた。
!
息を呑む。こほんと咳をして平静を装ってニラは答えた。
「そんなことは良いわよ あたしはこれから戦っているかも知れない仲間の処へ急いでいるんだから!」
「ならば、俺も手を貸そう。助けられた女性を放って置くのは信義に反する。」
「あ、あんたにそこまでして貰うのは・・」
言いながらニラは手数が必要だったらと考えていた。
「なに、所用が終わったら町まで同行させて欲しいだけだ。邪魔はせん。それなりには戦える筈だ。」
と言ってストーンは腰に帯びた剣を叩いた。
ストーンの戦えると言う言葉が微妙に弱かったのが気にはなったが揉めている場合では無いと考えてわかったと答えたのだった。
踵を返してニラはストーンの事を忘れたように山道を抜け、獣道を駈上げた。洞窟の手前で忍び足に切り替え、茂みから洞窟前の様子を窺う。洞窟前には男が一人俯せに倒れていて、グリーンゴブリンが3体で蹴りを入れていた。
あれは盗賊のヤソジだ。
やはり目論見通りにいかなかったようだ。逃げ足の速いヤソジがあそこに居ると言うことは他のメンバーは洞窟の中だろう。ニラは唇を噛んだ。
だから止せと言ったのに。
まだ、ダンナア達は洞窟の中で戦っているのかも知れない。どうしようかと躊躇って居ると後から軽く肩を叩かれた。
「行くならグリーンゴブリンは任せろ。俺が相手をしている内に抜けていけば良い。」
会ったばかりなのに低めの声が頼もしかった。
「頼めるの?グリーンゴブリンだけど危なかったら逃げてよ。無理は言わないわ。」
頷くとストーンは茂みからゆっくりと立ち上がり、グリーンゴブリンに向かって走り出した。ニラはストーンの陰になるように後を追い掛ける。
ストーンの動きは素早かった。山道を駆ける時とは違いバサバサとも音を立てない。右手で腰から抜いた片手剣を前に構え、柄を左手で支える独特の構え、それは狭い場所で最小の動きで相手の動きを封じるダンジョン慣れした者の姿だった。
一番小柄で空手のグリーンゴブリンの首に片手剣を突き刺しざまに横を駆け抜ける。直ぐさま反転して隣の太ったグリーンゴブリンの踵を切り払う。
ニラは横目でストーンの剣技を見ながらそのまま小さく炎の魔法の詠唱を始めた。ストーンを置いて走り続け、洞窟内に飛び込むと同時に小さいが複数の炎球を放った。
転がり込むように岩陰に隠れて魔法の衝撃をやり過ごす。直前には武器を持ったグリーンゴブリンが数匹洞窟の外に向かって歩いていたのが見えた。
ギャギャギャ
熱風をやり過ごして岩陰から覗くとグリーンゴブリン達が倒れて暴れていた。
倒れているグリーンゴブリンを飛び越え避けて更に奥へ進む。壁から突き出た光る魔石の灯を頼りに分かれ道を進んでいく。何度か利用したことがある洞窟だから迷わずに大広間のある場所へ岩陰に隠れて、グリーンゴブリン達に見付からないように進む。グリーンゴブリン達は洞窟の外へ向かおうとしていることからストーンが上手い具合の陽動になっている事がわかった。
ギーン キン カン カツ
と剣戟の音が聞こえた。
やっぱりまだダンナア達はは生きている。少しの歓びと何故か残念さを感じながらニラは壁沿いに大広間へ近付いて行った。
大広間のほぼ中央で戦士ダンナアが巨体のオークらしい魔物と戦っていた。鎧のあちらこちらが魔物の青い血で汚れ、ダンナア自身も怪我をしていた。
大広間の片隅ではグリーンゴブリン相手に虐殺者ムミョウがグリーンゴブリンの血肉やら自分の血でまみれながら大笑いしながら戦っていた。殲滅しているようには見えない。殆ど力を使い果たしているのか最弱とも言えるグリーンゴブリンと五分の戦いをしている。ムミョウの回りにグリーンゴブリンが7匹それだけだ。他の魔物は死んでいるか虫の息であちらこちらに倒れている。おおよそ20匹程か。
あ、ムミョウが倒れた。たちまちグリーンゴブリンが群がり持っていた棍棒や短剣で攻撃する。
意を決してニラは詠唱をしながらムミョウに駆け寄る。大広間の入り口からはムミョウのいる場所まで遠くて魔法が届かないのだ。大広間の壁に沿って出来るだけ早く近付き、魔法を放つ。
小さいが複数の炎球がグリーンゴブリンを襲う。上手い具合にムミョウに当たらずグリーンゴブリンに怪我を負わせられた。腰から細剣を取り出すと左手でふらふらしていたグリーンゴブリンに斬りつける。
ザシュ ザシュ ザシュ
と上手い具合に戦闘不能程度に倒せた。
キン キン
中央で戦っているダンナアは気になったもののグリーンゴブリンの首を刺し回りながら止めを刺していく。これを怠ると後で痛い目に会うこともあるのだから必須なのだ。
ハーと息を付いて戦っているダンナアを見る。グリーンゴブリンに埋まったムミョウは放って置いてニラは再び詠唱を開始した。今度はまた違う魔法を使う積もりだった。
戦士ダンナアが戦っていたオークはただ大きいだけでなく、何となく違った。戦士ダンナアと雰囲気が似ていた。体が厳つい。腕が太い。頸が太い。熱を帯びている。強いことが分かる。
だが、ダンナアは頭一つ小さいのに負けていなかった。防御一辺倒でなく隙を見て反撃を加えている。巨体のオークは防具を帯びていなかった。それ故に戦えて居たのだろう。しかし、体力が戦士ダンナアには足りなかったのだろう、ニラが詠唱を終了する寸前にガクッと膝をついた。
あっと心の中で叫ぶ。ニラの大きめの炎球が巨体のオークの頭に向かって飛んでいくのと巨体のオークの大剣がダンナアの鎧を貫くのはほぼ同時だった。
ぐわぁー!
巨体のオークと戦士ダンナアが同時に叫びを上げる。巨体のオークは頭を両手で覆う。戦士ダンナアは突き刺さった大剣を思わず掴んでしまう。
ニラは倒れているダンナアの足首を掴んで必死で引きずろうとした。だが、重かった。思ったより重かった。汗で手が滑りダンナアの足首を離してしまった。
巨体のオークがニラに気付き、両手を頭から離しニラを睨んだ。びびってニラは後ずさりして固まってしまった。ニラを睨みながら巨体のオークが体の向きを変えてゆっくりとニラに近付いてくる。ニラは動けない。
ごぉー!
巨体のオークの剛腕が音を立ててニラに迫った。
ザン!!
鋭い剣戟が巨体のオークの振りかぶった腕を切り落とす。
翻った剣が巨体のオークの腹を横に斬りつける。
ニラを助けたのはストーンだった。
吃驚してニラは
は?
と声も出ないでいた。驚きすぎて頭が付いていけなかったのだ。
片腕で血だらけになって逃げだそうと背を向けた巨体のオークをストーンが追撃する。縦に背中を斬り付けるとふらふらと歩きゆっくりと前のめりに倒れた。ストーンが使った片手剣の切れ味にニラは声も出ないでいた。ストーンの剣の技量が途轍もないのか、それともストーンの持っている変わった形の片手剣の切れ味が鋭いのか分からなかった。ただ、ストーンに助けられた事だけは確かだった。
「あ、ありがとう ストーン!」
固まっていたのが解けて辛うじてニラはストーンに礼を言った。
ストーンが片手剣を振り鞘に戻すとニラに向かって言う。
「危なかったな。」
何だかストーンの男臭さにニラは照れて下を向いた途端、戦士ダンナアが倒れていることを思い出した。
「ダ、ダンナア!!」
ダンナアに覆い被さってニラは戦士ダンナアの様子を窺う。胸に大剣を突き刺された戦士ダンナアはピクリとも動かなかった。既に事切れていたようだった。
細く長くニラは息を吐いた。諦めのため息だった。
ニラは立ち上がると回りを見渡した。ストーンが止めを刺して回ったのか生きている魔物は1匹もいなかった。その一画のグリーンゴブリンが山になっている所がもぞもぞと動き、中から殲滅者ムミョウが這い出してきた。どうやらムミョウは生きていたようだった。
ムミョウはニラに気付き、ストーンに気付いて目を見張り
「誰?」と聞いた。
ムミョウに拠ると異変に最初に気付いたのは神聖教神官のフラワーで最初に逃げ出したそうだ。洞窟の中程までは当初の予定通りであり、予定と違うとフラワーが言い出したのは分岐横の穴からゴブリンリーダー2匹に出会って戦闘になってからだった。戦士ダンナアと殲滅者ムミョウとの連携、盗賊ヤソジの牽制、神聖神官フラワーによる回復で何とか倒し切ったがフラワーが怯えこれ以上の侵入を止めて帰ろうと言い出したのだ。そして想定以上の数のグリーンゴブリンが集まった事で神聖神官フラワーはいつの間にか居なかった。ゴブリンを殲滅出来ることで嬉々として戦士ダンナアに従った殲滅者ムミョウだったが、大広間で巨大なオークを見た途端盗賊ヤソジまで逃げ出したのだそうだ。
その後はニラが見た通りだったらしい。結局ダンナアの無駄死になっただけだ。戦士ダンナアが居なければこのパーティーは終わりだった。リーダーたる者が居ない。魔法使いニラがなると言う選択肢もあるがニラにはそんな積もりが無い。倒れ臥している戦士ダンナアを見てニラはため息を付いた。後片付けが大変だ。
大変なことになってしまいました。
ニラ達のパーティーはどうなってしまうのでしょう?
運命の出会いはニラにどんな決断を迫るのでしょうか?
そして、ストーンとは何者?!