ダンジョンの中の遺跡
ソーンの単独探索は続きます。
第10話 地下森林の秘密
帝暦2018年※※の月※※日 ドバ帝国?
帝都トロイの衛星都市ミハエルの近郊 キリミネ連峰 ヘンピの村の裏山隠されたダンジョンの地階3階 森林の中の遺跡
結界の周りは林となっていて下草が少なかった。結界を中心に100Mほどの大きさがあるようようだった。その周りはまるで密林のような森になっている。どう考えてもあの結界を中心に森が構成され意図的な物を感じさせる。
しかも結界に近付くにつれ木々の背も低くなっていて大木が育たないようになっているようだった。
結界の秘密を探るためにはもっと周りやこの森そのものを知らないといけないと思う。結界の事を考えると森あって結界があるのでは無くて、結界の為に森を構築し、大きなダンジョンしたような気がしたからだ。
それに此処で過ごすにしても出口の探索は必要だ。結界も気になるが死ぬまで此処に居るつもりはないのだ。
一応森の中央付近まで探索したのだからそのまま森を抜けるまで探索を続けるか、折り返すように森の中を探索するか迷った。遙か遠くに見える壁から落ちる滝が非常に興味を引いていたが水源近くには魔物か強力な動物がテリトリーを作っている可能性がある。だから装備を整え強敵に相対せるようになってからチャレンジする事にする。『いのちだいじに』が探索の基本だしね。
結界を挟んだ小川とは反対側を探索する事にした。小川に沿って流れの末に向かう。きっとこの巨大な洞窟の壁に当たる筈だ。運が良ければ外に出て行ける道が見付かるかも知れない。余り期待はしては居ないんだけどね。
思った通り小川は洞窟の壁に吸い込まれていた。水路の穴は水面ギリギリの小さなものだった。息を止めて潜ったとしても何処まで続いているか分からない上に外に出られるとは限らない。チャレンジするにしても無謀というものだった。しかも流れが激しくなっているのか穴からは轟々と音が鳴り響いている。
小川の出口を諦めて壁沿いに暫く歩くと地面が濡れて湿原のようになってきた。森の植生も灌木でなくガジュマルのような高温多湿の所に生えるような木々に変わってきた。
靴も多少の雨水には耐えるが水の中に入れるものでは無い。この辺りは水の捌けが悪いのかも知れなかった。仕方ないので洞窟の中央に向かって移動していくと元の森のようになってきた。少し安心しながら湿原ぽい場所を避けて洞窟の中を探索する。湿原ぽい場所を良く見ていると余り大きくは無い生き物、魔物かも知れないが生き物が居ることに気付いた。蛇では無いと思われた。蜥蜴の類でも無いだろう。その生き物は跳んでいたのだ。飛んでいたのかも知れない。近付いて見た訳でも無いし速くてよく分からなかったのだ。でも、かなりの数の生き物がいるなんて驚きであったが、取り敢えず敵対する脅威では無さそうだったのでそっとしておくことにした。
湿原を避けながら洞窟の壁に近付くようにするとさほど歩かない内にぽこぽこと湧水している場所があった。どうやら地下を通って水が染み出て湿原のようになっていたらしい。そこに飛び跳ねる生物が住み着いたのかも知れない。それとも地下を通るような穴が滝の方から続いているのかも知れない。推測しかできないので本当のところは分からない。
湧水している場所を更に進むと湿原ぽい場所がどんどん少なくなっていき、壁に突き当たった。湿原ぽい場所にあるガジュマルのような木々の向こうの壁の上の方に何やら黒っぽい場所が見えた。太陽光のような光にもムラがあるようでどうもこの辺は少し薄暗く感じていたが黒っぽい場所は穴かも知れなかった。壁の土の色にしては少し変な感じがしていた。調べたい所だったがそこまで行き着くには湿原ぽい所を通らなくてはならない。少し歩いた感じでは下手をすると底なし沼状態になっているかも知れなかった。ヤケに地面が柔らかすぎたのだ。
大きく嘆息すると僕はそこを調べることを諦めた。一人用の舟でも造れない限り近付きようが無い感じがしたからだ。誰に言うとも無く
「またね」と言って暫く行くと再び林になってきた。そろそろお腹も空いてきたのでこの辺で食事にしようと木々の間にあった岩に腰掛けた。やれやれ丁度よく座れる場所があって良かったとリュックを降ろす。少しお尻が痛いけど文句言えないかな。リュックの中をガサガサさせて大きめな香草に包まれた半燻製肉を取り出し囓りだした。塩の代わりに香草が防腐効力を上げていながら微かな香りを与えてくれている。猪の獣臭さを押さえる香草があって助かった。本当に助かったと思う。ただ、取り出した途端にその少し薬臭さが蔓延する。
癖がある香草だから人によっては嫌われてはいるので駄目な人には駄目なんだ。父さんが嫌っていたなあなんて思い出しながら囓っていると何だかお尻がもぞもぞした。
ん?もぞもぞしてると思っていたら動き出した!慌てて立ち上がると岩の下側から沢山の足が出てシャカシャカと動き出していた。どうやら昆虫のような魔物だったらしい。逃げ出すだけで攻撃してくる様子が無かったから無害なようだ。半燻製肉を咥えたまま顔を近づけて観察すると動きが早くなった。それでもシャカシャカは激しいのに動きは遅い。よく見るとあちらこちらに居るようだった。小さいモノは寄居虫位から僕が座った岩位の大きさまで様々だった。僕のいる場所から近いところの魔物が動き出していた。どうも香草の臭いが嫌いで逃げ出しているようだった。暫く立ち尽くして周りを呆然と見ていた。それなりの数が群生している地帯だった。
もしゃもしゃしながら僕はリュックを背負い地面を見ながら暫く歩いてみた。僕が近づくとシャカシャカ逃げていく。なかなか面白い。しかしそれも直ぐに居なくなってしまった。何という名前の魔物なのかは分からなかったが借りに『岩虫』と呼んでみた。森に近づくに連れて小型になり数も増えていたが洞窟の壁側には大型だけど数が少なくなっていた。どうやら餌は何か分からなかったが棲み分けが出来ているようだった。
太陽がある訳では無いがそろそろ戻らないといけない頃だった。来るときよりもサクサク戻れるが結局結界の存在するヒントになるものは見付からなかった。帰ったら躰を休めて明日更に奥まで探索してやろうも誓うのだった。
だが、帰った僕を迎えたのは荒らされた住処だった。
果たして何があったのか?
ソーンの受難は続く。