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藤崎さん家の!  作者: アン・パン
3/3

父はこんらんしている!2

「フジサキ様、生き血をお持ちいたしました」

「フジサキ様、此方が今日のお召し物でございます」

「フジサキ様、御髪を整えさせていただきます」


起床と共に娘よりも若い少女にあれやこれやと世話を焼かれるのは苦痛でしかない。

満面の笑みで自身の世話を焼こうとする少女を見て寛はこっそりと息を吐いた。


あの汚い口に呑み込まれた日。

寛は変わってしまった。

形は人である。しかしカサカサの肌は乾燥肌を通り越して茶色く乾燥しているし、髪なんかも辛うじて少し残っている程度。

試しに腕を掻けばポロポロと乾燥した肉体の一部が欠けていく。腕を見るも欠けた場所は瞬時にもとに戻り、欠け落ちた肉体は地面に触れると空気に溶けるかのように消えていく。

謎仕様であるが掃除係の人に迷惑をかけずにすみそうである。


ううん、鏡を覗いて寛は今日も唸る。

何度みても人外。目を擦って見ても、目を細めて見ても人外。いやはや困った。


「フジサキ様、椅子をお持ちいたしました」


弾んだ声で傍らの少女が椅子を引き摺らないようにして運んできた。鏡の前から動かない寛に食事は此処で取ると勘違いしたのだろう。

厚く手触りの良い布が張られている椅子は立派な外装が施されておりとても重い。少女の枯れ木一歩手間の様な細い身体では持ち上げるのは重労働だろうに、その顔には喜びが満ちている。


「茜ちゃん、ありがとうね」

(なんだか子供達の小さな頃を思い出してしまうなぁ)


礼を言って椅子に腰掛ける寛に茜と呼ばれた少女は満面の笑みを浮かべる。


「アカネはフジサキ様のお役に立てて嬉しいです」


少女は寛が人外へとなった日に上着を掛けてあげた子だ。

驚いたことに彼女は奴隷であり寛に差し出された贄だった。服を着ていないどころか身寄りも名前すらも無い。歳すらも大体しか解らないと聞いた時は驚きすぎて言葉すら出てこなかったものだ。

あの場には寛に話しかけてきた青年の他にも大人が複数いた。皆立派な服に身を包み艶々と磨き抜かれた革靴を履いていた。

なのに誰一人として少女の肌を隠そうとするものはいなかった。


有り体にいえば寛は同情してしまったのだ。衣服を与えられず真っ青な顔をして震える小さな肩に自分の娘達を重ねて。

そうして少女の見事な赤毛と燃えるような赤い瞳から安直に茜と名付けたのだ。


あれから数日、部屋へは数人の男達が訪ねてきた。

力を貸してくれ、叡智を分け与えてくれ、という願い事を口にする彼らに寛は言った。


「はぐれた家族を連れて来てくれれば善処します」


彼等は寛を絶大なる力と膨大な知識を溜め込んだ化物だと思っている。ならばそれを利用させてもらおう。

幸いにして日本人の容姿は珍しいらしく直ぐに見付かるだろうとの事だった。

右も左も解らないこの場所じゃあ彼等だけが頼りだ。先ずは家族を見付けて貰ってから話を聞こう。

家族一緒ならどうとでもなる。

何度この言葉を繰り返せばいいのやら。

寛は内心でため息を一つ吐く。


(こんな姿になってしまって家族は受け入れてくれるだろうか……)


気を取り直して鏡を見る。包帯をグルグルと巻けば穂がやっているゲームに出てきそうだ。

ううむ、まごうことなきミイラだ。


首を捻る寛は自身の変化を不思議に思っていた。

いや、正確には人外の見目になった自身は何故動揺していないのか、それが不思議なのだ。


(本当になんなんだこの知識は?

見た事も聞いた事もない言語が話す事ができ、それだけでなく読み書きもできている……)


はて?と訝しく思い色々な言語で書かれた本を見せてもらうも難なく読めた。

他には自分はどの様な事を知っているのかと思考の渦に身を委ねてみるととんでもない事実が発覚したのだ。


国一つを滅ぼす病を撒き散らす呪、

人を人外へと作り替える術、

死者を無理矢理現世に連れてくる魔法、

なぜかそれらの知識が今の寛にはあった。

他にも大きな爆発やら水では消せない炎やら物騒極まりない。

しかも寛は自身がそれらの事を出来ると知っている。

解らない。何故こうなったのか。


「駅前留学ならぬ脳内留学、なんてな……ははっ……」


困惑しながら呟いてみても現状は変わらない。変わらないのだ。

寛が人外へと変身してしまったあの日から数日経つが状況は変わらず、情報も入ってこない。

唯一視界に入ってくるのは、ぐったりした青い小鳥の首へと管を刺そうとしている目の前の茜だけ。


「フジサキ様、今日の生き血は幸せ鳥の雛です」



小鳥がヒィと鳴いた。

寛も泣きたかった。



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