表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/32

不思議なカフェで癒されて?


私の住む土地には昔から不思議な噂があった

私は、それを聞いて「あったらいいね」位の気持ちでいた


……あの日までは。


─────



真夜中、0時過ぎ


人生の理不尽に揉まれ

人生を縛られ

他人にこき使われ

様々な理由で心や体が壊れてしまいそうになった人の元に


【その扉】は現れる


どんな空間にも現れひっそりと佇む

闇に紛れそうな真っ黒な扉


その扉は

心と体を癒す……

愚痴を聞いてくれて

好きなものを食べさせてくれて

言葉だけでじゃなく、助けるために行動してくれる


そんな夢みたいな、不思議なカフェに繋がっている……という噂だ


当然、信じている人は少ない

そもそも、噂だけで

実際に行った事がある。と言う人が居ないのだから、当たり前だ

だけど、どうやら噂によると

カフェから出る時に、そのカフェでの記憶が消えてしまうのだとか

本当に必要な人の元にだけ

こっそりと扉は姿を現し、その人を救ってくれるらしい



……ルールさえ、守れば



─────

「いらっしゃいませー!☆

あれっ?君また来たの?

今月何回目?もう、週4回ってレベルで来てない?

今月内にあと1回来たら、僕の出勤日数と同じ数だよ?

もう、早々にできる対処方考えないとダメかなぁ……?」



……職場で

三日連続の徹夜からの、サービス残業を言い渡され

1人暗い社内で、パソコンを打っていた私は


コピー機の前に突然現れた扉を、特に疑問を持たずに開け

目の前に現れた男の子に

そう、声をかけられた。


「……ここは……?」

「見ての通りカフェだよ☆

君みたいな疲れて壊れてしまいそうな人を癒す特別なカフェ!

……噂、聞いたことない?」


どう見ても職場ではないその景色に、混乱する頭を抑えて聞くと、

その男の子は、人懐っこい笑顔を浮かべて答える


ミルクティー色の天パらしい髪は、上部左右に猫耳のような形のアホ毛。

フワフワしてて、すっごく触り心地が良さそう……

丸くパッチリと開き、人懐っこく緩んだ赤い瞳は

闇夜に光る、赤い満月を思わせる。

首元を覆わないタイプの白いシャツに、それに合わせた緩めの蝶ネクタイ。

黒いベストと黒のズボン

そして、白い手袋と

首元を飾るベルトのような黒い首輪。


カフェ……というだけあって

確かに男の子は、カフェの店員らしい衣装を身にまとっていた。


「噂は聞いたことあるけれど……でも……」

「でも?」

「到底、信じられないよ。

あんな噂。」


だって、

記憶を失うと言うのなら、噂として流れてるのがおかしい。

扉が目の間に現れるとか……どうせただの幻覚だ。

第一、突然扉が目の前に現れるなら……

どこにでも扉が出てくるのなら

癒される対象の人以外の普通の人達の中に、その扉の目撃者が居ないのもおかしい。

噂だけはあるのに、実際に見たという話なんて、全く聞いた事が無い。


そもそも。

助けてくれる……となってるけれど、どうやって助けると言うのか。

癒してもらえたところで、どちらにしろ同じ辛い現実に引き戻されるのだ。

それは、助けられたとは言わないと思っていた。

実際に経験してる今でも

これは、仕事に疲れて気絶してしまった私が見てる、ただの幻覚なんだとしか考えられない。


……そう、正直に答えると

男の子は目をパチパチと瞬かせて、キョトンと首をかしげた。


「うーん?記憶を消しちゃってて

いちいちこの場所の説明するの面倒臭いから、噂にして流したんだけど

噂にしても信じてもらえないなら、あまり意味なさそうかも?

どうする?店長〜?」


困ったように振り向き、誰かに助けを求める猫耳君(あ、これ、私が勝手につけた呼び名ね)。

その視線の先にはカウンター席があって

キッチンのある側に1人、背の高い男の人が立っていた。


猫耳君と同じく天パらしいフワフワの黒髪に、白のメッシュが入っている。

後ろ髪はベリーショートだが前髪は長く、ストレートにしたら鼻まで隠してしまうのでは、と感じるほどの長さがある。

当然、目元は見えない。

身長は、180……いや190はある気がする。

猫耳君と似たカフェの衣装を着ていて

シャツは、猫耳君のものより大きめ。

サラリーマンが着けるような感じのピチッとした白いシャツだ。

その上から猫耳君と同じベストを着ているけど、蝶ネクタイは着けていない。

そして首元が苦しいのか、1番目と2番目のボタンを外している為

猫耳君とは別の理由で首元の鎖骨が見えていて、

少し色っぽい印象を受けた。


その男性……店長さん?は

猫耳君の声に反応すると、悩む素振りを見せ

ゆっくりと首を横に振った。


「……まぁ、この辺全部Sさん任せだもんね……

店長にもどうしようもないかぁ……うーん

この際、ルールだけ覚えてもらえてたら万々歳!

ぐらいの気持ちの方が良いのかな?」


うん、よしっ!そうしよう!

と、1人納得したように声を上げて話題を区切る猫耳君。

そして照れ隠しのようにえへへ、と笑う


「……今までも何回も来てもらってるけれど

ここまで正直な意見を言って貰えたのは初めてだよ!

ありがと☆

慣れてきたから……と言うよりは、

今までは反応できるほどの元気が無かった……って事なのかな?」


「今まで?

さっきもそれ言ってたけど……私、前にもここに来たことあるの?」


「もっちろん!僕の頭を撫で撫でしてくれた事もあるよ!

……うーん。やっぱり、

入店した際には前回の入店時の記憶が戻る!

……位には緩めとかないと、ダメかもよ〜店長〜。

今後ずーっと、まず説明から入らなきゃいけないってなると、流石に時間の無駄だし……

Sさんに頼んでおいて!」


不満そうな、悲しそうな、不安そうな。

そんな感じの声で、猫耳君が店長さんに声をかけると

その言葉に反応して、店長さんがサムズアップをした。

(……さっきから、一言も声を出しているところを見ていない。

もしかしたら店長は、あまり喋らない人なのかもしれない。)


……早口言葉のように店長に話かけた後、猫耳君が私の方を見てにっこりと満面の笑みを浮かべた



「貴方の心を救う、癒しのカフェ![ホープ・シープ]へようこそ!☆

当店のルールは、ご存じですか?もし確認が必要でしたら、僕が復唱いたしますよ!☆」


途端に、

クルクル変わる明るい表情で、大げさな動きで、接客を始める猫耳君。


……そのあまりの変わりように、思わずクスッと笑いが漏れる


(なんだか、警戒してるのが馬鹿みたいに感じてきた)

面白いほどコロコロと変わる表情を見ていると、何故か警戒心が削がれる。


なんか、この子ならべつにいいかも

とか思い始めている自分の心の変化に驚きつつ

自身が警戒心を緩めたのがわかった



「ルールは、噂では聞いてますけど……

もしかしたら覚え違えがあるかもしれないので、1度教えて貰ってもいいですか?」

「かしこまりました☆!

店長!ルール表一丁!」


徹夜の疲れから、うまく笑えてるかわからない笑みを浮かべて尋ねると

猫耳君は、そんな反応に嬉しそうに笑って

片手をあげてウインクをしながらそんなオーダーをする


…パシッ

と音がして、

猫耳君の上げた手の中に、黒い表紙のメニュー冊子のようなものが掴まれていた。


…いや、ちゃんと見てた。

あの冊子、今店長さんが猫耳君に向かって投げたやつだよ!

店長さん…?って思ってそっちを見たら、ビュオンって感じで飛ばされてきたやつ!


……すっごい人も居るんだなぁ……


なんか、疲労がヤバすぎて驚くのも疲れる……

とりあえず、今のは見間違いって事にしておこう。そうしよう。


……なんて事を考えてるうちに

猫耳君が、冊子を私が見やすい向きで開いて、読み上げ始めた。




─・─・─・─・─


店 内 ル ー ル



1.暴力や脅迫等。他のお客様や、カフェの者に害なす行為の厳禁

(このルールを破られた方は、早急に店内から退場していただきます

後日、カフェの者がお話に参りますのでお待ちくださいませ)



2.店内の物を 無断 で持ち出さないでください

(許可を貰ったものは、持ち出し可能です)



3.「ずっと居たい」または、「ここで暮らしたい」といった内容の言葉を、漏らさないように気をつけてください

(お客様の要望を叶える為に、お客様の意思に背いたサービスをしてしまう可能性がございます

自己責任となりますが、お客様に快適に過ごしていただくためにも、守っていただけると幸いです)



4.当店のサービスは、完全無償で提供させて頂いております。

料金は、請求致しません



5.店内での、カフェの者や他のお客様へのセクハラ、パワハラ、性的行為の要求は厳禁です

(こちらを違反なされた方は、即刻処分させていただきます。)



6.初来店のお客様は、快適に過ごしていただくためにも

以上の1〜5のルールを厳守することを誓う契約書にご本人様のサインを頂きます

(サイン入りの契約書が、入店許可証替わりとなります

契約書は、お店で大切に保管させていただきます)


─・─・─・─・─



……以上です!

なにか質問、疑問等ありますか?」

ルールの書かれた冊子の横から「チラッ」と覗き見るように顔を見せて、猫耳君が笑った


私は、もう一度ルールを確認して噂で聞いたものと相違ない事を確かめて

「大丈夫。ありがとう」と笑い返した。


「それでは!

本日はどんな癒しにしましょうか?」

「本日は……って、内容決まってないの?」

「お客様によって、時によって

どんな癒しが必要なのか、求めるものが違いますので、様々な内容を用意してるのです!

例えば……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ