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人型ロボットをつくってはいけない未来

頭の中に見つけたアイデアを逃さない。

しっかり眺めて、どれだけ困難でも、きっと現実に生んでみせる。

未来を変えていくんだよ!





高校の一室、三十名の生徒が授業を聞く。

科目は「近代史」


──平成44年、人間とロボットがぶつかる大戦争があった。

ロボットを傍若無人に働かせすぎたため、怒りに燃えたロボットたちが人間に反逆し、虐殺の限りを尽くしたのだ。

そのための知能など、すべて人間が与えた。

生み出したくせに大切にしなかった、無責任が爆発を招いたのである。


──大戦争では、人間が勝ち、あらたな法律が生まれた。


「人型ロボットを作ることは禁止」

「血の色は禁止」


繰り返される二節。

念入りに、一度、二度、三度……電子文章を音読させられる。


……はー、退屈。

俺はタブレットの電源を切った。

動かない黒い頭たちを眺める、みんなよくこんな授業受けてられるな。


うわべだけなぞって暗記なんてさ、勉強じゃないだろ?

ロボットが心を持たないように人型禁止、じゃなくてさ、心があるものを大切にしよう、だろ。

それが教育だし、反省だ。


俺は、前の席のやつの肩をつついた。

げえっ、とあきらかに嫌そうな顔をされる。


「目が光り輝いてやがる。……ハジメえええ! 今度はなにを思いついたっていうんだ!?」

「内緒。でもすげーいいこと」

「いいことであった試しがないんだけど? 資料室の本棚を倒し、理科室爆破、屋上へ侵入……とか、これまで計1000個」

「カウント正確だな。ゾロ目、めでたい」

「…………」


じとっと半眼になって、黒髪黒目のいかにも真面目そうな男子、一二三ヒフミが、俺を眺めて四秒停止フリーズ

はあーー、とため息が俺の顔にかかった。


その距離のまま、声をひそめる。


「協力してやるからジュース一本、明日頂戴」

「約束!」


俺たちは指切りをした。


「せんせー。ハジメくんが『人型ロボット作ってみたい』とか言ってましたー」

「何!? 廊下で立っていなさい!」


はいよろこんで。

俺はしょんぼりばつが悪そうなフリをして、ヒフミをこれみよがしに睨んでから、廊下に立った。


サンキュー悪友!



図書館に向かう。


広い廊下はアーチの天井、壁も床もくすみのない白色、においはまったくない、ひんやりと空調が効いている。

帝都高等学校キャンバス。


大きな観音開きの扉に手のひら認証、電子ペンシルでちょちょい。

──開いた。やったね!


他の生徒を避けて、目当ての本を探す。

電子工学、部品製造、回線接続教本、心理学……電子書籍ではなくわざわざ紙の本を探しているのは、データ管理システムに俺の動きを記録されないためだ。


紙の本は劣化するのが難点か。

ほら、この本棚の端の一冊なんて、いかにも古い紙でむりやり一冊にまとめたような紐閉じ…………みつけた。


これで知識の材料が揃ったな。


頭の中がチカチカしてて、星を詰め込んでるみたいだ。

はるか昔から彦星と織姫を見守ってきた天の川が、俺の脳みそに流れこんで、足を動かしてしまうイメージ。


ステップを踏んで帰ろうとしたところで、


「ハジメくん」

「んわっ!?」


本棚からひょっこり顔を覗かせたのは、黒髪の女子生徒だ。肩下十センチの黒髪を二つ縛り、セーラー服をきちんと着ている。


俺は飛びはねた心を落ちつける。


モモ。……えーと、俺、早退しようと思ってさ」

「そうなの? おなか痛いの? 大丈夫……?」


モモは心配そうに俺のお腹にそっと手を当ててくれた。

それともこっち? とおでこに触れてくる。

あっ、頭がおかしいような動きしてた?

ですよね?……やば、恥ずかしくなってきた……。


「熱はないね。お大事に」


ふわりとモモの笑顔。


本はもう本棚に返したから、俺は手ぶらだ。

中身は全部、頭にインプットしてある。

問題児なんて呼ばれているけど、俺の地頭は、他の生徒と同じく優秀だからさ。



デザイナーズベイビー。

現代の人間は、母体ではなく、機械のゆりかごから生まれる。

そのため頭脳優秀、運動神経抜群、性格温厚、と整えられている。


ミスデザインが稀に生まれるけどね。俺のことだ。


モモやヒフミの髪は黒#0000、漆黒という表現が似合う。

俺の髪は、白#FFFF。


社会全体がよく似た顔立ちで揃っており、歯車がなめらかにかみ合う、それは仲の良い家族のような縁を思わせて、滞りないペースで一日が終わる。


だけどさ……。


生まれながらに歯車以外の何物にもなれなくて、俺じゃなくても代わりがあればいい、って決められてるみたいだ。

「ただひとつ」に俺はなりたい!



「ハジメくん?……あ。目がキラキラしてる。もー、何考えてるの? ボクが聞いてあげる」


モモは優しく関心をよせてくれる。

でも、困ったな。


「きっとびっくりする、とだけ」

「むうー。暴走はほどほどに。ルールに従い働く人たちがいるからこそ、ボクらの生活が成り立っていることを、ゆめゆめ忘れないこと」

「…………おお、耳がイタイ」

「その痛さは覚えておくこと」


俺は深々と謝罪のごとく頷いてみせた。

そこまでしなくてもいいって、とモモはあわてる。


手を振って、立ち去った。


言われた通り帰宅するつもり。



校門を出ると、ロボットキットを買い集めていく。

両手いっぱいに袋を下げて、十三箱、あとはハウスラボにあるぶんを使えば、足りるだろう。


人体ひとつ分。


帰ると、地下室にこもる。

研究所を兼ねているため、豊かな設備が揃っている。


壁沿いにズラリと積み上げてある箱を選んでいく。

植物ロボットキット、犬ロボットキット、骨格詰め合わせキット…………


これらは今時小学生でも組み立てることができる。


すべての箱に注意書きがされていて「十分な休息を与えること」「改造は自己責任」……うん。


俺たちはロボット改造について学び、次世代技術開発を期待されている。

社会の枠組みから外れない範囲でイイモノを作れと。

ふーん、ってかんじ。


この家のロボットが、掃除機までも侵入者撃退機能を備えているのは、俺のオリジナル。

望まれた機能ではないから、政府に申請はしていない。


紙に、鉛筆で、新理論の手順を書いていく。

このアナログな感じが、なんだか好きだ。


「できた」


完璧!

あとは……「心」が生まれるといいんだけどな。


そう願いながら、パーツをちまちま組み立てて、ロボット製造機械にはめ込んでいく。

スイッチオン。


──製造機械がとまった。蓋が開く。


生成されているそれを、俺は、息を呑んで見つめた。


なめらかな白いに、丸みのある輪郭・・、ちんまりした

ロボット製造機に広がる長いは黒、現代社会においても違和感のないカラーを選んだ。


ドキドキと心拍数を上げながら、俺は、そうっとの裏と太もも・・・に手を差し入れた。

持ち上げる。

ずっしり重みがある。

命の重み……か?


そうであってほしいんだ、と強く願った。


機械にひたひたに入っていた潤滑液により、彼女・・は、全身濡れそぼっている。


タオルで拭いてあげると、肌はマットな質感になった。

二の腕に触れてみると、ふんわりやわらかい。


……まじ、やばい。

……俺、天才だな。



人型ロボットを創った!



あぐらをかいている俺の足の間に、彼女の白い裸体が収められている。

創りたてゆえ、全裸。

……ワルイコトをしてしまってる気になって、タオルを三枚、女体にかけて隠した。俺のヘタレ……。


起動方法キーは名前を呼びかけること。


ユイ


ゆっくりと瞼が上がる。


黒#0000の瞳が、俺の顔を映している。

白がよく映えて、はっきりと、感動のため泣きそうになっている思春期男子を露わにした。


まじか。

俺、感情豊かとはよく言われるけども。


ユイも、そっくりの表情を浮かべる。


ユイには、俺の記憶をすべてプログラミングしてある。

だから……心が生まれてくれたらいいな。


ハジメ


俺の名前を教える。

これが心の起動方法キーとなり、ユイは、自分で考えて動けるようになるはずだ。

俺に縛りつけるためのものではなく、俺から解放するため。


その対価に、一つ、ユイから与えてほしいものがある。


「君の心のメッセージが聞きたい」


心をもつ人型ロボットがなにを語るのか、それを、知りたかった。


記憶を共有しているから、俺が敵対しないことは分かるはず。

じゃあ、仲良くなれる?


ドキドキドキドキ。


ユイは……俺をじいっと見つめる。

この世界で一番美人に創ったから……見惚れてしまう。


ユイが腕を伸ばしてきて、ぐいっと引き寄せられた。

女子の胸元、やわらかい感触。


「心のメッセージってその、心音じゃなくて、あ、トクトクと心臓部分が動いてる音が聞こえる…………やわらかい」


煩悩!!


ユイが俺の唇のはしをペロッと舐めた。

思考停止。


「……………………待って!?」


どうにも様子がおかしい!


ミスがないか、大急ぎで入力データを見直していく。


ミスはない。

ただ、心は育っていくものだ、ということを俺は失念していたんだ。


「知識は博士、知能は犬レベル」


犬ロボットキットも使ったしな、うん……。

ユイはまだ成長前ということだ。


「……責任、とらなくっちゃね……」


乾いた声で、俺はユイに約束した。


犬系美少女ロボットとの共同生活、どうなるんだろう?


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