戦乙女と盾戦士 〜死んだらリア充になりました〜
「おめでとーございまーす!」
「……は?」
目を覚ますと、辺りには油と鉄のにおいが立ち込めていた。どうやら事故ったらしい。
横たわった俺の上に、スカートの付いた鎧みたいなのを着た、同級生の女子が浮かんでいる。コスプレ?
「……風見さん? え、なんか浮いてんだけど!?」
「待って待って、……コホン、説明します。おめでとーございまーす!」
「そこから!?」
とりあえず身体を起こす。……妙に身体が軽い。頭上から見下ろしてた風見さんと目線が揃う。俺も浮いてんじゃん。
「うーるさい、いいから聞いて。結城ハガネ、18歳。1998年7月……つまり今日、レンタルビデオ店からの帰り道、車線を超えてきた車と接触。借りたビデオは、お姉さんの誘わ「ちょーっと待て!」……ん?」
「なんで風見さんが、俺の厳選したDVDのタイトル知ってんだよ!」
「あれ」
彼女が指差す方を見ると、そこには煙を吹いて止まっている車や、スクラップになった愛車に混じって、借りたばかりのDVDが袋からコンニチハ……っておい!!
「俺のお姉さんがぁっ!!」
「いーから。肝心なのはそこじゃないの。いい? キミは死んだの。あの車にぶっ飛ばされて。そこまでOK?」
「OK……なわけあるかっ!! 死んだってどういう……なんだあの赤いの」
バイクのすぐ横に、赤い塊が落ちている。人か? どっかで見たことが……。
胸騒ぎがした。俺は、あれを知っている。
「……俺?」
「お、正解。見ての通り、キミは事故でいー感じの肉塊になりましたと。で、抜けた魂がここのキミと、そういうことよ。あ、魂は生前の形を残すから、キミの見た目は変わらないけどね」
死んだ? さっきの事故? マジで?
……そうか、俺は死んだのか。
話を聞いても、なぜか俺は、特にこれといった感情を持たなかった。生への執着というか未練というか、そういうものがするりと抜け落ちている。
「死ぬってもっと、劇的な感じかと思ってたわ」
「魂が肉体から完全に離れてるからねー。実際ここはもう現世じゃないから、多分窓の外から家の中を見てるような感じじゃない?」
確かに。それに、身体が軽くなってスッキリした気分だ。
そんなことより、俺にはもっと気になることがあった。
「……で、風見さんは何者?」
「あ、そうそう。んと、オーディン麾下ヴァルハラ日本支部所属戦乙女、風見アカネ。結城ハガネくん、キミをスカウトしにきましたっ!」
テンションたっかいなおい。
ワルキューレってのは、北欧神話の女戦士……ていうか、騎士? ゲームにも出てくる、神の使い、だったっけ?
でも、日本人もいるとは知らなかった。
「ワルキューレには、戦う以外に、戦士の魂を探すっていう仕事もあるの。で、これは! って思った人が亡くなったら、その魂をヴァルハラの戦士としてスカウトして、バディとして一緒に戦うってわけ」
「それが俺?」
風見さんはうんうん頷いている。その度にゆらゆら揺れるセミロングのポニテ。
それにしても現実味のない話ではある。
「てことはなに、偶々通りがかったら俺が死んでたから拾ったってこと? そんな簡単に決めていいのか? 俺、喧嘩も戦争もしたことねえよ?」
「ちょっと違うかなー」
風見さんが、真っ直ぐに俺を見つめてくる。美少女に見つめられるってドキドキするのね。
「前から決めてたんだ、キミをスカウトするって」
「へ……」
少し頰を染め、上目遣いになった風間さんが、やけに可愛い。
「風見、さん……」
「あの、ね、その……!」
急に鋭くなった風見さんの目線を追って振り向くと、そこには黒いゴマ粒のようなものが見えていた。
「……もう来た」
「……なんだあれ。人?」
「……黄泉比良坂の住人。平たく言えば、亡者よ。ボクは、あいつらにキミが連れて行かれないように、迎えに来たの」
亡者。黄泉比良坂。
次々に繰り出される禍々しい言葉。それらは、俺が既に魂だけの存在だということを、否応なしに感じさせる。
「選ぶのはキミ。ま、向こうに行くのはおすすめしないけど」
「どういうことだ?」
「簡単に言えばね」
どこから出したのか、風見さんの手には長槍が握られていた。
「今の【あの世】は、地獄しかないのよ」
ゴマ粒大の亡者は、今やソラマメくらいの大きさになっていた。っていうか、天国とか地獄とか本当にあるのな。
「向こうについていって地獄に直行か、ボクと一緒に楽しく愉快に戦うか。今決めて、どっち!?」
「い、今すぐ!?」
「結城くん」
風見さんの、ふわりと靡くポニテから、いい匂いがした。
「ボクは、キミが好き。いじめられてたボクのことを、盾になって守ってくれた、あの時からね。だから」
風見さんが身体ごと振り返り、俺の目を見て言った。
「だから、今度はボクが守るよ」
射抜かれた。こんなに真っ直ぐに気持ちをぶつけるのか。おれは、やっとの思いで声を絞り出した。
「覚えて、たのか」
……あんなこと、忘れていいのに。
「嬉しかったんだもん。あの時、誰も助けてくれなかった。……結城くんだけだったんだもん。……かっこ、よかった」
「風見さん……わかった。けど、守られるだけってのはなしだ」
俺のような素人なんか役に立たない。でも、そんなこと言われたら。
「……キミの武器は心の強さ。それは、魂だけの存在となったキミにとって、最強の武器になる。……ボクは知ってる。キミの強さも、優しさも」
そう言いながら少しはにかむ風見さんの顔を見た俺は、なんというか。
この戦乙女を、守りたいと思ってしまった。
「想像して。キミの最強の武器を。思いの強さが、その武器を無限に強くするから」
「思い……」
「絶対、キミを守ってみせる」
そう言って風見さんは亡者に立ち向かう。その数は5。
(相手は鎌が3、弓が1、あと一人は……魔法使い?)
俺の手に収まるはずの、最強の武器。
倒し方なんか知らない。
ならばせめて、彼女を守りたい。
すると、俺の眼の前に、淡く蒼い光の粒が集まってきた。
これが、俺の武器になっていくのか。
風見さんが戦っている。矢を叩き落とし、鎌を反らし、弾き、受け止める。反動を使って後ろに飛び、軌道を変えて手近な刺客を突くが、見えない何かに遮られた。やつらの動きは緩慢だが、それなりに統率が取れている。
……ん?
見えた。風見さんの槍を遮ったのは、壁だ。触れなければ見えないが、穂先が当たる時だけ紫色の光を放つ。あの魔法使いか。
形があるものは、壊せる。
でも、その前に。
「壁……何にも負けない、すべてを守る……」
渾身の力を込めて、おれは叫んだ。
「――最強の盾を!!」
俺の前の光が形を成す。大ぶりで武骨な、金属の盾。
これが、俺の思いの形か。
「下がれっ!!」
「!」
俺の声で風見さんが下がる。代わりに俺は盾を構えたまま前に進み、対峙していた鎌に盾をぶつけた。
「うおおおおっ!!」
そのまま力任せに盾を振り上げ、鎌を弾き返す。そのまま、横にいる2人目の鎌持ちに、今度は上から盾を叩きつけた。
「邪魔だぁぁぁぁっ!!」
「盾……」
「このまま突っ込んで壁ぶっ壊すぞ!!」
「う、うんっ!!」
「おぅらぁああ!!」
体勢を崩した鎌2人は放っておく。残る鎌、弓が俺たちを狙ってくるが、その軌道に俺たちはもういない。
「いっけええっ!!」
「ブチ抜けええええっ!!!!」
見えない壁と俺の盾が激突する。さすがにかてぇな。
だが、勝てる。俺には、その確信があった。
――思いの強さが、武器を無限に強くする。
「だったら!! 負けるわけには!! いかねえだろぉがあああっ!!!!」
何もない空間に紫のヒビが入り、それはどんどん拡がっていく。やがてヒビ同士がつながり、綻びとなり、欠け落ちた。
風見さんの槍が、そこを猛烈な速度で突き通る。
「……!」
壁を作っていた亡者は、槍が刺さった瞬間その身体を硬直させ、そのまま霧散していった。
他の亡者たちも次々と、同じように黒い霧となり消えていく。
「……ありがと」
「ん?」
「また、助けてくれた、ね。それに、その盾……」
「素人が武器持っても役に立たねえよ。槍に盾なら相性も良いだろうしな。……それに、女の子が武器持って戦ってるのに、守れないんじゃかっこ悪いだろ」
風見さんの目が見開かれ、顔がみるみる赤くなっていく。可愛いなおい。
「そういうの、反則……」
もじもじながら、風見さんが呟く。
「んで、これからどうすんだよ?」
そういうと彼女は、はっと気がついたように表情を戻した。
「あ、そだ。……えと、ボク達はこれから、ヴァルハラ日本支部に行きます。細かい話はそこでね。ざっくり言えば、キミはボクと一緒に、さっきの連中と戦うの。目的は、日本の裏世界を平和に戻すこと。最終目標は、高天原の奪還」
「高天原!? え、ワルキューレが!?」
「日本支部だし」
そういう問題!? っていうかスケールでかすぎねえか!?
ついさっき死んだばっかりの俺には、刺激的過ぎる言葉のオンパレードだ。
だけど。
「一緒にがんばろうね、ハガネ!」
彼女のこの笑顔を見ちゃったから。
いっちょ、やってみようか。
「あ、期限はあと1年ね!」
……まじか。




