五話『何も起こらないのが普通(一)』
@クゥ視点@
木の葉が茶色くなるこの季節、一般では何とかの秋とか言うのが風習っぽくなる。
と、まぁそんな事はおいといて…この部室内には部員が全員居る。そして全員がだらけてる。
…無論俺もだ。
少し前の体育祭や、更に前の合宿の疲れを癒して何が悪い?
これで誰も文句は言えまい。とにかく俺は疲れてるんだ。
疲れてるんだが…
「退屈だ。」
「同感だぜ!」
佐和が漫画を読みながら答えてくれる。
ちなみにこの部室は、此処の学校の他のどの部室よりも現在は大きい。でもそこまで大きいわけでもないぞ。現在の部員に合わせた広さだと言ってたしな。
「おぉ、それじゃあ私と何処か行ってみよー♪良いよねクゥ君?」
「今日もか…別に良いがいつもの場所で頼む。」
「了解っ!それじゃあ少し待っててね。」
最近は萩異と何処かに出かけることが多い。しかも、断ってもゲームの選択肢のようにしつこく頼んでくるという、必要以上に性質が悪い行動である。
一週間に最低二回は行かされるな。今週もこれで六回目だし。
あと、部活メンバー数人が後を付けて来る時があるな。分かりやす過ぎる変装をしたりしてきてるが、何故か萩異は気付いてなかったりする。
「それじゃあ出発ー♪」
「はいはい。」
で、俺達が来た場所は、特星エリアにある人生相談所と書いてある店。萩異と出かける場合は大抵、此処に来る事が多い。
「悪いな、毎回此処ばかりで。」
「いやいや、クゥ君の行きたい場所なら何処でも大歓迎だよ!」
この会話で分かるように、俺が此処を訪れる事を萩異に進めている。
言っとくが人生の相談に来たわけじゃないぞ。
「お邪魔しま〜す♪」
「お邪魔します。」
店の中に入る。今日は誰も後を付けてないようだな。
「おぉっ、クゥに萩異じゃないか!今日もデートか?若さって良いじゃないか!」
この人は、渚紅 涼気さんと言ってこの店の経営者だ。熱血的な人で、この人に人生相談をしたら必ずやる気が出ると世界的に有名だが客は少ない。あと、夏にこの人と会うのはある意味危険だ。
年は三十代くらいで特殊能力は、炎を操れる事らしい。
校長の知り合いで俺が涼気さんと会ったのは、涼気さんが校長に会いに来た時だ。あの時は夏で本気で死ぬかと思ったぞ。
「そうだよ。クゥ君の要望だから断れなくて♪」
「そうかそうか!まぁ、この調子で自分をアピールし続けるんだ!そうすればクゥだって虜にする事が出来る!そう信じ続けるんだ!!絶対諦めるんじゃないぞ!!」
「わかってる!それに私もいろいろ試して頑張ってるよ♪」
「それじゃあ今日も特訓だ!」
「おぉー!」
二人は外に出て行く。俺が此処に来る理由は、あのように萩異が特訓に集中してデートっぽくなくなるからだ。我ながらナイスアイディア。
「失礼します…って、クゥじゃないか。」
あれ、神酒じゃないか。
「もしかして涼気さんに相談?」
「まぁ、そんなところだ。まさか居ないのか?」
「萩異と何処かに出かけてるはずだ。」
「そうか…」
かなり落ち込んだ様子の神酒。よっぽどな事が有ったと予測しよう。
ちなみに普通は、代わりに悩みを聞いたりする場合もあるが、そんな事したら問題に巻き込まれるから、悩みを聞くつもりなんかない。
「実は…」
「あっ、大体予想は出来るから話さなくても良いぞ。」
「そうか。」
本当は予想なんか出来ません。だが問題に巻き込まれる事はこれで無い。
「………」
「………」
でも沈黙が続くのは嫌だなぁ。
「そういえば記紀弥さんの調子はどうだった?」
「あの騒動以来は、調子が良くなっていったぞ。寺の結界も騒動前より強くなってた。だから私も安心して此処に来れるんだ。」
あの騒動というのは夏の合宿の事だ。記紀弥さんは寺の中で一番偉いらしい。
「じゃあ下っ端幽霊は?」
「あぁ、キールか。帰ったら本気で懲らしめるつもりだ。」
あっ、かなり怒ってる。…どうやらあの下っ端幽霊とトラブルが有ったらしいな。
「そうだ、しばらく有休を取ったんだが宿とかないか?」
現代エリアにはそんな場所は無いな。特星エリアなら何処かに有るか?
「俺は心当たりは無いなぁ。一回、部室に行って聞いてみるか。」
「萩異は放っておいて良いのか?」
「基本的にいつもの事だから大丈夫だ。」
だって長い時は数時間かかる時もあるんだぞ。待ってたら昼飯に間に合わなくなる。
混合部の部室についた神酒は、合宿の時に会わなかった冷波や校長などに自己紹介をした。その時の自己紹介を聞いて分かったんだが、神酒の特殊能力は、様々な動きを変化させる能力らしい。簡単に言えば、此処から真っ直ぐに神酒に石を投げても、別の向きに変化して当たらないということだ。
そして、記紀弥さんの特殊能力も話してた。記紀弥さんの能力は、有利不利を操る能力で、かなぁ〜り強いらしい。
あと、下っ端幽霊の特殊能力は、何かをサボってもばれにくい能力らしい。
この三人は特殊能力とは別に、様々な技を使えたり幽霊から人間になったり逆に人間から幽霊になったりできるらしい。
「それで何処か良い宿を知らないか?私みたいな幽霊でも泊まれそうな所とか。」
「それなら此処に泊まれば良いよ〜。宿泊代もかからないしね〜。」
「良いのか?」
「全然構わないぜ!その代わり詳しい情報をゲホォッ!」
個人情報を貰おうとする佐和を冷波が殴る。
「まぁ全然構わないって!…後でこっそり宿泊代を私にギャフゥッ!」
こっそり宿泊代を要求する姫魅も冷波に殴られる。
「この二人の言うことは気にしなくて良いわ。」
「そ、そうか。」
万能人を前に流石の神酒も恐れ気味。
「でも、本当に良いのか?」
「気にするな。俺達は全員、此処に泊まる事はあまり無いからな。」
「私はクゥちゃんが駄目って言うからだよー。」
細かい事は気にする妹。だって寝てるときに誰か来たら困るだろ。
「ならそうするか。」
「とりあえず決定。家を持たずに都市に居るとホームレス扱いされるからな。」
「私は家を持ってませんよ。」
…はい?校長って家を持ってないのか?
「じゃあ何処で寝泊りしてるんですか?」
「瞑宰京に居た頃は主にテントでしたが此処に来てからは、校長室を私物化してるんです。」
それで良いのか校長…あと、凄く校長室が見てみたいんだが。
「校長室…見てきても良いですか?」
「えぇ、別に構いませんよ。私が案内します。」
「俺もオマケで行くぜ!」
校長室の扉を開けると中は、和風だった。
「此処って本当に校長室?」
「凄いぜ!常識を覆す校長室だぜ!」
【ニャ〜。】
あっ、黒猫だ。
「あの猫は、SCゲージという名前です。爪が鋭く天井にぶら下がるのが趣味なんですよ。」
【ニャ。】
SCゲージはジャンプして天井に両足の爪を刺す。た、確かにぶら下がってる…
「うおぉぉぉ!あの猫スゲェェェ!!」
佐和が非常に驚いている。確かに凄いな。
「あれ、そこにあるゲームの数々は?」
「私が各地で集めてきたボードゲームです。少々危険ですけどね。」
妖しい雰囲気は、無さそうだが呪いでも掛けられてるのだろうか?
「このボタンは何ですか」
壁に赤いボタンを発見。明らかに押さない方が良いっぽく見える。
「そのボタンは押せば何かが現れるボタンですよ。巨大モンスターが出たこともあります。」
「マジか!?俺も見てみたいぜ。…そらっ。」
和佐がボタンを押す…見たければ勝手に見れば良いさ。でもな、俺が居ないときにボタンを押すようにしろ。
「どわあぁあぁああ!」
何処からか飛ばされてきたのは…いつだったかの下っ端幽霊。
「いったたぁー、何なのよもう!」
「校長、この幽霊を吹き飛ばし…って居ないし。」
ボタンを押す前に逃げたか。
「あぁ!アンタは前に私をボロボロにしたクゥ!」
「何!?クゥ、この人と知り合いなのか!」
「あぁ。」
でもボロボロにしたのは妹だったよーな。
「今のアンタはアシスト一人のみ!今日こそ私の天下よぉっ!変身!」
そう言うと同時に幽霊状態になる下っ端。
〔さぁ、覚悟しなさい!〕
「とりあえず教室に走るぞ。」
「おぉっ!!」
さて、俺は勝負なんかできる立場じゃない。平和主義者だし。
「じゃあ佐和、後は任せた。」
「ええぇぇぇっ!お前は戦わないのかよ!?」
「あぁ、俺は争い事は好まないからな。」
相手は幽霊だが、佐和ならどうにかなるだろ。
〔追いかけるの面倒なんだから走るなぁー!〕
浮いてるのに言える事か?
「待てぇっ!此処からはクゥの一番の戦友である俺が相手だぜ!」
いつの間にか親友から戦友になってるし…
〔所詮は人間に何が出来るのかしら?〕
「仕事をサボるような奴に何が出来るんだ?」
〔クッ、何故その秘密を?〕
そりゃー、神酒から特殊能力聞いてるからだろ。
「俺に分からない事は無い!」
女性の情報に限り…だろ。
〔まぁ良いわ、覚悟しなさい!霊技・霊魂スピンクラー!〕
下っ端を中心に大量の黒い球が全体に放たれる。
「オイ、伏せとけ。」
「甘いなクゥ、こういう技を伏せて避けるのは反則なんだぜ!必殺・爆破バリセリャード!」
佐和は漫画の本の一ページを破り、紙飛行機の形に折りたたみ飛ばす。その時間は約一秒。
と、紙飛行機が黒い球に当たった途端に爆発する。それも数十回くらい。
だが爆発に巻き込まれた球は全て消え去ってるな。でも…どういう仕組みで爆発してるんだ?
〔な、なかなかの腕前の様ね。そっちが二体ならこっちは大人数で行くわ。〕
えっ、俺も戦闘員に入ってるの?
〔霊技・信頼高き霊集!…この技はね、私を信頼している幽霊全員を強制的に呼び出す技よ!〕
「なっ、こっちは二人だ!全員集合なんか反則的だぜ!」
〔勝てればなんでも良いの!〕
幽霊はそろそろ到着するだろう。
〔こんにちはー。〕
〔またコイツか………〕
やって来たのは前に居た自縛爆霊の一人のみ。
〔まったくキールさん酷いですよ。食事中に急に呼び出すんだから。〕
〔いやいやいや、それより他の幽霊は!?〕
〔さぁ?僕以外は見当たりませんけど。〕
信頼が無いんだなー。流石は下っ端。
〔あれ、貴方はあの時の…確かクゥさんでしたっけ?〕
「あぁ。こっちは俺の顔見知…戦友の佐和だ。」
「よろしくな!」
〔はい。〕
〔何で一人だけなのよ…〕
下っ端がまだ落ち込んでいる。この際、現実を教えてやるか。と、その前に…
「そういえば名前は何て言ったっけ?」
〔僕は自縛爆霊の光矛 三無です。〕
「三無、ぶっちゃけそこの下っ端を信頼してるか?」
〔下っ端じゃないわよ!〕
〔一応してますよ。嫌われ者で、自分の事しか考えてなくて、必要性の無いキールさんとはいえ一応、僕の担当の上司ですから。〕
〔そこ!フォローになってないわよ!〕
「じゃあ他の幽霊で下っ端を信頼してるやつは居ると思うか?」
〔ははははは、居るわけありませんよ。〕
〔……………〕
だいぶ落ち込んでる下っ端。
〔じゃあ、帰りましょうか。〕
〔えぇ!?何でよ!〕
〔だって神酒さんが有休を取ってて人手不足なんですよ。普段サボってるんだから神酒さんが居ない間くらいは、仕事してください。〕
〔私も有休もらえるかな?〕
〔キールさんの場合は、毎日が完全有休みたいなものですよね?さ、戻りますよ。〕
〔有休〜!私の有休ぅぅううっ!〕
三無に引きずられていく下っ端。三無は将来出世すると思う。
「さて、帰るか。」
「おぉう!もう昼だしな!」
こうして日常が過ぎていく。でも毎日がこうだと疲れるな。
「よし萩異!まだまだ走り続けろ!決して諦めるんじゃない!この程度でギブするようならクゥは振り向かないぞぉっ!目指すは百キロ完走だぁっ!大丈夫だ信じ続ければ簡単な事だ!常に良い結果だけを考え続けろ!!」
「分かったよ涼気さん!クゥ君の為なら火の中、水の中!」
「バカヤロォッ!水に入ったら熱い思いが消えちまうぞぉぉっ!!」
「よおぉぉし!!クゥ君の為なら火の中、炎の中、マグマの中ぁっ!!!」
現在二人が走り続けてる場所の気温が、十八度から九十八度まで上昇したらしい。
@佐和視点@
「えー、現在の萩異と涼気の二人の状況を後書き実況席で放送していこうと思います。」
「現在の二人の走ってる場所は特星エリアの平原だぜ!モンスター達が気絶するほどの温度になってるらしい!」
「涼気はともかく萩異が生きてる事が不思議なくらいだ!」
「これもクゥの為だと思うぜ!でも無駄率は百パーセントだと予想するぜ!」
「現在は百度を超えた模様、何処までヒートアップするか楽しみです!それでは皆さん次回もお楽しみに!」