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第八話 小さな最強

「これは黒板消しか?」


 口をカッターシャツの目の前を漂う白い粒子の浮いた空気を払いながら目を細めた福地君がつぶやく。

 つられて足元を見ると、確かに真っ白に汚れた黒板消しがいくつも落ちている。

 どうやら、今の煙幕の正体はこれのようだ。

 教祖は、自らの登場演出が華麗に決まったことに気分を良くしたのか、胸を張ってこう言った。


「いやあ、大変だった。

 放課後だからどの教室に行ってもきれいな黒板消ししかなくて、汚れた黒板消しを作るのに時間がかかってしまった」


「その時間があったなら二人も助けてやれよ!」


 一瞬でもこの男に感謝の心を持ったことが馬鹿みたいだ。

 しかし、今の今まで黒板消しを集めて回っていたということは、教祖はこの襲撃を事前に察知していたということになる。


 南波はそんな夢を見たとは言っていなかったはずだが。



「なあに、あの委員長の顔に今から襲いますって書いてあったからな」


 昨日の天気の話をするよりも興味のなさそうな声でそう言った。

 しかし、それはおかしい。

 右渡の話では、福地君と神代はロックのせいで心を読まれないようにしているはずだが。


「なんか小細工していたようだが、この完全無欠の教祖様には通用しないぜ」


 またも胸を張って教祖は言った。

 さらに驚くことに、福地君が教祖の話を聞いても驚いたそぶりを見せていない。


「やはり、橋爪君には効かなかったか。

 もともとロックは読まれにくくする技術、あまり期待はしていませんし」


 そう言いながらも、福地君は不自然なほどに冷静を保っている。

 さっきまでの俺一人の状況ならともかく、俺と教祖様二人に対して福地達も同じく二人。

 神代は戦力になりそうにもないので、実質一人だ。

 眠っている、唐栗と物部の二人を人質に取っているつもりなのだろうか?


 しかし、あの二人は……。



「それにしては、ずいぶん余裕だな?

 さては、我々FF団の実力を甘く見てるんじゃないだろうな?」


「まさか、むしろ僕は生徒会の中で君たちのことを最も警戒しているんだ。だからこそ、今ここにいる。

 だけど、君たち二人の能力についてはある程度見当がついている。

 今のこの状況で僕に敵う能力でないということは分かっているんだよ」


 そういえばさっき、神代の力がどうとか言っていたっけ。

 それに、今見せた右渡を眠らせたあの技。

 どうやら本当に、福地君は俺たちのタームと同じような能力を持っているようだ。


「他人を眠らせるタームか。発動条件だけがわからないが、迂闊には近づくなよマリオ」


「教祖にも読めないのかよ。

 それに近づくなって言われても……」


 近づかなければ何もできない。

 もちろん、俺たちの方が出口に近いので逃げようと思えばそれは可能だ。

 しかし、眠っている二人……いや三人を置いて逃げるわけにはいかない。

 これなら福地君の余裕もうなずける。


「さて、予定の段取りとは少し違ってしまったけどまあいい。

 そろそろ本来の目的に移らさせていただくよ」


「そういえば、悪を根絶やしにするとか、能力を振るうものを管理下に置くとか言っていたけど、あれはどういう意味なんだ?」


「どうせ聞いたところですべて忘れてしまうんだ、教える義理はないね。

 君たちのような生徒は、僕たち生徒会が矯正してあげるよ」


 言い終わる前に福地君の体は動いていた。

 俺たちのいる科学準備室はそれほど広くない。

 福地君と俺たちの距離は、大股の三歩もあればすぐになくなる。


 福地君の右手が動いた。


「だから、それが甘いって言ってるんだよ。

 俺たちFF団はお前らの組織が思ってるよりも完全無欠なんだぜ」


 それは、俺がこれまで聞いたことがない低くてどすの効いた教祖の声だった。

 その声に気圧され福地君の手が一瞬止まった。

 その時だった。




 ポン




 風船が破裂するような音が理科準備室に響いた。


「うわぁぁぁぁぁ」


 一拍遅れた叫び声をあげ倒れたのは福地君だった。

 その視線は、彼の足元に注がれている。


 そこには、手のひらサイズの小人が一人立っていた。


 俺と教祖はそれを見て目を合わせた。

 心が読めない俺でも、教祖が「勝ったな」と言っているのがわかる。

 これは、物部もとい【ミラ・ニコライオ】のタームだ。


 ポン、ポン、ポン


 破裂音はさらに続き、そのたびに何もない空中から小人が誕生する。

 まるでおとぎ話の世界から抜け出してきたかのように、小さな帽子に真っ白な立派な髭、まんまるで大きな鼻の小人たちは総勢七人。


「な、なんだこの能力は!こんな能力者がいるなんて情報は上がってきていなかったぞ」


 腰が抜けたのか、床に尻もちをついたまま狼狽する福地君。

 その気持ちは痛いほどよくわかる。俺も初めて目の当たりにしたときは、肝を冷やした。

 心を読んだり、予知夢を見たり、人を操るタームも十分に常人の枠を超えた力なのだが、それよりもさらに異質なのがこの物部のタームだ。




 物部のタームを端的に説明するなら、『眠っている間に、小人が現れて本人の代わりに仕事をしてくれる能力』。まるで、グリム童話の「小人の靴屋」のような能力である。

 ちなみに、物部のコードネーム【ミラ・ニコライオ】は、


 小人→ブラウニー(伝説上の妖精)→サンタクロース(ブラウニーに仕事を手伝ってもらっているという伝承がある)→ミラのニコライオ(サンタの元ネタ)


 という、連想ゲームのような流れで命名された。

 俺が提案した【白雪姫スノー・ホワイト】の方がよかったのにと、今でも思っているのは内緒だ。


 名前にこそ納得がいっていないが、物部のタームは文句なくFF団最強であると断言できる。

 何せこの小人たち、その小さな体を生かした俊敏な動きと、成人男性にも匹敵する腕力を有している。

 俺たちがこれまでに何度、この小人たちに痛い目を見せられてきたか……。

 南波のタームと同じく制御不能である点が弱点なのだが、一度発動すればだれにも止めることが出来ない。


 閑話休題


 小人が現れてからの出来事は、一瞬のうちに終わった。

 腰を抜かした福地君、その横に立ち尽くす神代。

 この二人に、小人に対抗する術は残されていなかった。

 小人達は、どこからか取り出した縄で福地達を縛り上げた。

 仕事を終え、現れたときと同じように、ポンという音を残して小人達は消えた。


 あとに残されたのは、縛られた福地君と神代、眠る物部と唐栗と右渡。

 そして、悪魔のような笑顔を浮かべる教祖とその後ろで苦笑いを浮かべる俺である。




 こうして、俺たちFF団と生徒会の緒戦は、FF団の勝利で幕を下ろしたのだった。





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