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第七話 救世主


 数学準備室から科学準備室はそこまで遠くない。廊下は走ってはいけないので約3分と言ったところだろう。


 右渡の目的、政府の人間、そしてロックという対教祖みたいな技術。弾丸のように撃ち込まれた信じ難い事実を、とても3分では纏められそうにない。


 FF団には何と伝えればいいのやら……


「というかFF団って名前、センスないよな」


「は?」


 心の中の読み取ったかのようなタイミングで話しかけてきた右渡に、思わずタメ口を使ってしまった。


 能力自体は普段から心を読んでくる奴が居るので驚かないが、教師が生徒のプライバシーを漁るのはどうなのだろうか。


 しかし、それ以上に解せない事がある。


「いや、めちゃくちゃかっこいいでしょ!」


「ないわー」


「いやいや、ロックの方がどうかと思いますけどね。安直の極みですか?」


「これだから中二病は嫌なんだよ。なんか捻りを入れないと気が済まないのかよ」


 バチバチ、と睨み合いながら歩いていく。この教師はダメだ。まるで分かってない。


 しかし、こうも心の中を安売りしてたのではやってられない。


 厳密に言えば右渡の能力は教祖の能力とは異なるのだろうが、南波の下半身事情まで把握している辺り教祖よりタチが悪い。


「先生は俺たちFF団の事、どこまで知ってるんですか?」


「FF団というよりは、お前ら3人の事を知っている」


「何で3人だけ? 唐栗(からくり)物部(もののべ)は?」


「誰だそれ?」


「──は?」


 右渡の返答に唖然とする。口がポッカリ開いている気がする。


「誰って隣のクラスの唐栗と物部ですよ。2組の数学担当してるじゃないですか! 何なら去年2人の担任でしたよね?」


「俺──昔の生徒は覚えない主義なんだよ」


 髪をかきあげ、窓の外を儚げに眺めて右渡はそう言った。何だコイツ。いっそ死ねよ。


 相変わらず右渡は右渡をやっている。この教師は本当にダメだ。


 はぁ、思わずため息が出る。


 唐栗(からくり)物部(もののべ)。こんな珍しい名前忘れる方が難しいだろ。右渡(みぎわたり)って名前も大概だがな……センスを疑うレベル。


 そんなこんな話をしていたら科学準備室まで着いてしまった。なんてムダな3分間だったんだろう。


「着きました。とりあえず南波と橋爪以外の2人が唐栗と物部です。背がクソ高いのが唐栗で、ゲームをいじってるのが物部です」


「とても分かりやすい紹介ご苦労。そいつらも能力を使うのか?」


「ええ。2人とも良い能力を持ってますよ。俺なんかよりも使いやすく汎用性の高い能力です」


「へえ、気になるな」


「それは入ってからにしましょうか」


 立ち話もなんだしな。


 俺はゆっくりと科学準備室のドアを開ける。



 そして気付く──。



 普段は絶対付けない教室の電気が付いている事。朝でも暗い程の闇はそこには無い。


 そこに居たのは教祖でも、南波でも、唐栗でも、物部でもない。俺を待ちわびていたのは意外な人物だった──。


「やあ、数学の追試はどうだったかな?」


「なっ……」


 机に座り、にっこりと笑いかけるその男。





「福地……君?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんでこいつがここに……」


 福地君は俺の驚いた顔を見て満足したのか、ひょいと机から降りて話しかける。


「神代君の力を使って君を追試に追いやる所までは順調だったけど……」


「神代……? 力……?」


 福地君の印象が強過ぎて気付かなかったが、もう1人。


 華奢な体にしなやかなポニーテールを揺らす女。自分は影だ、と言わんばかりのその気配の無さの裏にツリ目の鋭い眼光をチラつかせている。


「……誰だ?」


 話の流れ的には神代?だと思うのだが……見たことがない。


「本当にバカだなお前。同じクラスだぞ」


 右渡はため息をつきながら諭してきた。こいつには言われたくないんだが。


「それより、今、神代の力と言ったな」


 右渡はいつになく神妙な面持ちで問いかける。


「先生には関係ない話ですね」


「なんだと」


 福地君はどこ吹く風でクールに受け流す。だからそれを逆に使わせてもらう。


「確かに先生には関係ない話だな」


「なっ⁉︎」


 右渡は驚愕しながら俺を見る。だから俺は 任せとけ、とアイコンタクトを送った。


 状況を察するに福地君は右渡が(ターム)を持っている事を知らないのかもしれない。ならば隠しておく方が得策だろう。


「それより、順調ってどうゆう事だよ」


「君たちが今日の放課後にここに集まる事を知っていたから襲撃を掛けるつもりだったんだよ」


「襲撃だと……?」


「そうだよ。でも、橋爪君と南波君が来なかったのは予想外だったよ。だから──」


 口角をあげてニヤついた福地君に嫌な予感がし、辺りを見渡した。


「──ッ!」


 そして的中した。


「唐栗ッ! 物部ッ!」


 教室の後ろ側で倒れ込んだ2人の姿が目に入る。


 急いで駆け寄ろうとした時、背後から右腕を掴まれる。


「待て。奴らの能力が割れてない今、迂闊に動くな。囮の可能性だってある」


「それでも……ッ!」


「良い判断ですね先生。いつもそれくらい頭を働かせて欲しいですけどね」


「それは思った」


「お前はどっちの味方なんだよ」


 右渡は頭痛がするのか頭を押さえている。


「大丈夫だよ。2人にはちょっと眠ってもらってるだけだから」


「目的は何なんだよ?」


「そうだね。強いて言えば悪を根絶やしにする事だよ」


「は?」


 あまりにも抽象的でフザけた発言だが、福地君の目を見るとその本気度が伺える。


「2年前の事件の様なことがあってはならない。そしてこの文化祭でも……」


 ギリ、と強く歯を軋ませて表情を歪ませる。


「だから僕はいたずらに力を振るう者やその因子を徹底的に排除、もしくは管理下に置かなくてはならないんだ」


 福地君のいう2年前の事件に心当たりがない。俺たちが1年の時に、この学校で大きな事件など無かったはずだが。


 右渡もそうだが、福地君も文化祭──いや、深見叶の事を知っているのか……。


 南波の様なタームを他に持っている奴が居るのか。


 それより──


「何で俺たちなの? 俺たちが福地君の言う力を持っている根拠は? 勝手に悪認定されて解せないんだけど」


「先日、僕は何者かによって力の対象にされてね。どうやら犯人は文化祭実行委員になりたくないらしく僕に押し付けた……力を使ってね」


 ドキリ、と心臓がはねた。


「それに今日のお昼、南波君が『創作劇以外なら何でもいい』と言った。こんな注文をされたら何かしら疑いを持ってしまう」


 福地君は絡まった紐を坦々と解いていく。


「南波君は間違いなく未来のことである文化祭について知っている。そしてそれは力がないと不可能なんだけど……まだ証明が必要かな?」


「もういいよ。この先生の前で証明を張り切っても意味ないよ。だってこの先生だし」


 全て見透かされた腹いせに皮肉を垂れる。しかし現状は変わらない。完全に福地君のペースだ。


「先日の力の持ち主もFF団の中に居る。そして団員全員が何かしらの力を持ってると踏んでるよ」


 全てが図星。そしてそいつは目の前にいるのだからドッキドキで仕方がない。


 追い詰められ声を出せないでいると、右渡が一歩前に出て問いかける。


「それで福地、お前は何がしたいんだ?」


「言わないですよ。──政府の犬には」


「お前ッ!」


 右渡は言葉よりも先に、ズカズカと近寄り拳を振り上げた。


「先生……近づき過ぎだよ」


 冷静に、そして冷酷に嗤ったと同時、右渡が膝から崩れ落ちて地面に倒れ伏した。


「先生ッ!」


「安心しなよ。先生には眠ってもらっただけだから」


 福地君は嗤いながらそう言った。


「そして今度は君の番だよ」


 そして一歩。


「くっ……」


 福地君が近付くにつれ冷や汗が垂れる。俺のタームはこの状況では使えない。したがって勝てる見込みはない。


「さぁ」


 さらに一歩。


「……──ッ!」


 窮鼠猫を噛む。先手必勝!


 俺は福地君目掛けて右足を踏み込もうとした瞬間──


 待ってましたと福地君が嗤──



 ボンッッ!!!



 そしてその同時──


 教室全体に白煙が舞う。


「「──なっ⁉︎ 」」


 完全に不意を打たれた。そしてそれは福地君も同様だった。


「誰だ!」


 一早に正気を取り戻した福地君が眩む視界の中で叫びをあげる。


「誰だ誰だと言われたら──」


 この声は……


「答えてあげるが世の情けだか……あえて答えないのが教祖様ってものだろう!」


 腕を盛大に振り上げ、クロスさせた変なポーズのシルエットが徐々に浮かび上がる。


「眠りのマリオネットよ、この貸しは大きいぞ」


 そいつはニマニマと、外野(主に俺)から名前を呼ばれるのを待っている。


「はっ、ハッシー……」


「ふふふ……。





 ──ハッシー言うな!」




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