第四話 右渡という教師
「起立」
誰かの気怠げな声とスピーカーから流れるチャイムで目がさめた。
たった今4限の数学が終わったのだろう。随分と寝たような気がする。
授業の初めに、クラス担任であり数学教師である右渡が
「この単元が終わったら確認テストをするぞ」
みたいな事を言っていた辺りまでは覚えている。しかし以降の記憶がない。
つまり初めから終わりまで寝ていたのだろう。知らんけど。
別に能力を使う為だとか、ストックする為に寝た訳ではない。気が付いたら寝ていたのだ。
まったく、時の流れほど恐ろしいものは無いな。入学当初は授業中に寝るのも躊躇してたの言うのに……今ではまるで他人事だ。
能力が能力だけに慣れてしまったのかもしれない、とか言い訳しておこう。
「気をつけ、礼」
相変わらずの号令に合わせて軽く会釈をする。そしてそれと同時に解放的な雰囲気に打って変わる。
隣の者と談笑する者、教科書をしまいカバンを漁る者、弁当を持って廊下を走る者など、クラス全体が前半戦終了の歓喜に浸る。
それに吊られてぐぐっ、と体を伸ばし欠伸をかます。
「ふぅ……」
ゆっくり息を吐き教科書を閉じる。ページ的にも次回がテストだろう。今日の授業分くらいは復習しておこう。
そんな事を考えながら、カバンを持って席を立つ──
「おいちょっと待て」
教室を出ようとした時、背後から肩を掴まれる。
「はい……って先生?」
意外にも俺を止めたのは右渡であった。
「何ですか?」
「何ですかだと? お前、随分高度な喧嘩の売り方をしてるんだな」
何故か右渡は御立腹な様子だ。眉間にしわを寄せ、こめかみには青筋が立っている。
「これ」
右渡はため息を吐きプリントを突きつける。
数学の問題がつらつら印刷されたプリント。まるでテスト用紙。と言うかテスト用紙。
怒り心頭の右渡と名前すら書かれてないテストを見て、ちょっと汗が出た。
「お前、放課後追試な」
そう言って右渡は踵を返していった。
「…………。
──いや起こせよ」
ロキロキの〜ロクロクロ〜