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第十六話 作戦名は『コード=トライアングル』だッ!


「いってきます」──


 返ってくるはずのない挨拶に少し寂しさを感じながらも治すことの出来ない悪い癖。


 兄──福地彗が亡くなったあの日から解かれる事のない負の呪縛。


 僕は生徒会長になった。自律する為に。誰からにも頼られる様に。尊敬される様に。人間的に成長する為に。そして──


「ふふ……僕はあの日から変われただろうか」


 思わず自虐の笑みが零れる。ため息交じりだ。答えなどとうに分かりきってる。


 誰も居ない家に返事を求めている。それもずっとだ──。


「すぅ…………はぁぁぁ……」


 僕は目を瞑り、ゆっくりと深呼吸をした。


 昨日の校長先生の会話が頭から離れない。


 2年前の事件。詳細は把握してなかったが、救急車やパトカーが大量に押しかけ大きな騒ぎとなっていた。


 血だるまの人間が大量に搬送された光景は15歳の子供には耐えられるものではなかった。


 学校の時間外の真夜中の出来事とはいえ、目撃者は多かった。噂で駆けつけたのだろう。学生だってちらほらいた。居たはずだったんだ──。


 だが、この事件が翌日のニュースで報道されることは無かった。


 学校で話題にすらならなかった。


 不自然なほど無関心。


 まるで、こんな事件など無かったかの様に──。


 まるで、僕だけが見た幻の様に──。


 僕は必死に目撃者に問いただした。警察に、病院に、周辺の住民に、その現場にいた学生に。


「そんな事件は起きてない」──


 誰もかれもがそう口を揃えた。あまりの必死さに僕を狂人扱いする者も現れた。


 ただ一人、藤林校長を除いて。


 事件の全貌までは明かされなかったが、この不可解の現象について話してくれた。


 人智を超えた能力について。そして記憶を改竄するという能力を持った人間がこの不可解な現象の原因と言った。


 校長が何者かは知らないが、能力を持った人間から守る為に奮迅していると言った。だから僕は校長の手を取った。


 生徒会長となり、裏活動として力を持った人間を取り締まった。僕が能力を使い出したのもこの辺りからだ。元々持っていたのかもしれない。だが意識的に使い出したのはここだ。


 古田──記憶の改竄の能力を持つこの男を校長と一緒に見つけ出した。校長に身柄を預け、事件について取調べの際に自害したとのこと。詳細は知らない。


 それ以降能力を振るう人間が現れることが無かった。FF団と名乗る五人組を除けば。


 だがこの五人組は二年前の事件とは関係のない能力者だった。しかしFF団との接触を機に事件の真相に迫った。


 どうやら深見 叶がキーパーソンとなっている。二年前と同じことが2ヶ月後の文化祭で起きようとしている。


 これは絶対に阻止しなければならない。そして事件の犯人を炙り出す。この手で。絶対にだ。


 この一件を無事に終えれたら呪縛から解放できるだろうか……


 僕は自分の頬を両手で張った。


「やるしかないよな」


 2ヶ月後の文化祭で、長い因縁に終止符を打つ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「な、なんだこれは……」


 徒歩10分、文化祭に決意を固め、ゆったりと学校に着いたが……


「な、何故これが今日……」


『第63回〇〇祭』という大きな立て看板──。


 そしてその目の前に立ち尽くすF……「F団…………──君たちッ!!!」


 僕は勢いよくリーダーの橋爪君の胸ぐらを掴んだ。


「これは一体どうゆうことだッ!何の真似だ!」


 血が上ったのかいつも以上に声を張り上げ詰問する。


「さては唐栗くんのリライ──」


「それはこっちのセリフだぜ福地ィ」


 カウンターの様に橋爪君は胸ぐらを掴み返し僕の喉元を締め上げる。


「俺は神代の幻術なんじゃないかと睨んでんだぜッ!一体どうゆうつもりなんだァ?」


 橋爪君の鋭い眼光が突き刺さる。


「グッ……」


「ちょ、止めなよ教祖!それに福地くんも!離して離して」


 見かねた南波くんが仲裁に入る。


「どうやら反応を見るに生徒会サイドの仕業ではなさそうだよ。よっぽどの俳優基質じゃない限り……」


「チッ」


 橋爪くんは不満そうな顔で服を離す。


「福地くん、リライトは自身が寝ないと発動しない。これは十分な証拠になると思うんだけど、生徒会サイドは弁明のタネはある?」


 僕はゆっくりと唐栗くんを見る。唖然とした表情で僕を見返している……


「なるほど、神代くんの幻術はタイムリミットがあるんだ。だからすぐには弁明出来ずともその内疑いは晴れると思う。取り乱して済まない」


「はぁ?ならリミットまで待てと?」


「教祖……今日はやけに突っかかるね」


 いつになく敵をを示す橋爪君を他の4人が制止する。


 だが、昨日の校長の話と今日のこの出来事で冷静になれる方が難しい。僕もいきなり胸ぐらを掴んだくらいだ。どこか混乱している部分があるのだろう。


 他の4人はリーダーが熱くなって逆に落ち着いてしまっているのだろう。


「すまないジョンタイ……取り乱してしまったな……ふっ」


「お帰り教祖」


 橋爪君はゆっくりと深呼吸をし──


「とりあえず落ち着いて話がしたい。超緊急集会を始める。準備室に行くぞ──ッ!」


 ビシッと、ポーズを決めて全員を見ている。


「……………………」



 この切り替えは見習うべきだろう。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



(なあ南波……)


 俺はこそっと南波に耳打ちをする。


(ん? どうしたのマリオ?)


(教祖、今日はやけに突っかかってたな)


(FF団のリーダーとして色々負担があったのかもしれないね。僕もビックリしたよ)


「おいおいおい我への賛辞なら聞こえるように頼むぞジョンタイ、眠りのマリオネットよ」


「聞こえてんじゃんこのおデブ」


「誰がおデブちゃんじゃい!」


 ブルンブルンと腹の波打ち際を披露しながら振り返る教s…………


「おい眠りのマリオネット、なぜ貴様はそんなにも我をデブにさせたがるのだ!!」


「最初の印象がデブだったらしいから」


「──誰の?」


 みたいなやり取りをしていると科学準備室に到着する。


 教祖自前の鍵で解錠し引き戸を開ける。そこは相変わらずの真っ暗空間。黒のカーテンで囲まれた科学準備室に光が差し込む余地などない。


 ぞろぞろと部屋に入り大テーブルを囲うように一同が席に着く。


 ここで、教祖がロウソクに火を付け「これから緊急集会を始めるブルンブルン」という流れなのだが──


「ん? 暗いならカーテンを開ければいいんじゃないかな」


 わざわざ部屋を暗くさせてロウソクを付ける教祖の行動に疑問を持った福地君が勢いよくカーテンを開ける。


「ぎぃイイイイイイイッ! 貴様!何をするか!!!」


 教祖を叫びながら慌ててカーテンを閉める。


「え!? 暗いからカーテンを……」


「ちゃんちゃらオカシイことをしてくれるなよ。貴様は何も分かってない」


「??????」


 合理的な行動をとった福地君は責められたことに疑問を持っている。


 きっと「なんだこのデブいきなり……」と思ってるに違いない。


 だからこいつはダメなんだ。何にも分かってない。


 やれやれ、とため息をつくと


「同感だ眠りのマリオネット。こいつは何も分かってない。あとデブネタやめろ」


 はぁ、と教祖までもため息をつく。


 ちなみにだが、教祖はデブではない。



 大事なことなのでもう一度言うが、教祖はデブではない──。



 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ごほぽん。それで話を戻す」


 訳の分からない咳払いをし教祖は立て直す。


「今日が文化祭当日という事は覆りようのない事実だ。そしてジョンタイが以前言った出し物の『創作劇』、どうやらこれが不味いらしい」


 教祖は黒板に数直線の様なものを引き、始発点に“7時”と書き込む。


「確かクラスの出し物は初日だった筈……」


 福地君は思い出したかの様に告げる。


「そうだ、つまりいきなりクライマックスなんだ」


「「「「────ッ!!」」」」


 突きつけられる残酷な現実。


 ざわざわ、と準備室の空気が変わる。


「そこでだ。ミラ・ニコライオ、リライト、2人で教室に行って『文化祭のしおり』と『創作劇の台本』みたいなものを探してきてくれ。当日なんだ、何かしらの物は見つかる筈だ」


「おけ」

「了解した」


 ミラ・ニコライオこと物部とリライトこと唐栗は教祖の指示の元、教室に向かっていった。


「さて、創作劇までにやる事はしとかないとなぁ」


「具体的には?」


 正直、突飛な出来事で話についていけてない。俺も南波も少し困惑している。


「例えばだ、創作劇に事件が起こるとして、それまで深見が絶対的に安全という保証なんてどこにも無いわけだ」


「なるほど……」


「他にも──」


「他にも劇の舞台である体育館を調べる必要があるかもね。どうゆう形で事件が起きるか分からないからね」


 福地君は顎に手を当てて話し出す。


「……まあ、そうゆう事だ」


 話を奪われた教祖は面白くなかったのか、顔をしかめている。


「さらに平行して黒幕を探し出す。怪しい動きをした奴がいたら逐一報告してくれ」


 そう言ってカバンから人数分の無線機をだす。しかもハンズフリーのかっこいいやつ。


「どうしたんだこれ!教祖!」


「ふっ……我ともなるとボタン一つで動いてくれる忠実なしもべがいるものよ」


 どうやらポチったらしい。


「だから2人3チームに分かれるのだが……」


「待って橋爪君。劇の役も考えて分配した方がいいんじゃないかな」


 福地君は教祖を遮り提案する。


「劇なんて適当でいいだろう。それよりは深見の件に重点を──」


「教祖……それじゃダメなんだ」


 今度は南波が教祖を遮る。


 深刻そうな南波の表情に不穏な空気が走る。こうゆう時はあまりいい報告では無いのは経験から分かっているのだ。俺も教祖も。


「言ってみろジョンタイ……」


「うん……夢を見たんだ。噛んだらダメなんだ。あまり覚えてないけれど……胸騒ぎがするんだ。噛むのは、何かとっても不味い気がするんだ」


「「…………なるほどな」」


 俺と教祖は何も言わずに頷いた。


「??????」


 福地君は少し戸惑っている。


 今の説明だけでは何も分からないだろう。正直俺も教祖も分かってない。だが南波の夢はほぼ確実に当たる。信頼に値する。


 だから『噛む』のは絶対ダメなのだろう。


「おい教祖……」


「分かってる。なら我は劇の練習をしないとな。きっと大役だろうから」


「ねーよ」


「うん、ないね」


 俺と南波は即答する。


「何を!貴様ら2人はどうせ村人とかそんな脇役であろう!!」


「でも教祖、もしかしたら教祖は台詞の無い『海藻(かいそう)』とかの役かも知れないよ」


「ジョンタイ……貴様が言うと信憑性が出るからやめてくれないか……」


「冗談だよ」


 南波はいたずらっぽく笑っている。


「僕は──」

「「お前はどうせ主役だよ!」」


 福地君はどうせ主役だろう。だから真顔で言ってやった。横を見ると教祖も真顔だった。やはりこいつは分かっている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ガララッ!


「あったぞ教祖!」


 程よくして物部と唐栗が返ってきた。手にはしおりと創作劇の台本の様なものを持っていた。


 表紙には「ロミオとジュリエット」と書かれていた。


「でかしたリライト!ミラ・ニコライオ! なるほど、ロミオとジュリエットか」


 ロミオとジュリエット。劇では王道だな。


「どれ、台本を見てみようじゃないか」


 教祖は舌を出してページをめくりだす。


「どれどれ、……ぷっ、ぷぷぷ!!おい眠りのマリオネット!貴様『村人C』と書かれているぞ」


 教祖は俺を見ながら腹を抱えて笑っている。腹立つ。


「──……、フクチハ『ロミオ』ダソウダーオメデトー」


 棒読みで褒め称えている。まあ、これは予想できたな。オメデトー。


「なになに……──ッ! くっ、ぎゃははははははははッ!!おい!これは傑作だ!!!」


 今度は大爆笑で床を転げ回っている。


「ジョンタイ!!貴様に限っては『木A』だそうだ!!おめでとう!!!!ひぃい!ひいい!」


 教祖は笑いすぎて過呼吸を起こしかけている。南波!おめでとう(笑)


「それになんだ木の『A』ってwwまるで『B』『C』もあるみたい────っぷ、ギャハハハハハ!!ひぃひぃひひひひひひひひwwwwwwww」


 教祖はさらに笑いだし、台本を床に叩きつけている。


「朗報だリライト、ミラ・ニコライオ!!お前たちも『木』だそうだ!!おめでとう!!コングラッチェレーションwwww キャンユーセレブレイトwwwwwwww」


「ぷっ、」


 思わず吹き出してしまった。流石に笑ってしまう。FF団の3/5が『木』ってヤバイだろう。


「ちなみにリライトが『木B』でミラ・ニコライオが『木C』だそうだ。ぷぷぷッ!」


 ウッド三兄弟の殺意も御構い無しで笑い転げる教祖だったが…………


「──ッ!──。──。…………。」


 途端笑い出すのをやめ、服を払いながらゆっくり立ち上がる。


「え?何?どうしたの?」


 突然の豹変っぷりに少し困惑する。


「ミラ・ニコライオとリライトは体育館に変な仕掛けがないか調べてくれ。我とジョンタイは見回りながら不審人物がいないか探す。ちなみに我とジョンタイのグループが主に指示を出す。臨機応変に動いてくれ」


 そして教祖は俺と福地君をキッ、と睨み


「お前たち2人は役の台詞を覚えつつ深見の警護だ。深見は『ジュリエット』らしい。



 ……噛んだらコロス」



 ものすごいジェラシーを感じる。


「何なの教祖……まさか本当に『海藻』とかだったん?」



「…………ロミオとジュリエットに『海藻』なんて役は必要なかった筈だ!」



 そう言い残して教祖は準備室を後にした。部屋を出る際、目元にキラリと光るものが浮かんでいた事実は墓場まで持っていかなければならない。





 ──開演まであと6時間






執筆担当 ロキロキ


執筆者コメント


あざーーす。




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