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第4話 初めての会話

この世界に転生してから5ヶ月が過ぎた。


カンッカンッ!

(もう朝か...)


立てるとバレた日から僕の生活リズムは大きく変化した。


まず早朝、日が昇り始めるとこの音が鳴り始めるようになった。

これは、キロが僕の訓練を行うために鍛冶の工程を早めに終わらせようとしたことがきっかけだ。

正直うるさい。

僕は何だか家具を燃やすんじゃないかと言う謎な理由のせいでずっと暖炉に放り込まれていたが、ついこの前ようやく安全なんじゃないかということで二階に僕のベビールームが設けられた。

しかし、迷惑なことにキロにはその気が無くとも煉瓦造りだから二階に退避させただけでは僕の部屋にも音が響くので強制的に起こされるのだ。


こうして起こされたら、昨晩ニーミに呼んでもらった絵本を読むことにしている。

人族がページごとにこの世界の魔族や亜人族と戦ってゆくお話である。

挿絵があるし、何度も聞いているため、この本の概要はわかっている。なのであとはどの単語がどんな意味を持っているのかと発音を当てはめながら言葉の勉強をしている。

最初からキロたちが喋る言葉を理解できていたんだから言葉の勉強っている?と思うかもしれないが、問題が生じたのだ。


生後、4ヶ月頃に前歯が生えてきてようやく発音ができるようになったので、ニーミに日本語をぶつけてみた。

そしたら全く意味が通じなかったのである。

いろいろ試した結果、言葉が通じるのは僕の方だけで、一方通行であることがわかった。

僕は他人の言葉の意味は理解できても、僕が喋ったり、読んだりは出来ないのだ。

せっかく歯が生えてきて、発音できるのに喋れないんじゃ意味がない。

なので勝手に覚えるかもしれないが早く読み書きができるように勉強することにした。


しばらく語学の勉強に没頭すると、ニーミが僕の様子を見にやってくる。

コツコツと階段を上がってくる音が聞こえると僕はすぐに絵本を元の位置に戻して寝ている振りをする。

「赤ちゃん大作戦」が崩れ去った今でもニーミにだけは続行している。

早朝から絵本を睨みつけている赤ちゃんなんて可愛くなさすぎるため見せない。絶対に。


「ハクトはこんなにうるさくてもよく寝ているさね」


ニーミが頭を優しく撫でてくれる。


「んぁ...ニーマンマ」

「あっまた起こしちゃったかな?それじゃあ下に行ってご飯にするのさ!」


一回のリビングに移動するとキロとレックスも汚れたエプロンのような作業着を脱ぎ捨てて食卓を囲んでいる。

今日の朝食は固いパンになんの野菜かわからないものをゴロゴロと煮詰めたポタージュのようなスープと鶏肉が置いてある。

ちなみに僕は離乳食としてポタージュの具をさらに細かく刻んだ物をなれない手つきで食べる。

これが塩っけがあってすごく美味しいのだ。

ずっと牛乳なのか豆乳なのかわからない物を飲まされていたせいかもしれないが...


「ボンも歯が生えてきて離乳食が結構ちゃんと食べれるようになってきたな!」

「そうさね、やっぱり人族と違って成長が早いみたいさ。それで今日はどうするのさキロさんさ?」

「今日は街の方から武具の依頼がいくつか入ってきてしまったから俺達は相手できない。ニーミ、いつものトレーニングをハクトにやらせろ」

「はいさ!今日もいっぱい頑張るさよハクト!」

「ん!」


元気よく返事をして食事を済ます。


「じゃあまずはお庭に行こうか!おいでハクト!」

「んっんっ!」


あの日以来、僕は体の違和感を取り除けず、不恰好な歩き方をしている。

すぐ馴れると思ったが、これがなかなか難しい。

平行感覚があるから歩けなくはないが、とにかくまだ頭がふらつく。


「うんうん!昨日よりずっと上手さねハクト!あとちょっとさ!」

「んー!」

ピタッ


最後はニーミに飛びつく。

他意はない。

きっと。


「到着ー!ちゃんと昨日より早く歩けてるのさ!」

「おい、ニーミ抱っこするな。そのまま歩かせろ」

「そうさね。ハクトも成長しているみたいだし、このままお庭の井戸の方まで行ってみるのさ!」

「ん!」


実はこのトレーニングは嫌いではない。

歩けるようになれば視野が広まるし、この体はどうやら燃費が良く、結構運動しないと眠たくならなかったりするからだ。

今のこの体には良い運動になっている。

文句があるとすればニーミが抱っこしてくれる回数が劇的に減ったことぐらいかな。

ものすごく寂しい。


井戸まで歩く練習をすると、今度は水汲みをする。流石に井戸から水を汲むのには力が足りないので、ニーミがオケに汲んでる間は庭を練り歩くことにしている。


「ハクトは好奇心旺盛さね。でも庭の外には出てはダメさよ!」

「ん!」


僕の家は煉瓦造りの二階建だ。

家の周りには庭があり、木でできた柵で覆われている。

井戸もそこにある。

片側を山が占領しており、その山を越えると魔族が棲んでいる集落があるらしい。

実に危険な場所だ。

しかし、うちではそれがむしろ好都合で、レックスはフラッと消えてはその山から獲物(モンスター)を狩ってきて食卓を潤している。

そして、反対側の林の先には町があるらしく、キロはよくそこから仕事の依頼をうけている。

つまり、この家は林と危険な山に囲まれており、どちらにも隣接していない隔離された場所なのだ。

まだ柵の外には出れないので僕はまずこの庭で得られる最低限の情報を探っている。

探り方は簡単で見つけた虫や草花を手で触ったり食べるフリをして(もちろん食べるわけがない)ニーミの反応をみるのだ。

すると、大体これは毒があるから触ってもいけないのさ!とか食べれるから摘んで行こうさ!など危険な物と平気な物を教えてくれる。

ニーミは物知りで危険な物には赤ちゃんに説明してもわからないだろという詳しい話もしてくれる。


「ハクトおいでー!汲み終わったから水浴びしようさ!」

「ニーマンマ」

「ん?またなんか見つけたのさ?」


今日は庭の木に張り付いていた蝉の抜け殻のようなものをニーミに差し出してみた。


「おーこいつはメタルゴヨの抜け殻さね。こいつは脱皮を繰り返して硬く、大きくなっていくんさ!最終的に1メートルくらいになって鋼鉄の鎧みたいな外骨格をもつ強敵になるんさ。その皮で武具も作れるさよ。あとでキロさんに見せてあげると喜ぶかもしれないさ」


そんなのが庭にいていいのか!?


「まあでも攻撃しなければ樹液が主食のおとなしいやつさよ。ほら!体拭いてあげるからおいで!」

「ん!」


水道がなく、井戸から汲むことからわかるように水は貴重だ。

お風呂などもちろんない。

水浴びもしたければ自分達で川のあるところまで行く必要があるみたいだ。

体の汚れは濡れたタオルで拭く程度が多いようで、水浴びも今は毎日しているがキロやレックスは週に1回あるかないかに止まっている。


「そのうちハクトも近くの川まで連れて行ってあげるのさ!」

「うー!」


これがやはり気持ちいい。ニーミは僕の動き回って汚れた体を薄い鱗の隙間も丁寧にゴシゴシ擦ってくれるのだ。

たまにキロやレックスがやってくれることがあるが凄まじく痛い。


「ハクトはここが好きさね」

「ふうー」


うなだれると水が汲まれたオケに僕の新しい体が映し出される。

オレンジ色の髪の毛にクリクリの目、そして生え始めた少し尖った歯。

体は肌色ではあるが背中や手の甲にうっすらと鱗があり、爪も硬くて鋭いのが生えてきた。

しかし、一番違和感があるのはお尻にコブのような突起物があることだ。


龍人族(ドラゴニュート)にはコブくらいの尻尾しか生えない。

それには理由があって、龍人族(ドラゴニュート)に似た種族で竜人族(リザードマン)というのがいる。

進化の過程で別れたらしく、龍人族(ドラゴニュート)はより人間似で尻尾が退化し、竜人族(リザードマン)はトカゲよりに進化したようだ。


「よし!それじゃあお昼にしようか!」

「ん!」


僕の昼食は基本まだあの牛乳もどきだ。

ちなみにキロ達は仕事に没頭しているため、お昼は別々でとる。


「くあー」

「おっ眠たくなってきたかな?じゃあお昼ねしようさ!」


昼食の後は流石に早朝から起きているので眠くなる。

寝る前に二階の部屋まで抱っこしてもらい、絵本を読んでもらう。

ここで寝ると夕方まで起きない。


「...人族はそんな魔族に対抗すべく特殊な能力を手に...おっと」

「すぅ...すぅ...」

「お休みさハクト」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

いつものように夕方に目を覚ます。

すると、目の前に白髪の男がいる。

嫌な気分だ。

夕方からはどんなに依頼があっても必ずキロが僕の相手になる。


「んぅ...」

「起きたかハクト。では今日もやるぞ」

「キオ...」

「キロだ。どうしてお前はニーミと俺とでそんなに態度が違うんだ。まあいい来い」


場所は鍛冶工房内で、これから行うのは異能力の訓練だ。


「いいかハクト?異能力というのは我々人類が魔物に対抗するために手に入れることが出来る。

人智を超えた力のことだ。

これは何をきっかけに手に入るか人それぞれであり、一生手に入らない人がほとんどで、手に入ったとしても弱い能力である場合が多い。そして、この異能を一つ手に入れると人種に”超”の文字がつき、超人族(ハイヒューマン)と呼ばれるようになる。」

「ん」

「この絶え間ない努力によって発現する異能力だが、ときどき生まれながらに持つものがいる。それがお前だハクト。生まれながらに異能力を発現している者を”神”の文字をつけて神人族(ゴッドヒューマン)という。お前は種族が龍人族(ドラゴニュート)だから神龍人族(ゴッドドラゴニュート)ということになる。(ゴッド)は生まれながらにして三つの異能力を持っているとされている」

「ん」

「お前の異能は既に”超回復”と”体内の発火”がわかっているから残り一つはその内にわかるだろう...聞いているか?」

「ん」


この話はいったい何度目だろう?

まとめると、一般の人は努力次第で能力が手に入って、種族名に(ハイ)がつく。

生まれながらに能力を持つ者は種族名に(ゴッド)が付いて能力を三つも持っているということらしい。


「お前は(ゴッド)だ。力の使い道を間違えれば多くのものを不幸にしかねない。いいか、ちゃんと学べハクト。お前は将来この世界を担う戦士になる」

「ん」


これは一種の洗脳だ。

こうやって生まれてすぐの赤ちゃんに戦場に繰り出すことが異能力者の良き使い道と学ばせ続けたら、この世界は異能に恵まれたものほど戦場に繰り出すべきという考えの人間に育つだろう。

タチが悪い。


「それじゃあ、昨日の続きからだ。なんとかして掌を燃やしてみろ」

「ん!」


だが、僕はキロの異能力訓練は大事だと思っている。

僕の異能力は危険だから馴れるまでは誰かに見守って欲しい。

コントロールできなくて自分の炎で丸焦げになるのはいやだ。

僕の人格形成は前世で既に終わっているから洗脳を無視して必要なことだけ学べばいいと割り切っている。


「おそらく燃えるのは血液が原料だろう。体を流れる血流を感じろ」


クソ難しいことを言う。僕でなければ本当に無駄な時間だったろうな。

それにそもそもキロは異能力を持っているのだろうか?

持っていれば参考になるし見せてほしいよな...よし!


「キオ、わはんない」

「!?ハクト今なんて...」

「キオ、みして」

「!!あっああ、俺の能力か...系統が全く異なるが...そうだな。手本もなしではハクトも厳しいか。なら今日は俺の能力を見せよう」


これがこの世界での初めての会話になった。

覚えたての単語をなんとかつなげてみたがキロに伝わったようだ。

勉強の成果が出ると嬉しい。


「いいか?ハクトよく見ていろ。俺の能力は”武具強化”だ」


そう言うとキロは近くにあった作りかけの刃が研ぎ終わっていない剣を掴んだ。


「この剣をよく見ていろ。”強化”!」


すると、キロの体からモヤが発生し、剣にもまとわり着いた。


「よし、そこの鉄くずで試し切りをしよう」


武具を作るための鉄塊を運んできてキロはそこに切りつけた。

ギュインッ

鉄同士が擦れ合う音が響くと鉄塊は斜めにズレた。

一刀両断である。


ぱくぱく...

驚き過ぎて声が出ない。


「これが俺の能力だ。俺が異能を獲得して超人族(ハイヒューマン)となったのが10の時だが、ここまでの力はなかった。異能は鍛えれば鍛えるほどに肉体同様強くなる」


ガチャッ

「何やってんのさ。キロさんさ。」

ニーミが部屋に入って来た。

「いや...ハクトが異能を見たいといったから」

「えっハクトが喋ったの!?」

「ああ、みたいって」

「うそー!キロさんに取られたー!」

「なんだハクト喋ったのは俺が初めてか?」

「そうさよー私にはまだニーマンマとしか喋ってくれないのさ!くやしーのさ!」

「そっそうか悪かったな」

「くそーでも名前呼ばれたのは私が初めてだったからこれでおあいこさね」


いったい何の競争をしているんだこの人たちは...


「おーい何やってんだ。飯じゃないのか?」

「あっレックス!聞いて!聞いて!ハクトが喋ったようなんさ!」

「なに?そりゃ本当か!!すげーな!こりゃボンを祝わねーと。さっき狩って来たウリボン(巨大なイノシシ)を使おう!!ボンも遺伝子に爬虫類が混じってるんだから肉が食えるだろ!」

「おー!いい案さね。試してみるのさ!」

どうやらお肉が頂けるようだ。ありがたい。

「そうだな、今日はここまでにして飯にしようハクト。明日は炎が出せるようにな」

「ん!」


キロの瞳に柔らかさがある気がした。

気のせいかな。


食卓を囲むとニーミ特製の巨大イノシシの肉が振る舞われた。もちろん僕には細く切った柔らかい部位が届いた。

薄味だったがこれまでにない幸福感があった。やはり、肉食なのかもしれない。


「そうだ!ハクトあれをキロさんにみしてあげなよ!」

「ん?何だ?」

「んぅ」

僕はポケットに入れておいたメタルゴヨの抜け殻をキロに見せた。

「こいつはメタルゴヨの抜け殻か...この辺にも出るのか」

「あげう」

「なに?くれるのか?」

「ん」

「そうか...ありがとう」

元々ニーミに見せてあげなって言われて採っておいたモノだしキロにあげることにした。


「おー良かったじゃねーかキロ!よし、ボン!今度俺のために何か採って来てくれよ!」

「ん」

「私にも採って来て欲しいのさー!」

「んう!!」

「やっぱりニーミと反応が違わねーかボン...」


こうして食事を済ますと。

再び寝に入り、早朝の目覚ましが鳴るまで待つこととなる。


そうして僕の月日は流れてゆく。


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