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第3話 赤ちゃん大作戦

三ヶ月が過ぎた。


「うきゃっうきゃっ」

「おーよしよしさハクトは今日も元気でちゅねーお外はきもちいいでちゅかー?あっチョウチョさんひらひらーって飛んでまちゅよー」

「あっうー!」


僕の名前がハクトに決まったみたいだ。僕が出したらしい琥珀色の炎からその名前がつけられた。


今はニーミが僕のことを抱っこしながら家の周りを散歩してくれている途中である。

ニーミは子守を経験したことがあるのか適切に僕の世話を焼いてくれる。

こうやって僕が大きくなり始めたら、短時間の散歩に出かけたり、言葉を覚えられるように何度も話しかけてくれる。下の世話だって彼女がほとんどしてくれる。...が

先に言っておこう、最初の一ヶ月は僕にとって恥辱の日々だったと。

ニーミはさらさらとした黒髪を肩まで伸ばしたいわゆるセミロングだ。顔立ちは若く、17か18くらいで愛嬌のある可愛い顔をしている。

体のラインはスラリとしており、胸は控えめだが抱かれるとしっかりとその存在を確認できる。

また、抱かれるとわかるのだが植物の良い匂いをしていてとても安心できる。


僕も男だ。


わかってもらえるだろうか?本来なら年が近いであろうこんな可愛い女の子に自分の下の世話をしてもらうという恥辱を!

トイレはいくら我慢しようとも膀胱やら肛門の筋力が足りてないせいで波が来たらすぐに決壊してしまうし、その後のお尻を拭いてもらうという行為に僕は何度前世の記憶を無くしたいと思ったことだろう。

せめてそこだけはキロやレックスにしてもらいたいと何度泣き叫んで懇願したことか!


しかし、一ヶ月を過ぎたあたりで僕も吹っ切れた。

決して馴れたわけではない。あきらめたのだ。

現在はニーミが僕の下の世話をしてくれている間は素数を数えることにしてる。


まあ、救いになったのは三ヶ月自体はあっという間に過ぎたということだった。

一週間は見慣れない天井が怖くってベソをかいていたが、睡魔のおかげで紛らわすことができた。

なにせ全体を通してほぼ寝ていたのだから環境に慣れるのにもちょうどよかった。

なので当初の会話を沢山聞いてこの世界の外の様子や異能力について探ろうというのはすぐに諦めた。


今は別の作戦に切り替えている。そう「赤ちゃん大作戦」だ。


やることは単純である。

まずは顔を合わせたらにこやかに笑うこと、そしてただ笑うのではなく何か声をかけてもらったときは必ず可愛いと思えるような仕草で応えることだ。

この二つを全力で行う。


こうして前世の記憶がある僕が赤ちゃんの真似事をするのは少し心苦しいが、僕のことを少しでも可愛いと思ってもらうことがこの作戦のキモだ。

可愛いと思ってもらえればもしかして大きくなったら鍛えるとかましてや戦場に送り込もうなどと馬鹿な考えを改めてくれるかもしれないという僕の一部の望みをこの作戦に賭けている。

バカかと思うかもしれないが、努力の甲斐があってかニーミにはそれなりに効果が出て来ている気がする。


「ハクトちゃんはニーミママのこと大ちゅきでちゅかー」

「あうー!」

「あーやっぱかわいいのさ!!むぎゅーっ!!」


訂正しよう赤ちゃん大作戦のキモはここだ。


特に「ニーミママ」というフレーズが出たら最大限の表情筋をつかって応えるようにしている。

効果覿面のようだ。

癒しです。はい。


カンッ!カンッ!

「おっはじまったさね。戻ろうかハクト!」

「うー」


この打ち鳴らされる音の発生源は鉄をハンマーで叩く音である。

僕が生まれて丁度一ヶ月くらいから鳴り始めたのでなんだろうと思って聞き耳を立てていたら、どうやらキロとレックスが鍛冶屋を始めたらしいのだ。

なにやらキロは鍛冶屋の息子だったらしく道具も釜さえ用意すれば残りの素材は自分たちで調達してきてできるので、今はレックスに手伝わせながら鎧を直したり、剣や盾を作っている。

僕のことがあるので着実にここでの生活に腰を据えたいらしい。

なんだか僕のためにと思うと申し訳がなくなってくる。


「おーい私に手伝えることはあるかいさ?レックスにキロさんさ」

「なんだもう戻って来たのかニーミ?まだハクトと外で遊んでていいんだぞ?」

「いーのよさ!このぐらいの子だと少し太陽を浴びさせるだけでいいリフレッシュになるんさ!」

「それなら良いんだが...ハクトはあとどれくらいで立てるようになる?」

「わからないけど人族(ヒューマン)なら早くても8ヶ月くらいかな」

「意外とかかるもんだな」

「そんなもんさよハイハイすら遅い子は10ヶ月かかってもしてないんだからさ」

「いーやわんねーぜボンは龍人族(ドラゴニュート)だ。もしかしてずっと暖炉の中に入れてるから動かないだけでもうとっくに歩ける筋力はあるかもしれねーぞ?」


え?


「うむ、一理あるな。ニーミ、ハクトをそこのリビングに置いてみてくれ」

「えっでも大丈夫かな?」

「ああ、今は鍛冶用の水を汲んで来てあるし最初以外でハクトが炎を出したことはない。思った通り、発動には条件があるはずだやってみよう」

「そうさね、ハクト頑張るのさ!」


ニーミは僕をリビングの絨毯の上にそっと足から降ろしてくれた。

すると僕は気づいた。


あ...これ立てちゃうな...


絨毯をふむ足にしっかりとした感触がある。

そしてなにより僕はつい三ヶ月前は普通に歩いていたのだ。

もちろんバランス感覚もある。

当たり前のように立てるぞこれ。


「おい立てるじゃないかハクト」

「すごい!本当だ!すごいさハクト!!」

「おー言ってみるもんださすが龍人族(ドラゴニュート)だな!」

「ハクト!さっ歩いて歩いて!ほらっニーミママのとこまでおいで!さっ!」


そのとき僕は自分がもう立てることに驚いたが、それ以上に焦った。

そして一歩を踏み出そうとしたした瞬間に盛大にこけた。

いや、わざと倒れ込んだ。


「うー!だー!」

「あっちゃー大丈夫さ?ハクト?」


何に焦ったか言うまでもないだろう。

そう、「赤ちゃん大作戦」だ。

このまま立って普通に歩いてしまうのはまずい!

せめて赤ちゃんの時くらいは鍛えさせようとか考えさせないようにか弱さと可愛さをダブルでアピールしまくって守ってあげたくなるような、そんな赤ちゃんを演じる必要があるんだ!

何故ならば癒しを今失うわけにはいかいないからだ!

せめて歩いてなるものか!

僕はまだハイハイも出来ません!!


「まてニーミそいつに手を貸すな」

「う?」(え?)

「なんでさ?」

「立てたのだからもう歩ける筋力は十分にあることがわかった」

「でも転んじゃったのさ、まだ早かったんじゃないのさ?」

「いいや早くない、そいつはもう歩ける。言ったよな?ハクトが歩けるようになったら俺が中心になって訓練を始めると」

「で、でもさ...」


これはやばい!なんとかしないと!


「これから俺が中心にハクトの相手をする。いいな?」


くそっこうなったら奥の手だ!僕がこの三ヶ月で編み出したどんな者も虜にする奥義!

指を軽く加えて上目遣いをし、眉毛を微妙に垂れ下げる!現実ならあざといがここは異世界!通じるはずだ!

くらえ!キロ!二次元女子の奥義!どきゅーんふぇいす!!


「くぅ〜ん」

「ああーハクト〜もうそんな顔しないでさー」

「おおっボン、そっそんな顔するなよ...こりゃまいったな」

「でしょ〜レックスもわかってるじゃんさ」


おっ良い効き目だ!ニーミとレックスはメロメロだ!どうだキロ!まいったか!?


「なんだその顔は男ならもっとキリッとしろ」

「...あぅ」


効きませんでした。


こうして僕の「赤ちゃん大作戦」は崩れ去っていった。

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