世界にモザイクをかけたい
先生と佐野
※会話文のみ。
「おい」
「はい」
「お前なに欲しいの」
「……は?」
「ホワイトデー」
「……それ本人に訊いちゃうんですか?」
「悪いか」
「プレゼントの醍醐味はサプライズですよ!」
「バレンタインは大概チョコじゃねーか、サプライズしなくていいのかよ」
「バレンタインはいいんです」
「……なんか圧倒的に男が不利だろそれ」
「世間は女性に優しいですからね」
「……で、お前なに欲しいの」
「まだ訊くか」
「自分で考えんのめんどくせえんだよ」
「だからモテないんですよ先生」
「俺が結婚したら泣くって言ったのはどこのどいつだ」
「それとこれとは話が別ですもん」
「……お前それ好きだな」
「ていうか先生、あたしがダイヤの指輪が欲しいのー、とか言い出したらどうするつもりだったんですか?」
「却下」
「じゃあハワイ旅行」
「それも却下」
「訊く意味ないじゃん!」
「一介の教師にハワイ旅行ねだるお前の意味もわかんねえよ」
「ぶー」
「もっと現実的なものにしてくんない?」
「ええー? ……じゃあ川島さんをください」
「……誰それ」
「この前あたしが一目惚れしたコンビニの店員さんです」
「それのどこが現実的だ?」
「でも欲しいんですもん! ちょうかっこいいんですよ!」
「知らねえよ」
「あ、写メ撮ってあるから見せてあげます」
「……言っとくけど盗撮って犯罪だからな」
「ほらこれ! 向○理似の川島さん」
「向○理って誰」
「ええーっ先生知らないんですか?!」
「テレビ見ねえもん」
「有名なイケメン俳優ですよ!塩顔の。ていうか先生、テレビくらい見ないとどんどん時代に取り残されちゃうと思うんですけど」
「新聞は読んでるからご心配なく」
「あっそんなことより、あたしってばまだ川島さんにアドレス訊いてないんですよー。恥ずかしがり屋だから」
「……どこが?」
「そうだ! 先生、川島さんのアドレスをあたしにプレゼントしてくださいよ! 本人は無理でもアドレスくらいならプレゼント出来るでしょ?」
「却下」
「なんで!」
「俺その川島って奴と面識ないし。知らない人間からアドレス訊かれたら怖えだろ」
「かわいいかわいい佐野さんが知りたがってましたよ!って言えばいいじゃないですか」
「お前知り合いなの」
「ううん、全然」
「……もっと計画性のある発言しろよ」
「ぶー、アドレスも駄目ならあたし欲しいものないじゃないですか! せっかく3倍返ししてもらえるのに」
「あの時の3倍の量のチョコやろうか」
「……太らせたいんですか」
「まあ、お前が別にプレゼントいらないって言うなら俺は大歓迎だけどな」
「それはなんか癪だから絶対なんかもらいます」
「……意地汚ねえ奴」
「うるさい」
「じゃあ、なんか思いついたら言えよ。俺もう行くわ」
「え、どこに?」
「仲居先生んとこ」
「駄目!」
「……なんで」
「行く必要性を感じません」
「仕事なんですけど」
「それでも駄目」
「……お前どんだけ仲居先生嫌いなんだよ」
「どうしても行くならもうちょっと待ってください。今欲しいものひねり出すから」
「現実的に考えろよ」
「うーん……」
「……寝るなよ」
「寝ませんよ!」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……思いつかないなら俺もう行くけど」
「待って待って! ……あ、ひらめいた!」
「なに」
「ホワイトデーの日、先生の1日をあたしにください!」
「……はあ?」
「つまり先生を独占する権利をくださいってことです」
「……それもらってどうすんだよ」
「その日になったら考える」
「そんなんばっかだなお前」
「ね? いいですよね、先生」
「……あー、別にいいんじゃないの」
「やった! じゃあ具体的にちゃんと考えておきますから」
「はいはいどうぞ」
「あ、ストップ!」
「今度はなに」
「まだ行っちゃ駄目です。ていうかあの女に近付くの禁止!」
「だからお前は俺の彼女か?」
「だって嫌なんですもん!」
「俺は仕事があんの。……溜めたくないからさっさと行かせてくんない」
「ぶー!」
「ガキかお前は」
「……仕方ないなー。じゃああたしもそろそろ帰ります」
「是非そうしろ」
「ついでに川島さんにアドレス訊いてこようかなあ」
「……不審者に間違われるなよ」
結局ホワイトデーは先生ん家でふたり仲良くぐだぐだして過ごしましたとさ。