石のスープはフォークでどうぞ
佐野と先生と和田
※会話文のみ。
「突撃となりの晩ごはーん!」
「うわ!」
「……和田、お前ほんとどっからでも現れるな」
「せんせー、今のおれはヨネスケだよ!」
「うざ」
「毎回思うけど普通に登場できないわけ?」
「いやあ、やっぱりちょっとばかり趣向を凝らした方がさ」
「だからって窓から入ってくんのかあんたは」
「ここ3階のはずなんだけどな」
「なんかもう人外なんじゃないですかね」
「人外じゃなくてヨネスケだよ!」
「ごめん、ちょっと黙っててくれる?」
「ところでお前何しにきたの」
「あ、そうそう。今日は一体何の日でしょうー?って訊こうと思ってたんだよねえ」
「今日?なんかあったか」
「なに、せんせー覚えてないの? ぷぷーっ」
「うわむかつく」
「バレンタインですよ。先生さっきチョコもらってたじゃん」
「……ああー、忘れてた」
「ピンポーン! 佐野ちゃんせいかーい」
「やったー、全然嬉しくなーい」
「ていうかだから何なんだよ」
「そりゃあ、バレンタインって言ったら人目をはばからずチョコをわんさか食べられるベルギー人もびっくりな日だよねー、っていう報告!」
「なんか違うぞ」
「大体あんたチョコもらえんの?」
「こう見えてもおれ結構もてるからさー」
「絶対義理だ」
「ああ、義理だな」
「そんな可哀想な目で見るのやめて! 義理だって一応チョコはチョコですぅー」
「……なおさら可哀想」
「そう言ってやるな。確かに腹に入れば皆同じだ」
「だからその目やめてってば」
***
「でさ、佐野ちゃんからはないの?チョコ」
「はあ? あたしから貰おうなんざ一億光年早いわウジ虫」
「え、なにこの言われ様」
「本命のやつに受け取ってもらえなかったんだと」
「えーと……今回の相手って誰だっけ。稲森くん?」
「……さあ」
「高橋くんです。サッカー部所属の爽やかイケメンボーイの」
「……ご説明どうも」
「ていうか高橋くん彼女いなかったっけ?」
「いる。おんなじクラスの長澤」
「そうそう! あの子かわいいし性格いいよねえ、佐野ちゃんと違って」
「………」
「あ、今視線だけで死ねる気がした」
「つーかお前の男を選ぶ基準がわかんねーよ俺は」
「毎回全然タイプ違うもんねえ」
「好きになったひとが好みのタイプなんで」
「この前の彼氏はヤンキーじゃなかったっけ? あれ? 気が弱そうなのだっけ?」
「ああ、もやしな」
「林です、先生」
「わかってるって」
「そもそも佐野ちゃんがあの爽やかボーイの彼女になるってこと自体有り得なくない? 死ぬほど性格わるいのにさあ」
「猫くらいかぶるに被るに決まってんじゃん当たり前でしょ」
「……恋するオトメって恐いなー」
「ていうか、あんたらもうちょっとあたしに対して優しくできないんですか? あたしこれでも失恋で傷ついてんだけど!」
「俺はパス。こういう時のお前はものすごくめんどくさい」
「おれも八つ当たりされるからやだ。まあ、ファイト佐野ちゃん!」
「……薄情者ー!!」
***
「あ、そういやせんせーも佐野ちゃんからチョコもらってないの?」
「試作品死ぬほど食わされたから今更いらねえ」
「ぶーぶー。おれも食べたかったー」
「びっくりするくらいまずかったけどな」
「じゃあいらないや」
「本人の目の前でそういう会話やめてくれる!」
「佐野ちゃんって料理下手なんだねえ。……まあ想像通りだけど」
「シメるぞ」
「いや、料理はまあまあ上手いんだよ。ただ菓子類が破滅的にまずいだけで」
「……それ褒めてんですか?」
「ご想像にお任せする」
「先生はなんかソツなくこなしそうだよねえ。独身貴族だし」
「毎日カップラーメンすすってる貴族もどうなんですかね先生」
「あれは俺のように忙しい人間のために造られた品なんだからいいんだよ」
「年がら年中暇そうな顔してるくせに」
「うるせえ馬鹿生徒」
「……あ、せんせーのチョコはっけーん!」
「勝手に他人の荷物漁んないでくれるかな馬鹿生徒その2」
「うわあ、6個もあるよ! せんせー、この中で本命っていくつあんの?」
「まず義理で渡してくるほど生徒と親しくないからね俺」
「じゃあ全部本命?! ……奇特なひともいたもんだー……」
「いい度胸だなお前」
「ああもう信じられない。なんで先生なんかがいいのか理解不能」
「なあ、お前失礼って言葉知ってる?」
「なーんか超本気っぽいラッピングだよこれ。どーすんの?せんせー」
「手出すつもりですかセクハラ教師!」
「うるさいよお前。つーかどうもしねーっつの、くれるって言うからもらっただけ」
「じゃあホワイトデー返してあげないんだ」
「興味のない相手に金を掛ける意味がわからん」
「うわ、最低だね!」
「だからモテないんですね先生!」
「……いい加減お前ら出てってくんない?」
***
「つまりはさあ、おれら3人とも冴えないバレンタインを迎えてるってことだよね」
「俺含めないでくれる」
「乗りかかった船なんだからいいじゃないですか」
「ひとりだけ本命チョコもらって良い思いしてんのが許せないだけとも言う」
「八つ当たりだろそれ」
「まあまあ、とりあえずここはヨネスケに免じて」
「……まだ引っ張ってたのかそのネタ」
「ていうかヨネスケとして登場した意味もわかんないし」
「おれはその場のノリで生きてるからね!」
「じゃあ今この場のノリに殉じて死ね」
「ひでー!」
「なんかもうどうでもよくなってきたなー。先生このチョコ食べます?」
「あ? それもやしに渡すはずだったやつだろ」
「もやしじゃなくて林です。しかも渡そうとしてたのは高橋くんです」
「いちいち細かいな」
「大分ざっくりしてるはずなんですけどね」
「せんせーが食べないならおれが食べるー」
「誰もあんたに食わすとは言ってない」
「なぜ! いいじゃん、どうせ甘いの嫌いでしょ?せんせー」
「嫌いだけどお前が食うのはなんか癪だから食べる」
「ふたりともなんでそんなおれに対して辛辣なの!」
「あんた見てるとイライラするんだよね」
「それきっと恋だよ佐野ちゃん」
「……和田、お前幸せな頭してんだな」
「ありがとう!」
「ていうか先生。それ食べるからにはちゃんとホワイトデー返してくださいよ3倍で」
「それが狙いか」
「当たり前じゃないですか! せめて元は取らないと」
「だからフラれたんじゃないかな佐野ちゃん」
「うるさい」
「いっつも愚痴聞いてやってんだからそれでチャラでいいだろ」
「それとこれとは別です」
「……あっそ」
「ホワイトデー、楽しみにしてますからね先生」
「じゃあついでにおれも楽しみにしてるからねせんせー!」
「教師にタカる生徒を罰せない法律が憎い」