リダルダンドがいい
佐野と先生と和田
※会話文のみ。
「先生、あたしの名前知ってますか?」
「はあ? 知ってるよ、お前教師なんだと思ってんの」
「じゃあ言ってみてください」
「佐野」
「いや、フルネームで」
「…………佐野」
「フルネームでって言ってんじゃん」
「あー。佐野……藤吉郎?」
「秀吉か」
「じゃあミジンコ」
「喧嘩売ってんなら買いますよ」
「……つーかそういうお前こそ俺の名前知ってんの」
「新見耕平」
「……知ってんのかよ」
「生徒舐めんなコラ」
***
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」
「うわ! びっくりした!」
「……お前どっから出てきてんだよ」
「机の下でーす。そんなことよかお二人さん、おれの名前って知ってるー?」
「「和田」」
「今までの流れからして明らかにフルネーム訊いてるよね」
「だってあんたの名前なんか興味ないもん」
「愛が足りないよ佐野ちゃーん」
「うん、もともと存在してないからね」
「確かお前の名前ってやたら古臭くなかったっけ?」
「そおー! 流石せんせー、冷たいふりしてイカしてるうー」
「それやめてくれる」
「古臭い? って、キヌとかフネとか?」
「何でおばあちゃんっぽいのばっかなの」
「違くね? なんかもっと……藤吉郎!みたいな」
「どんだけ秀吉引きずってんですか先生」
「……二人とも真面目に考えてないでしょ」
「だから興味ないんだって」
「ひでー」
「ていうか最初はあたしの名前聞いてたんじゃなかったですっけ?」
「ああ、そうだった」
「結局あたしの名前知らないんですか、先生」
「あ、おれ知ってるよー」
「え、何で?」
「おんなじクラスだから?」
「……若い奴らは記憶力が良いこって」
「年寄りくさいぞせんせー」
「うるせえ」
「で、あたしの名前なーんだ」
「はーい、佐野未波ちゃんでーす」
「せいかーい」
「……ゆるいな」
「可愛くないですか?未波って。お気に入りなんですよ」
「ふーん」
「うわっ興味なさそう」
「さっきのおれに対する佐野ちゃんみたいだー」
「うるさい和田」
「ていうか、和田の名前って結局なに。なんか気になってきたわ俺」
「おー、ちょっと嬉しい」
「和田……ひ、なんとかじゃなかったですか?」
「あ、意外と覚えてるね佐野ちゃん」
「ひ、なんとかじゃ覚えてるって言わねーだろ」
「正解はねー……」
「……あ、心なしかドラムロールの音が……」
「明らかに気のせいだけどな」
「じゃじゃーん、和田一二三でしたー!」
「………は?」
「だから、一二三だって」
「いやごめん、これ文字だけだからわかんない」
「何て読むんだそれ」
「……いちにさん?」
「ひふみ、って読むの。ばあちゃんが付けてくれたんだよねー」
「あー、なるほど古臭い」
「失敬な!」
***
「ていうか何で俺ら名前当て大会してんの」
「そう言えばそうですね。何でだ?」
「佐野ちゃんから始まったんじゃないの?」
「あーそう、元凶お前だ」
「その言い方やめてくださいよ、あたしが悪いみたいじゃないですか!」
「いや、実際そう言ってんだけどな」
「あーなんかお腹へったなー。せんせーなんか奢って」
「教師にタカるな」
「あたしもなんか食べたいです先生」
「無理」
「ケチ!」
「うるせえ」
「あー、今日も平和だー」