冬のお姫様の騒がしい1日
素人なのでお見苦しいところがあるとは思いますが、ご容赦ください。
ねえ聞いて! もう、信じらんない! 今朝はサイアクよ!!
わたし今日ね、すっごくいい夢を見ていたの。もう本当に最高の夢!
このわたしが雪だるまさん達と外で雪合戦をしていたのよ! まさに夢のような時間だったわ!!
だってあなた、あの丸々とした抱きつきたいほど愛らしい雪だるまさん達は、冬にしか姿を見せてくださらないでしょう? それにほら、あの雪っていう名前の世界一きれいな宝石は、春や夏や秋にはお空から降ってきてくださらないでしょう?
それに引き換えわたしはどう? わたしは冬の間中、ずっと塔の中にいるのよ。そして塔を一歩でも出たら冬は終わってしまうのよ? つまり私は、雪の降る中雪だるまさん達と雪合戦をするなんてこと、一生できないの。悲しいと思わない?
だから今日見た夢は、私一生忘れないの。絶対に忘れないの。それほどキラキラした楽しい時間だったわ。
だから今朝は、今までの人生の中で最高の時間だったわ………
違うわ! 聞いてよ! その後がサイアクだったの! その後よ!!
だって、わたしの目覚ましが『お願いします!! どうか早く春の姫様と交代してください!!』っていうセリフの大合唱よ! 寝ぼけ眼でお外を見てみたら、国民みんなが叫んでたわ。そこにお父様もお母様もいたの。夏と冬のお姉さま達もいたわ。
みんないたのに、春のお姉さまだけはなぜか姿が見えなかったわ。どこに行ったのかしら?
そんなことはどうでもいいのよ! それより信じられる? みんながわたしに向かって、さっさと冬を終わらせろって言ってたのよ? あり得ないわ!
わたしは冬が大好きよ。すっごく大好き。だって雪が降るんだもの。遠くの山々も近くの家々も、あの純白の宝石でデコレーションをされるのよ。塔から眺めた景色は本当に最高なの。
だからわたし、何でみんながそんなことを言うのか全っ然理解できないの。冬の景色の美しさというものが分からないのかしら。それに、みんなはわたしと違って雪に触れられるし、雪だるまさん達とも遊べるのよ? それってとっても羨ましいことだわ。何でその素晴らしさが分からないの?
わたしそう思ったから、みんなに向かって冬の素晴らしさを語ってあげたの。どれだけ冬は素敵で、どれだけみんながわたしと違って恵まれているのかを。それはもう悠々とね。
わたしはみんなの為を思って語ってあげたの。きっとみんなは、悪い魔法にかけられて、景色を慈しむっていう心を忘れてしまったのだと思ったの。冬の景色にすら感動出来なくなってしまうなんて、そんなの悲しいじゃない。だからわたしは、かたってあげたのよ。
なのに、その答えがなんだったと思う?
『そんな理由だけで冬を何ヶ月も長引かせてるのかよ! このジコチュー姫!!』 ですって!
そんな! 誰がジコチュー姫よ! わたしはみんなの為を思って喋ってあげたのよ? 思い遣り深い女の子とは言われても、ジコチューとは言われる覚えが無いわ!
そもそもわたし、冬を何ヶ月も長引かせてた気なんて無いわよ! そりゃあ、わたしは確かに寝坊助でぐうたらかもしれないわ。朝起きるのだって大嫌い。王宮にいるときは、いつも春のお姉さまに起こしてもらってるの。そんなわたしだったら、確かに何ヶ月も寝過ごすなんてこともあり得るわ。
でもそれってわたしの所為じゃないじゃない! 春のお姉さまが起こしてくださらないのが悪いんじゃない! だって寝坊助なのはわたしの性格なんですもの。今さら直しようがないわ。
人の性格にケチつけるんじゃないわよ! このバカ! アホ! おたんこなすぅ!!
___そう言ってやったわ。ええ。今言ったこと全部言ってやったわ。「おたんこなすゥ!!」まで全部よ。だって怒ったんだもの。
そしたらみんな、なんて言ったと思う?
『このズボラ姫ー!!』ですって! 分かってるわよ。わたしがズボラなんてことぐらい! でもそれをわざわざ言う必要も無いじゃない! 酷いわ。あんまりよ!!
だからわたし言ってやったわよ。
『絶ッッッッ対に塔から出てやるもんですか! バーーーカ!!!』
すっきりしたわ。
そうやってムクれてると、家来の一人が誰かを呼んできたの。なんでも、わたしが寝過ごしている間に、お父様がお触れを出したらしいの。わたしを塔から引っ張りだす為に。それで現れた一人なんですって。まったく、大袈裟なんだから。
現れたのは、金髪の長い髪をたなびかせた長身のイケメン。優しそうな顔つきで、姿を現した途端に、黄色い悲鳴がそこら中から起こったわ。どうも、隣の国の王子様みたい。
その王子様がわたしにこう聞いたの。
『お姫様、世界で一番美しいものはなんだとお思いですか?』
『………? 雪?』
面白そうだから答えてあげたわ。
『はい。もちろん雪は美しい。しかし残念ながら、世界で一番ではございません』
『じゃあ、何よ』
わたしは自分の答えが不正解だと言われて、すごく嫌な気持ちになったわ。だから、その王子様の言う答えっていうのが知りたくなったの。
『それは、冬に降り注ぐ雪の結晶でも、春に舞い散る儚い花々でも、夏の夜空に浮かぶ黄金の月でも、秋の山々を彩る紅葉でもございません』
『なによそれ。じゃあどの季節にも世界一美しいものは存在しないって言うの?』
わたしはさらに不機嫌になったわ。だってわたしは、冬の季節も大好きだけれど、三人のお姉さまも同じくらい大好きなの。だから、どの季節にも世界一美しいものが無いだなんて言われたら、不機嫌になるのも当然よ!
そしたら王子様は、真っ白の歯を煌めかせながら言ったの。
『いえ、どの季節にも存在しているから、季節の風物詩ではないのです』
『……どういうことよ』
わたしは聞いたわ。じゃあ何が世界一美しいものなのか。
王子様はニコリと微笑むと、「答え」を口にしたわ。
『世界一美しいもの。それは、
景色を慈しみ、季節を心から想える。そんな、あなたの心でございます』
『お父様。その金髪を国から追い出して下さいますか?』
『……へ?』
わたしがそう言ったら、颯爽と家来が現れて、王子様をどこかへ連れ去ってったわ。
ええ。王子様の言った「答え」はすっごく不快だったわ。だって、わたしの心が世界一美しいなんて、そんなの嘘だってすぐ分かったんだもの。あなた、世界中の人の心をちゃんと見ることが出来る? できるわけないわよね。自分の心ですらちゃんと見れないのに。
そんな適当なセリフを言うためにわざわざ、わたしの冬とお姉さまたちの春夏秋を堕としたのよ? サイッテーよ!!
その後にも、5、6人ぐらいどこかの国の王子様が来たんだけど、別に大して面白いことも無かったわ。ぜーんぶオブラートみたいにペラッペラで頼りないセリフばかりしか言わないの。ハッキリ言って時間の無駄だったわ。
そんなこんなで夕方になったわ。季節は冬だから、もうあたりは真っ暗。チラホラ帰る人も出てきたぐらい。
『まさか寝過ごしていたとは……』とかなんとかつぶやきながら塔を後にする人たちも多かったわ。そうよね。冬がいつまでも終わらないのがそんな間抜けな理由だったなんて、信じられないわよね。でも残念、真実よ。わたしって寝るのは早いけど起きるのがすっごく遅いの。
わたしも、今日は寝ようと思って窓を閉めようとしたの。何ヶ月も寝た後だったけど、今日1日は本っ当に疲れたのよ。もう一度寝たかったわ。
でも、窓を閉め切る前に声がしたの。誰かの喜ぶ声。
なんて言ってるのかよく聞きたくて、閉めようとした窓を全開にしたわ。そしたら、向こうから走ってくる人影が見えたの。
___春のお姉さまと、お付きの家来数人だったわ。
『春の姫様が来てくれたぞ!!』
声はどうやらそう言ってたみたい。
春のお姉さま、姿が見えないと思ったらどこかへ行っていたのね。あれ? よく見ると、服がヨレヨレだ。それになんだか疲れているようにも見えるわね。……何をしていたんだろう? わたしは疑問に思ったわ。だから塔に近づいてくるお姉さまに向かって聞いたの。
『春お姉さま! 何をしていらっしゃったの?』
お姉さまはわたしの声に気づくと、にっこり笑って答えてくれたの。
『冬ちゃんに、遠い北の国へプレゼントを買いに行ってましたの!!』
何てことなの!? 遠い北の国って、馬を使っても1ヶ月はかかるのよ? そんな長い道のりをわたしの為に……?
そしたら春お姉さまは、家来に担がせていた荷物から一本のビンを取り出したの。透明で、中に真っ白の綺麗な何かが入っているのが分かったわ。
春お姉さまは、それをこっちに向けて言ったの。
『これは、夏でも解けない万年雪ですの! これで冬ちゃんも、一緒に雪で遊べますわよ!!』
『………!!? 春お姉さま………!!』
わたし、すっごく感激したわ。涙まで流れてしまったわ。だって、わたしの永遠の夢だった「雪で遊ぶこと」を叶えて下さったのが、あの春お姉さまだったんですから。
他でもない、わたしの大好きな春お姉さまだったんですから!!
『春お姉様ぁぁ!!!!!』
わたしは思わず、塔から飛び出して行ったわ。もう、悪口を言われたことへのムカムカとか、そんなものどうでも良くなったから。
わたしが外に一歩踏み出した瞬間、世界から雪が消滅したわ。
__春お姉さまの持つ、万年雪を除いて。
わたしは飛び出した勢いそのままに、お姉さまに飛びついたの。
『わっ! こら、冬ちゃん。はしたないですわよ!』
そう言ってたしなめる春お姉さまは、優しい笑顔をしていたわ。
『えへへ! 春お姉さま、大好きです!!』
『もう、冬ちゃんたら』
こうして、再び世界に季節が巡ったの。国民の皆さんもすごくお喜びになってたわ。
その後わたしは、国民の皆さんに深くおわびを申し上げたわ。もう二度としませんと誓ったの。そう言ったら皆さん笑って許してくれたわ。正直怒られるかと思っていたから、この反応にはビックリしたわ。それと同時に、もう二度と迷惑は掛けまいと、そう思ったわ。二度と寝過ごしたりなんかしないって。
___まあ、お父様やお母様にはこってり絞られたんだけど。
そんなこんなで、今日1日、或いはここ数ヶ月の騒動は終わりを迎えたの。
色々嫌なこともあった1日だったけど、総じて言うならば___
___今日は最高の日でしたわ!!
地味に、春のお姫様も戦犯の一人です




