表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
95/202

95話 この日挑んだレイドボスの力に彼らは「無理ゲーだろwww」

 深い渓谷を100人のプレイヤーが進む。先頭を1班による20人。その後方を残り4班による80人での行軍だ。


 後方の4班が大きな岩やぬかるんだ地面に四苦八苦しているのに対し、先頭の20人の足は靴に羽がついているかのような軽やかさを見せている。地形の悪さに対して軽快に進むその足を見れば、熟練の登山家の集団か鍛えられた軍隊の行軍にも見えるだろう。


「流石最前線の攻略組。あの動きはスキルによる恩恵かな」


「先頭の班は盗賊や忍者を中心にした索敵中心の班だからね。あのぐらいは当たり前のようにこなしてくれるわよ」


 俺の呟きに答えてくれたのは同じ班であり蒼天の中心メンバーでもある大佐。確か職業は僧侶だったな。モーニングスターで敵を撲殺するスタイルの、一般的な僧侶だ。


 俺はついでとばかりにもう1つの疑問をぶつける。


「大佐、俺たちの班の特徴って何なんですか?」


「この班? そうねー、悪く言えば残り者の集団かな」


「残り者、ですか」


「うん。それぞれの班には大まかにだけど役割があるの。先頭を行く第2班は索敵能力や突発的なトラブルに強いチーム。第3班は接近戦能力に優れた剣士や拳闘士、騎士を中心に集まったチーム。第4班は後方からの攻撃の得意な魔法攻撃職や射撃職なんかを中心に組み込んだチーム。第5班は回復や付与なんかの援護に長けた職を中心に集まるチーム。

 それに対して私たちの第1班は、個性が強すぎてその辺に組み込むと輪を乱しかねない人の集まった集団。あまりにも扱いが難しいから、第1班は大尉がリーダー。私がそのフォローに回ることにしたの」


 つまり、癖の強すぎる問題児集団ということか。オブラートに包まない実にわかりやすい説明だが、それを当の問題児に説明するとは。申し訳ない気持ちと同時に変な思いも沸き起こってくるな。


「それは、何と言えばいいのか……」


「あ、でも今のはどっちかと言うと表向きの話ね」


「表、ですか。じゃあ裏は?」


 俺の言葉に大佐は口を三日月状に吊り上げる。


「うちの軍曹やソウ君みたいなイレギュラーを最大限に活かすため」


 キョトンとしていると、大佐はしてやったりな笑みを浮かべ言葉を続ける。


「さっきは悪い意味で言ったけど、良い意味で言えばこの班はソウ君と軍曹の為の班よ」


 それ良い意味か!?


「君たち2人をどう活かすのか、どうすれば最大限のパフォーマンスを発揮できるのか。それを最優先に考えて組まれたのがこの第1班よ」


 大尉なに考えてんの!? 2人だけの為に1班丸ごと使うとか正気か!?


「それだけの価値が、あなたと軍曹にはある。私たちはそう判断したの。それに、この班の蒼天のメンバーは私たちの知り合いの中でも特に信用できる人たちを選んでる。残る雪姫親衛隊も彼女が洗の――コントロールしてる。君のことを言いふらすような人はこの100人、特にこの20人にはいないはずよ」


 今洗脳って言おうとしたよね!? 絶対したよね!? 気遣いありがとうございますだけど、すんごいパワーワードのお陰でありがたみ半減だよ。


「そういう訳だから、今日は君の全力を見せてほしいな」


「……善処します」


 大佐の満面の笑みに、俺はそう答えるしかなかった。





 ■ □ ■ □ ■





 約1時間の行軍を終えた俺たちは、両脇を断崖で囲まれた峡谷の深い位置まで来ていた。


 そして100人の眼に映るのは、その先を阻むように立つ巨大な扉。まず間違いなく、この先にレイドボスがいるだろう。


「デケぇ……」


「でヤンス」


 雪姫親衛隊Aの呟きにBが応じる。神妙な雰囲気が台無しだ。因みに、どうでもいいことだがヤンスは眼鏡をかけている。


 ……ホントにどうでもいいな。


「皆! わかっているだろうが、あらゆる事態を想定して動いてくれ!」


 全員の前に出た大尉が声を張り上げると、多くのプレイヤーの顔に緊張が張り付く。


 いよいよだ。


「この先にいるのはおそらく過去最強の敵。だが、それと同時にここに集ったプレイヤーのレベルも過去最強だろう。各人の奮戦に期待する!」


 大尉の気合の乗った言葉に、鬨の声が上がる。谷の間で共鳴した怒号が鼓膜を叩くこの感じ、嫌いじゃない。


「よし、行くぞぉおおお!」


 巨大な扉が開くと同時に、俺たち100人のプレイヤーは中へと突撃した。









「……嘘、だろ」


 誰の言葉かは分からない。だがその呟きがハッキリと聞こえるほど、全員が顔に冷や汗が貼り付け静かに息を飲む。それほどまでに、今俺たちの前にいるレイドボスは常識を超えていた。


「デカすぎだろ……これは」


 さっきまで渓谷にいたはずの俺たちが今いるのは、全方位を岩盤で囲まれた巨大なドームの中。大きさは東京ドームの倍程だろうか。


 そしてその中央に堂々と立っているのは、巨大な、呆れるほどに巨大な女の巨人。視界の左上に浮かぶ奴の情報一覧には、何層にも並ぶ奴の膨大なHPバーと、《神・アネ》という名前が表示される。


 ウェーブのかかった金色の髪は腰まで伸び、質素ながらも所々に金を散りばめられた白いローブを羽織っているその姿は、なるほど確かに《神》と名乗るだけはある。

 大きさはアメリカ合衆国にある自由の女神と同じぐらいだろうか。ビルに換算すれば10階建て相当。もっとわかりやすく言えばガン〇ム2機分相当という感じか。うん、今の例えはいいな。相当にわかりやすい。


「お、おい! あいつ、動くぞ」


 直立不動の美しい像は、急に命の火が灯されたかのように呼吸を始め俺たちを見据えた。


『小さき子らよ、初めまして。私は神・アネ。ここまで来た褒美に、私から一言あなた方へ授けましょう』


 完全に上からの物言いだが、生物として上位を誇示するかのような大きさとその美しい見た目に、俺を始めとしたここにいる全員は神の言葉に聞き入っていた。




 そして神の唇が再び動いた時――




『――死ね』


 俺たちの地獄は始まった。


 両手を広げた神の掌から極太のレーザーが発射されると、視界一面を爆炎が覆う。


「うわぁああああああああ」


 先頭にいた第2班の十数人が炎に飲まれ、瀕死の状態で転がり出てくる。


「散開しろぉおお! 動け動け動けぇえ!」


 リーダー格の男の叫びにも聞こえる声が戦場に響くと、その周囲にいたプレイヤーはそれぞれの役割を果たすべく動き出す。


「5班は2班の重傷者の回復を急いでくれ! 3班は奴のヘイトを! 4班は3班の援護を頼む!」


 一通りの指示を出し終えた大尉が俺と軍曹へ顔を向ける。


「軍曹、ソウ君! 行けそうな時には自分の判断で行ってくれ」


 そう言うとすぐに大尉は全体の指揮を執る立場へと戻る。


 さて、それじゃあ――ん、どうしたんだ軍曹。俺の顔に何かついてるか?


「おい小僧」


 こぞっ……言い方が相変わらず乱暴だなこの人。一体何だって言うんだ?


「足引っ張るなよ」


 カッチーーーーン!


 おうおうそう来るか。ならやってやんよ。張り切ってぶっちぎってやんよ。


 青筋を立てつつも、笑顔で軍曹へと口を開く。


「軍曹こそ。怖いなら俺の後ろにいていいですからね」


「あ゛あ゛!?」


 さぞや面白い顔をしてくれているであろう軍曹を置き去りに、俺は爆炎舞う戦場へと突っ込んでいった。






「どわぁああああああああ」


「ぎゃぁああああああああ」


「光と人の渦が と、溶けていく。あ、あれは憎しみの光だばぁああああああ!?」


 連続して掌から放たれるレーザーに前衛職は次々と吹き飛ばされていっている。だがそれでもまだ1人の脱落者も出ていないのは、ギリギリのラインで盾職の人が攻撃を引き受け、すぐに回復及びヘイト移行の管理がなされているためであろう。流石は攻略組だ。なんかおかしな人も混じっているが、その辺も含めて流石だ。


「しかし敵のHP全然減らないな……」


 前衛職がヘイトを引き付けている間に、後方の遠距離攻撃職で構成された4班は間断なく攻撃を神に浴びせている。中には雑魚モンスターであれば一瞬で蒸発するであろう強力な魔法攻撃も飛び交っているが、今のところそれも有効打には至っていない。

 それを援護するように、ライフルなどの射撃武器による攻撃手段を持つ人たちも攻撃を続けるが、放たれる矢や鉛玉の殆どは女神の衣装や肌に傷をつけられないでいる。


「あれだけ魔法が飛び交ってたら極光六連は使えない、か」


 だがじっとしていても仕方がない。攻撃しつつ敵の出方を窺おう。


「リロード【閃光弾PT-01】」


 装填した銃弾を、破壊と暴虐の限りを尽くす女神の眼前に放つ。


『ぬ、なんだ、この光は!?』


 よし、目くらましは有効。なら次だ。


「リロード【徹甲弾PT-02】」


 貫通力重視の弾丸を女神のアキレス腱目がけて放つ。すると弾丸は小さな傷跡を残し奴の体内へと入っていった。


 よし。これで徹甲弾も有効だということが分かった。さっき見たスナイパーの人の通常射撃があまり効いてないことを考えれば、徹甲弾を軸に攻撃パターンを構成したほうが良さそうだな。


 俺の行動を見た射撃職が数人、弾丸を徹甲弾へと切り替えていく。


 ここ最近スミスさんに弟子入りする人が増えたせいか特殊弾が結構出回っているからな。攻略組の人たちなら持っていても当然か。


『ええい、鬱陶しい。消えよ!』


 掌からではなく、女神の周辺の何もない空間から無差別にレーザーが降ってくる。さっきまでよりも細く威力は低いようだが、その代わりと言わんばかりに大量のレーザーが雨となって降ってくる。


「うあああああああ」


 至る所で被弾したと思われる声が上がり、人影がゴミのように飛散する。


 俺は迅雷を起動したお陰で1発も貰うことなく距離を取ることができたが、今ので前衛職の壁役が回復のために後退し減ってしまった。


「いかん! 盾職が戻るまで近接職でヘイトを取ってくれ! このままでは後方部隊が攻撃に晒される!」


 大尉の指示が戦場に轟くと、誰よりも早く、一陣の風と化した迷彩服の侍が戦場を駆ける。


「おおおおおおおお、一刀破斬!」


 軍曹の手に握られた剣は極大となり、女神の脛に叩きつけられる。


『ぬうぅ!?』


 弁慶の泣き所。アレは痛そうだ。HPは殆ど減ってないが、それでも痛そうだ。見た目的に。


「っと、おいしいところを持っていかれるわけにはいかないな。リロード【焼夷弾PT-01】」


 ここへ来る前にスミスさんから調達しておいた俺の手札の1つ、焼夷弾。その弾丸は女神の右肩へ命中すると、燃焼性の高い炎を吐き出し肩を焼く。


『うっ、この』


 だが女神は纏わり付いた蜘蛛の糸を払う様な反応しか見せない。


 う~ん、あれでもダメージにはならないか。もっと体の内側で燃やさないと駄目っぽいな。


「おい小僧」


 そう言う軍曹が、鋭い目つきそのままに俺の横へ並ぶ。


「お前、右足をやれるか?」


 敵の機動力を潰すために足を狙う。それは戦の常套手だ。ましてや敵はこちらよりも遥かに巨大で強い火力を持つ。それをとるのは当然だろう。


 だが俺は軍曹の問いに、どうしても「やれます」と素直に返したくなかった。


 ――なんだろうな、この気持ちは。


「逆に聞きます。軍曹、左足やれますか?」


「ああ? 舐めた口きいてんじゃねぇ。余裕だっつうの」


 一瞬で不機嫌の顔を形成する迷彩服侍。その顔を見て、俺の中で先ほどの疑問の答えが出た。


 あぁそうか、俺は――


「じゃあ俺は右を。足引っ張らないでくださいね」


「なっ!? そりゃこっちのセリフだ!」


 この人に負けたくないのか。

次回『この日見た神の力は俺たちの予想を超え過ぎていた』

更新は木曜日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ