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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
88/202

88話 この日挑むダンジョンの深さを俺たちはまだ知らない

 新たなる称号『災厄のプリンス』の名を得た俺は、いつ降りかかるかわからないトラブルに細心の注意を払いつつ、ダンジョンの奥へと歩を進めていく。


「お~い総。どんな感じだ~?」


 後ろから伸二の声が洞窟内をこだまして伝わってくる。


「大丈夫だ~。来ていいぞ~」


 俺の声に少し遅れて、伸二から了解の旨の声が再びこだまして返ってくる。


 災厄のプリンスこと俺がこうして1人先を行くのには勿論理由がある。一言で言ってしまうと、石ころコロコロ作戦だ。


 進む先に石ころを投げる。何もなければ安心して進む。何か反応があれば気をつけて進む。ただそれだけ。


 だが問題は石ころの役割が俺という点だ。解せぬ。


「そろそろ来ると思ったんだがな~なっかなか来ないな」


 お前は俺に何を期待してるんだ。


「頼むわよぉ~災厄のプリンス」


「期待しているよ、プリンス」


「頑張ってね、プリンス」


 ……こいつら。


「あの、私はプリンスっていいと思いますよ」


 プリンス万歳。俺が王子なら葵さんはラブ&ピース星の姫だな。幼くして愛を誓い合った2人。だが時の運命はそんな2人に試練を課す。2人の国は些細なトラブルから戦争へと発展。しかし王子と姫の愛はそれでも変わることはなかった。やがて2人は愛の力で戦争を終結に導き、その後無事に結婚――


「お、なんか新しい扉があるぞ。行ってみようぜ」


 いつでもどこでも、幸せというものには終わりが訪れる。それはたとえ妄想の世界だとしても、例外ではないのだ。





 ■ □ ■ □ ■





 扉を開けると、そこは野球場でした。






 大事なことだからもう一度言おう。野球場でした。






 はぁあ!?



 俺の心の叫びはここにいる全員が共有しているようで、皆一様に目を点にしている。


「なぁ、このゲームバグッたのか。どうして洞窟の地下にいた俺たちが急に青空の下に広がる野球場にいるんだ?」


 知るか、俺が知りたい。


「これ……私掲示板で見たことある」


 流石ネトゲの姫。情報網はバッチリか。


「ここは多分、イベント専用の特殊フィールド。もうあのダンジョンとは全く違う場所だと思う」


 位置情報を確認するためにステータス画面を開くと、そこには確かに位置情報不明と書かれていた。


「で、その情報通りだとすると、ここで何かのスポーツで勝負をして、勝ったら豪華景品が貰えるって感じだと思う」


 ほほう、それは興味深い。この場所でするスポーツといえば間違いなく野球だろう。これでラグビーとか言われたらビックリだわ。まぁやるけども。


「じゃあ敵が出てくるのを待てばいいってことか?」


「だと思うが、このままだとやるのは野球だろ? 人数どうするんだ?」


 俺の返しに、伸二はハッとした表情を返してくる。こいつ、気付いていなかったのか。


「あ、それも多分大丈夫よ」


「え、それってどういう――」


 雪姫さんの真意を確かめようとする俺の言葉は遮られた。


 不意に上空から降ってきた鳥人間によって。


「……何だ、アレ」


 ポカンとした表情の伸二から出た言葉は、この場の全員の気持ちを代弁していた。


 そしてアレは何だと言われれば、こう答えるしかない。


 鳥人間だと。


 たとえ野球のユニフォームを着ていて、9人(?)の戦士が揃っていて、どう見ても羽にしか見えないその手にバットとグローブがはめられていても、俺たちはこう答えるしか術がない。


「鳥人間だろ」


「いやでもアレ――」


 二の句を告げようとする伸二の顔の正面に、大きく広げた手をさし出す。そして俺は真剣な、実に真剣な顔で伸二にそれ以上は言うなと無言で訴える。


 たとえここがフクオカで、あの戦士たちがお前の大好きなあのチームに似ているとしてもそれ以上は絶対に言うな。それを口にした瞬間、俺たちの敗北が決まる。主に偉い人たちの理由で。


『良くぞここまで来た、戦士たちよ』


「喋った……」


 当たり前だが、俺はその当たり前に心底安堵した。これで第一声がコケコッコーだった日には、今日の晩飯は焼き鳥に決定だっただろう。


『ここまで辿り着いた褒美に、我々とスポーツで勝負をする権利をやろう』


 ここまでは雪姫さんの言った通りの展開。だが問題はこの後だ。


『そして、種目はなんと野球だ!』


 なにが「なんと」なのか理解に苦しむが、相手は鳥だ。きっと頭脳も鳥なのだろう。


『む? しかし貴様ら……6人しかいないではないか! けしからん、大変けしからんぞこれは!』


 ……知るか。


『仕方ない……私が特別に貴様らにチャンスを与えてやろう』


 先ほどから1羽先頭に出て喋る鳥人間が、さらに偉そうにふんぞり返った姿勢で告げる。


『貴様らの知り合いを特別に3人、ここに召喚してやろう。呼び出したい者の名を私に告げるがいい』


 これは……フレンドを助っ人に呼べるというわけか? だが俺に呼べるフレンドって言ったら……


 俺の脳裏に浮かぶのはトップギルド所属の変態紳士や歩く無愛想、筋肉ダルマ伍長に殴る僧侶アマゾネス大佐。どれも戦力としては申し分なさそうだが、3という数字が俺を悩ませる。


 これでは1人が余ってしまう計算だ。そしてその辛さは、遠足や修学旅行の班決めでいつも「余った人」の役割を務めてきた俺には必要以上に理解できる。


 しかしそうなると、他に誰を……そうだ。雪姫さんなら沢山フレンドがいるはずだ。まずは彼女に聞こう。


「雪姫さん、誰か野球の得意そうなフレンドさんいます?」


「う~ん……こういう時に呼んじゃうと大概の人が勘違いして後がめんどくさくなっちゃうのよねぇ~」


 パス、パスだ。これは駄目なパターンだ。と言うか俺、何故この流れが予測できなかった。


 だが俺にはまだ頼れる仲間がいる。


「リーフは? 誰かいる?」


「いるにはいるんだけど……クラスメイトになるって言うか……その」


「すまん総。俺とリーフも今声かけれる奴はいないんだ」


 申し訳なさそうな目になる翠さんに、何かを察した伸二が言葉をかぶせる。それを俺も何となく察し、それ以上の言葉を避ける。


 恐らく、そのクラスメイトというのは俺のことを……


 っとイカン。暗い雰囲気にしちゃ駄目だ。余計に翠さんを落ち込ませてしまう。


「ブルーは? 声かけたい人いる?」


「う~ん……私も野球が得意そうな人は特に……」


 別に野球が得意で無くても良かったんだが……いや、これ以上はやめておこう。勘だが、藪蛇な気がする。


「中々決まらないものですね」


「ソウ君? 僕はスルーかい?」


 スルーだよ。これ以上変態が増えたら俺のツッコミ容量が間違いなく破裂するわ。


「あ、俺ちょっと声かけてみたい人、丁度3人思いつきました。少し待ってもらっててもいいですか?」


 俺の言葉に、皆は揃って笑顔で応えてくれる。モップさんだけは俺に無視されたことで頬を赤らめた笑みだが、精神衛生上の問題であれをこれ以上相手することはできない。


 そして開く。


 システムウィンドウと、未だ空欄の多いフレンド一覧画面を。





 ■ □ ■ □ ■





「うわっ!? え、お……ホントに来れた」


 球場のマウンドが光ると、そこから急にスミスさんが現れた。


「久しぶりですねスミスさん。この間はどうも」


「おうソウ君。この間渡した銃と弾の調子はどうだい?」


「バッチリです。ただあの弾はちょっとやり過ぎじゃ」


「はっはっは、君からそのセリフが聞けるとは。今回は私の勝ちかな」


 俺より二回り近くは年配の男性スミスさんと話していると、伸二と翠さんが何かを聞きたそうな顔で寄ってきた。


 その口からどんな言葉が出てくるかわかっていた俺は、彼らに先んじてスミスさんを紹介する。


「皆、紹介するよ。ナガサキで知り合った武器職人のスミスさん」


 ナガサキをクリアして以降もスミスさんとは個人的な付き合いを続けていた。ただスミスさんの手がける弾と銃は魔改造するあまり生産コストと汎用性を度外視しているから、最近では殆ど俺専属の職人になってしまっている気もする。


「おっと、続けてきたな。スミスさん、続きは今から来る人たちが揃ってからということで」


 再び光り出したマウンドに視線を移せば、そこには刃物を専門としている鍛冶職人の半蔵さんと、その妻で料理人のサクラさんがいた。


「じゃあ改めて、全員の自己紹介と行きましょうか」

次回『この日遭遇したレアイベントの名を俺たちはまだ知らない』

更新は月曜日の予定です。

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