87話 この日集まったメンバーにはツッコミが足りない
キュウシュウはフクオカエリア。その中でも最も栄えた町として知られるテンジンの町。そこから北に進んだある場所に、俺たちの目指すダンジョンはある。
「そっか~、2人はそういう理由でルーちゃんたちと別行動をとってたんだね」
「そうなんです。でも学校では毎日会ってましたから、2人の状況は割りと細かく知ってます」
翠と伸二に、雪姫さんとモップさんを紹介したのは約1週間前。あるクエストに挑むにあたり、俺が2人に声をかけたことで知り合った。そのため、4人はまだ互いのことをそこまで深くは知らない。
そして知らないが故に情報交換という名のお話に華は咲くのだが、その華への肥料は主に俺の情報だった。
「雪姫さんとモップさんも初めの頃は総君にビックリしませんでした?」
「そりゃしたわよ。私とソウ君はナガサキで開かれたPvPの大会で初めて会ったんだけど、ありえないくらい強くって」
「あ、それ聞きました。一回戦の相手が総君なんてホント同情します」
同情された。
「それにサセボであった緊急クエスト。あの時はもうお腹を抱えて笑ったわよ。何よ2000ポイントって。意味わかんない」
「ですよねー。あれは私たちも呆れるしかなかったです」
呆れられた。
「極めつけはナガサキで戦った巨大な鬼。普通逃げるでしょうにソウ君ってば物凄く楽しそうに戦うの。もうこの人、人間じゃないってホントに思ったわ」
はい、人外認定きましたよ。
「それわかります。私たちもオキナワでジーザーに挑んだんですけど、総君がまさにそんな状態でした。もうどっちがボスなのかって感じで」
「それすっごいわかる! このまま行くとニホン最後のボスは実はプレイヤーのフリをしていた俺なんだーってオチよね、絶対」
速報。俺、ボスだった。
「それなのに中身は普通の男の子で……ほんっと、興味が尽きないわ」
「……それも、凄くわかります」
「ふふっ、私たち、似たもの同士かもね」
「確かに」
絶対似てるって。主に俺のイジリ方が。
「あ、俺もいいですかモップさん」
「何かなハイブ君」
「モップさんと総はどんな出会いだったんですか?」
「僕かい? 僕はね~、会って数秒後に殺されかけたかな」
「流石ですね」
「だろう?」
何が!? 何が流石!? 今会話の中で明らかにおかしいワード出てきただろ。スルー!?
「ソウ君のツッコミは他とは一味違うんだ。何って言うんだろうね。殺意が乗ってるって言うのかな。背筋に走るゾクゾク感が他人と明らかに違うんだよね」
「流石ですね」
「だろう?」
何が!? だから何が!?
ちょっと待って、ツッコミとボケの配分比率間違ってるよこのパーティ。明らかにボケの供給過多だよ。守備側がピッチャーの俺1人なのに対して攻撃側が1番から4番までズラリと強打者並べてるよ。せめて守備にもう1人割いてくれ!
「あの、総君……」
あ、葵さん。そうだ、俺にはまだ彼女がいた。このパーティ唯一の真水のオアシス。塩や廃水の混じっていない、純粋な真水のオアシスが。
「頑張ってください」
アカーーーーン! この子応援スタンドの子だった。葵さんの応援すっごく嬉しいけど、今は応援よりも守備してくれる人が欲しいんだ。せめて内野ゴロを受け取ってくれる1塁の守備についてくれないだろうか。
「……頑張るよ」
何を? と言われれば俺はこう答えるだろう。
――ツッコミ。
■ □ ■ □ ■
「GYAOOOOOOO!?」
けたたましい呻き声をあげ、1体の狼が光へと消える。
「雪姫さん、こっちは終わりました」
「了解!」
俺の声に雪姫さんは短く答えると、突進してきた狼の喉に愛剣を深く突き刺し、光へと変えた。
「私の方も今のでお終い。後はハイブ君とリーちゃんの方だけかな?」
「ご心配なく――風弾!」
そう答える翠さんも、複数の風の弾丸を狼へと命中させ光を散らす。
「よし! こっちもお終いっと。皆無事?」
翠さんの問いに俺たちはそれぞれ手を振って応える。
「ふぅ~……これでひと段落、でいいんだよな?」
額の汗を拭いながら伸二がその場に尻もちをつくように腰掛ける。
「大丈夫だと思うよ。まさかモンスターハウスにぶつかるとは思わなかったからビックリしたけどね」
そう答えるモップさんの顔にも安堵の色が浮かんでいる。
俺たちが今いるのはテンジンの町の北に位置する洞窟型のダンジョン。
敵モンスターの襲撃を難なく処理して進んでいた途中で、今いるモンスターハウスにぶつかった。
モンスターハウスとは、その名の通りモンスターが大量に出現するフロアのこと。出口は特殊な結界で封じられ、突破の為には部屋にいるモンスターを全滅させるしかない凶悪なトラップ。そのトラップにこれまで多くのプレイヤーが涙をのんできた。
だがこのパーティはそんな涙とは全くの無縁。盾としてだけではなく剣としての存在感も強めた伸二。多彩な魔法の習得により攻撃のリズムが上がった翠さん。銃を撃ちまくりナイフと刀で斬りまくる俺。全員の回復支援を担う葵さん。隙はない。
さらにそこに、接近戦のドエスパート――違う、エキスパート雪姫さんと、ある意味伸二以上の盾モップさんの2人が加われば、鬼に金棒、ドSに鞭、ドMに三角木馬だ。
「しかし結構深いな、このダンジョン。もう1時間以上ずっと下に進んでるってのに」
「あらハイブ、もう弱音? だらしないわねぇ」
「バッ、そんなんじゃねえよ。ただ俺たちの経験上、そろそろ変なトラブルに巻き込まれる頃じゃないかなと思ってよ」
何て嫌な経験だ。だが否定できない。翠さんどころか、葵さんも雪姫さんもモップさんすらも反論できないでいる。ん? 何で皆俺を見てるんだ?
「ソウ君。落ち着いて、ゆぅっくりと進もうねぇ?」
え?
「ソウ君。強そうな敵が出ても、いきなりの発砲は待っておくれ」
は?
「総君。私、平和っていいものだと思うの」
意味がわからん。
「総、変なスイッチ押すなよ?」
それはどっちかというとお前だよ。
「総君……」
あ、葵さん。葵さんは俺の味方だよね!?
「人間誰しも不可抗力ってありますし」
だよねー俺知ってた。この展開俺知ってたよ。
「こんな町の近くのダンジョンでそこまで変なイベントが起こるわけないだろ」
「お前忘れたのか? ジーザーと最初に出会ったあのダンジョンは町の近くだったろ」
そういえばそうだったな。ということは、このダンジョンにも隠し部屋やイベントがあるかもしれないってことか?
いやだが、
「そう簡単にぽんぽんボスに会ったりはしないだろ。それにイベントって言ったって、ここ最近は割りと大人しくしてたからあっちから寄ってくる類のイベントは心配ないと思うぞ?」
ナガサキでは色々とやらかしたからイベント塗れだったのかもしれないが、クマモトに入ってから以降はそれはもう大人しく過ごしたのだ。お陰で俺に勧誘をかけてくるギルドもないし、ハローワークに行っても誰かからジロジロと見られることも無くなった。
「甘いぞ総。お前は1つ大事なことを忘れている」
な、俺が忘れているだと!? 一体何を。
「お前は今は亡きトラブル星の王子、フラグタテーノ王子だ。絶対にトラブルに巻き込まれる。知らないとは言わせねえぞ」
「知らねえよ!」
俺の親父がトラブル星の王、火種モエーロ王なのは認めるが俺は断じてそんなんではない。
「王子サマ~、わたしぃ、欲しいバッグがあるのぉ」
そっかそっか、買ってあげよう。サンドバッグでいいかな?
「お、王子! どうか私めをこの鞭で!」
お前普段と何も変わらないじゃないか! それのどこに王子の要素がいるよ!?
「ちょっと皆、間違ってるわよ」
ど、どうしたんだ翠さん。まさか葵さんじゃなくって翠さんがここでフォローに入ってくれるなんて。絶対に乗っかってくると思ってたのに……ごめんよ、疑ったりして。
そうだ、翠さんは根は優しい子なんだ。いじりつつも、心のどこかでは俺のことを心配してくれる優しい子なんだ。そんないい子に対して俺は何てことを。
「総君の名前はフラグタテーロ王子なんてダサい名前じゃなくて、災厄のプリンスの方がしっくり来るわ!」
俺の謝罪を返せ。
次回『この日挑むダンジョンの深さを俺たちはまだ知らない』
更新は木曜日の予定です。




