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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
84/202

84話 あの日交わした約束に俺はマジで助けられた

 間隔を開けて襲い掛かってくる二足歩行の馬の化け物、馬叉氏(バサシ)を迎え撃つこと6回目。俺たちはようやく本格的に腰を落ち着けた。


「いや~狩った狩った」


 買い物が終わった直後のような言い方の大佐だが、その言葉の漢字が違うだろうことは想像に難くない。


「よし、では戦利品を確認しようか」


 基本的にはドロップアイテムは倒したパーティの物。だが中には、イベントをこなしたことによるイベント報酬というものもある。ナガサキでのカノンやリリスとのことなどがいい例だ。


 もしそのようなものがあれば、報告すること。分けることができるならば分ける。できなければジャンケン。それがここに来る前に決めたことだ。


 俺も他のメンバー同様にアイテムボックスの中に放り込んだ物を細かく確認していく。


【取得アイテム一覧】

・馬肉←New!

・馬肝←New!



 やっぱりという感想が俺の心中で埋め尽くされる。


 まぁ馬だったしね。ここがクマモトであるということを考えれば、そりゃこうなるわな。


 だがレアモンスターの肉だ。もしかしたら極上の味なのかもしれない。それにいつだったか料理人のサクラさんが食材には鮮度があるって言ってたからな。今日中に処理すれば新鮮な馬刺しを食えるかもしれない。


 いやだが待て。当たり前だが、これは馬じゃない。モンスターだ。もしかしたらめちゃくちゃ不味い食材なのかもしれない。いや、そもそも食材ですらないのかも。ここの運営ならやりかねない。ここは慎重になるべきだ。


 俺は心を落ち着け、ゆっくりとアイテム説明欄へと指を走らせる。


【馬肉:新鮮な馬の肉。特にサシの入った桜色の肉は美味で、口の中でとろける極上の逸品である。なお開発チームの山田の大好物でもある】


 いらねぇよその情報! 家庭絡みの情報かと思ったら山田さんのただの好き嫌いの情報じゃねえか! 誰が得するんだよこれ。


 ……くそ。どうでもいいことに神経を使ってしまった。さっさと次も調べて終わらせよう。


【馬肝:馬の新鮮なレバー。生で食べれる。その味は牛よりも臭みが少なく、それでいて舌触りも良い。ゴマ油と塩を絡ませて、日本酒か焼酎とセットでいただきたい。なお開発チームの山田は、熊本出張でこの極上セットに撃沈し、酔った勢いで奥さんに自分の全裸写真を送り付けたことがある】


 くっそおおお! やられた。来ないと思ってたらやられた。つーかこれは卑怯だぞ。こんなん笑うわ。

 にしても山田さん何やってんだよ。こんなんじゃいつまで経っても奥さんとヨリ戻せないよ。娘とも一緒に暮らせないよ。つーかもう本当に誰だよアンタ。


「皆、確認したかな? 肉と肝以外に何かドロップしたものはあったかな?」


 全く変わりない様子で大尉が皆へと伺う。そして皆もそれに普通に答えている。


 あれ、俺だけなのか? このアイテムの説明欄にキョドってるのは。みんなはあの説明を見てなんとも思わないのか?


「どうやらレアアイテムはないみたいだね。だが肉と肝は手に入った。一先ずの目的はクリアと言えるだろう」


「大尉たちはこのアイテムが目当てだったんですか?」


 翠さんの質問に大尉は人懐っこさを感じさせる笑みで答える。


「あぁ。この後ギルドの料理人に頼んで皆で馬刺しとレバ刺しを楽しむのが目的だったんだ。あわよくばまだ未確認のレアアイテムも見つからないかなとは思ってたんだけどね」


「そっかー。じゃあこの後はギルドホームに行くんですか?」


「あぁ。私らはまたアマクサまで戻ってギルドへ行くつもりだよ。君たちは?」


「私たちはここからアソの方へと進んで、途中のセーブ地点まで目指す予定です」


「そうか。じゃあここでお別れだな」


「そうですね」


 俺たちは互いの目を見合わせ、そろってお礼を伝えるべく彼らの方へと体を向け――


「あ、ソウ君。ちょっといいかな」


「……はい?」


 なんだ?


「まどろっこしいのは嫌いだから単刀直入に聞くよ。君はサセボの緊急クエストで1位を取った人じゃないか?」


 ……ゲ。


「あと、オキナワエリアボスを倒してM字開脚を残したプレイヤー。それも君じゃないのか?」


 ……やばい。


 やばいやばいやばいやばい。


 やりすぎたか。それとも前から目を付けられていたのか。もしかしてこの誘いはそれを確かめるためにわざと?


 とにかくまずい。ここはしらを切るべきだ。特に今のタイミングでは駄目だ。俺は今ギルドCLORS(カラーズ)の一員でもある。もし俺のやってきたことがバレたら間違いなくこのギルドにも迷惑をかける。


 この場を何とか切り抜け、その後ですぐにギルドを抜けるべきだ。そうして少しでも話の中心から葵さんと翠さんを離すべきだ。


 その為には――


「あぁ勘違いしないでくれ。別に私はそれで君をどうこうしようとかは思ってない。もし今言ったことが事実だったとしても、ここで得た情報は決して外部に漏らさないと誓う。ここにいるメンバー全員でだ」


 本当か? 信用してもいいのか? だがここで否定しても最後までしらを切り通せるか? ここは賭けてみるか?


「総君……」


 俺の手を葵さんの手が優しく包み込む。


「私……何があっても一緒についていきますよ」


 結婚してください!


 その言葉を鋼の意思で止めた自分を誉めてやりたい。今の言葉は俺の人生のパートナーとして、という意味ではない。ゲーム仲間としてという意味だ。

 だから、だから落ち着け総一郎、餅つけ。まずはしっかりと杵を臼の中心点に叩き込むことに集中するんだ。そして温かいうちに近所にお裾分けに行くんだ。そして――いかん、普通に最後まで妄想が脱線してしまった。


 とにかく、とにかく餅つけ総一郎。まずは深呼吸だ。そして彼女の瞳を見つめるんだ。そして言うんだ、ありがとうと。それだけだ、それだけでこのミッションは成功する。

 だから動け、俺の口よ。動け、動け、動け、動け! エントリープラグの中でガチャガチャと操縦バーを動かして叫べ。そうすれば俺のシンクロ率は400%を超えて動き出せるはずだ。あれ、でもその先にあるのは――


「因みに私も」


 おおっとぉおお!? まさかの翠さんも参入!? まさかの俺をめぐっての三角関係突入!?


 いや違うぞ総一郎、餅つけ。さっきから思考が混乱しているが、これはあくまでゲーム内の友人としての言葉だ。決して運命の伴侶としての言葉じゃない。いやだがもう少しぐらいこの幸せな妄想の世界に浸っても罰は当たらないのではなかろうか。

 夫を常に立て、一歩下がったところから支えてくれる優しい妻、葵さん。たまに追い越し、それでいて笑顔で振り向いて手を差し伸べてくれる活発な妻、翠さん。2人の美女と南国の島で仲睦まじく生活を――


「言うまでもなく俺もだからな、総」


 ……ありがとう伸二。お前のお陰で現実に帰ってこれたよ。うん、友達としてついてきてくれてありがとう。うん、ありがとう。うん、死ね。


 おっとイカン。素晴らしい妄想の終着点に伸二が滑り込んできたからつい殺意が。だがお陰で落ち着けたぞ。サンキュー伸二。


 俺は葵さんに感謝を、翠さんに感謝を、伸二に殺意と感謝の念を送り、大尉の方へと向き直る。


「大尉、その言葉を信じて話します。今大尉が言ったこと、全てその通りです。俺が……M字開脚です」


 これではただのド変態だ。だが俺は至って真面目な顔でそれを告げた。


 それに大尉は、ほっと一息ついて顔を緩ませる。


「やっぱりね。あの動きは只者じゃないと思ったから、気になって聞いてみたんだ。そっか~それにしても君がそうだったのか。いや~ここ最近喉に(つか)えていた魚の骨が取れた気分だよ」


 わかるようなわからないような例えを出す大尉に、俺はまだ表情を崩さずに彼の目を正視する。


「大尉、このことは……」


「わかってるとも。君の態度を見ればね。あれが公になれば君の周りはさぞ賑やかになるだろう。だが君は今の生活が好きなようだ。今の生活を壊されたくない。だから秘密にしてきた。違うかな?」


 その通りだ。俺は沈黙で答える。


「では私たちも君の秘密は必ず守ろう。約束する。ここで得た情報は、決して外部に漏らさない」


 その言葉に、俺の顔の筋肉はようやく弛緩する。


「あ、でも1つだけお願いがあるんだ」


 再び顔の筋肉が緊張する。やっぱり賭けるべきではなかっただろうか。いやそんなことを考えても仕方がない。どんな交換条件を出されるか分かったものではないが、これも俺が蒔いた種。芽吹くならそれをしっかりと見届けて、そして刈ろう。


「これからも私たちとフレンドとして絡んでくれないかな。極力、君たちに注目が集まらないようにも配慮するから」


「……も、勿論です」


 よかった……刈らなくて。





 ■ □ ■ □ ■





「おかえりなさい、お兄ちゃん」


 ログアウトした俺の上に乗るのは、1人の天使。大穴で先にログアウトした葵さんが俺に乗っかっている可能性も期待したが、それは駄目だったか。だがこの状況もその次ぐらいには素晴らしい。贅沢は駄目だな。


「ただいま、瑠璃(るり)


 もう何度目だろうかこのやり取りは。あと千回ぐらいしたい。


「もう晩飯か?」


 まだそんな時間ではないが、わざわざ瑠璃が俺の部屋に侵入したということはそういうことなのかな?


「ううん、ただここに来たくて来ただけだよ」


 最高かよ。


「そっか。でもそろそろ準備をする時間にはなってきてるぞ。行かなくていいのか?」


 そう言うと瑠璃はハッと顔を上げて時計に目をやる。その仕草たるや……まったく最高かよ。


「本当だ。行ってくるね」


「あぁ。俺はちょっと外を走ってくるよ」


 最近ゲームのし過ぎで体が鈍ってきてるかもしれないからな。毎日それなりに運動はこなしているつもりでも、油断は大敵だ。


 それにリアルの俺の身体機能が上がればゲームの俺の身体機能も上がる。一石二鳥だ。


「じゃ、行ってくる」


「は~い、いってらっしゃ~い」


 手を振る妹に最愛の念を飛ばし、俺は普段通り2階の窓から庭へと飛び降りた。


「さって、ゲームでもリアルでも、平和に過ごすためにやることはやらないとな」


 そして俺は、この後実に1ヶ月間。仮想世界でも現実世界でも特に揉め事に巻き込まれることなく、平和な時を過ごした。




 そう、1ヶ月の間は。

次回は掲示板回です。時系列的には一か月経過後の話となっています。

更新は月曜日の予定です。

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