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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
81/202

81話 この日会ったトップギルドの濃さに俺たちは圧された

「こんにちはソウさん。お久しぶりです」


「こんにちは大尉さん。久しぶりですね。あ、ナガサキエリアボス軍艦刀のファーストクリア、おめでとうございます」


「ありがとうございます。ソウさんたちから例のアイテムを受け取ったお陰です。重ね重ね、ありがとうございます」


「そんな。俺たちの方も、蒼天さんから交換してもらったアイテムのお陰で無事約束を――目的を果たすことができましたし。俺たちの方こそ、ありがとうございます」


 実に常識人らしい会話をアマクサの町の一角で繰り広げているのは、トップギルド蒼天のマスター大尉さんと、ギルドCOLORS(カラーズ)に入りたてほやほやの俺。


 噴水のある見渡しのいい場所で話しているせいもあり、周囲から中々の注目度を浴びている。さすがはトップギルド。


「紹介します。後ろのメンバーは私のギルドの精鋭で、リアルでも知り合いの仲間たちです」


 半身を後ろに下げ、大尉さんは後ろにいる3人のメンバーを紹介してくれた。


「軍曹だ」


 デジャブかな。前もこんな感じの自己紹介受けたぞ。相変わらず愛想ゼロだなこの人。確か前回はこの後大尉さんの拳骨が――あ、きた。


「あっはっは、あそこの漫才師弟コンビは放っておいて、僕の番だね。僕は伍長。よろしく」


 伍長さんか。丸刈りの頭と日焼けしたボディ。そして服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体。そして上下完璧に揃えた迷彩服。この人……只者じゃないな。


「ちょっと筋肉ダルマ。私より先に自己紹介しないでよね。あ、私はこのパーティで紅一点の癒しキャラ、大佐よ」


 飛び越えた階級きたよ。これまでもそれなりだったけど、いきなりとんでもないエリートきたよ。


「誰が筋肉ダルマだ! お前だってその迷彩服脱げば脂肪ゼロのムキムキアマゾネス――ほげろっ!?」


 おー、今のは見事な膝蹴りだ。リアルでやられたら絶対に昼飯をリバースするな。


「――こほんっ。よろしくね」


 そう言ってアマゾネ――大佐さんは肩にかかる真っ赤な髪を耳にかける。その仕草だけ見れば妖艶な雰囲気を醸し出す女性なのだが、その前の膝蹴りで色々と台無しだ。服の下の筋肉は知らないが、少なくともあの動きは一般人のものではない。筋肉ダルマさん同様、只者ではないだろう。


「あ~まぁうちはこんな感じのパーティです。全員癖の強い奴らばかりですが、どうかよろしくお願いします」


 最後は大尉さんが後ろ髪をかきながらまとめてくれた。ツッコミはきついが、やはりこの人が一番常識人っぽいな。


「じゃあ今度は俺のパーティを紹介します」


 うちのパーティもそちらに負けずに中々個性的ですよと対抗したい気持ちが無いわけではなかったが、葵さんなんかはそういったのは嫌うだろうと思い無難に紹介を済ませる。

 ただ、葵さんを紹介したときに大尉さんと筋肉ダルマさんが一層ニコニコとしたリアクションをとっていたから、彼らはどこかで不幸な事故にあわないか心配する必要があるだろう。


「で、大尉さん。これから一緒に行くクエストってどんなクエストなんですか?」


 良くぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔で、大尉さんは俺たちの方へと顔を向ける。


「良くぞ聞いてくれた!」


 言ったよ。


「これから向かうのは、アマクサとアソの中間地点にある沼地。そこにいるレアモンスターを狩りに行く予定だよ」


「おお、それマジですか大尉!」


「勿論だよハイブ君!」


 両手で握り拳を作り興奮する伸二に、満面の笑みとサムズアップで応える大尉。熱い。いや暑い。


 因みに彼らの階級のような名前には「さん」を付けないでくれと自己紹介中に言われたので呼び捨てになっているが、代わりに俺たちの名前も気軽に呼んでくれることになった。明らかな年上の人たちから「さん」付けで呼ばれるのは気恥ずかしかったので、ちょうどいい。


「でも良いんですか? 私たちまでそんな美味しい狩りに誘ってもらって」


「気にしないでおくれリーフ君。私らは以前ソウ君とブルー君にナガサキで大変お世話になってね。いつかお礼をしたいと思っていたんだよ」


「でも私とハイブはそれには無関係ですし」


「ソウ君は私のフレンドだ。そして君たちがソウ君のフレンドなら、私のフレンドも同然だよ。遠慮しないでおくれ」


「さっすが大尉。男だぜ!」


「そういう君も中々だよ、ハイブ君!」


 ガッシリと握手を交し合う男たち。暑い。


「ハッ、まぁ精々足を引っ張らないように――うごあっ!?」


 大尉の見事な後ろ回し蹴りが軍曹の側頭部にクリーンヒットする。最近ドつき漫才がブームなのだろうか。


「この馬鹿たれの言うことは気にしないでください。それでは行きましょう。道中走りますから、足に自信のない人は後ろの車に乗ってください」


 え? というリアクションとともに後ろを振り返れば、そこにはマジで車があった。確かに車だ。人力で引くタイプの。


「私と筋肉ダルマで引きますので、足に自信のない人は遠慮なく乗ってください」


 そんなこと言われても遠慮なく乗るなんてできるわけないだろ。葵さんは当然として、翠さんもこういうところには奥ゆかしい美少女なんだ。彼女がそう簡単に――


「やったラッキー。私人力車って一度乗ってみたかったのよ」


 ……。


「ブルーも乗ろうよ、ね」


「え、でも」


「いいからいいから! はい、私たち2人でお願いしまーす」


 ……。


「じゃあこれで準備はオッケーかな? ではソウ君、ハイブ君。遅れるなよ?」


 やたらと暑いスマイルを強調してくる大尉とダルマ伍長。もう考えるのはよそう。俺はひたすら走るマシーンとなろう。


「では目的地まで全力ダッシュ! ついてこれない奴はリアルで腹筋500回だ」


 何だそのノリ。どこの体育会系だ。まぁリアルで腹筋500回ぐらい別にいいが、葵さんの前で情けない姿は見せたくないな。ふむ……


「行くぞぉおお!」


 よし、ぶっちぎってやる。





 ■ □ ■ □ ■





 走っては休憩しを繰り返すこと約3時間。俺たちは目的の場所まで辿り着いた。


「や、やるなソウ君……我々のペースについてこれるとは」


「いやいや、蒼天の皆さんも……やりますね」


 ぶっちぎるつもりで走ったのだが、さほど間を空けることもできずに目的地へと着いてしまった。彼らはもしかして陸上の選手なのだろうか。


「君は後半ずっと人力車を引いていたじゃないか。いやはや……とんでもない力と体力だね」


 そりゃあアレを引くと葵さんと翠さんから頑張ってという声援(ごほうび)がもらえましたからね。あんなポジション他人には譲れませんよ。


「いえ、驚いたのは俺もです。蒼天の皆さんはリアルでも相当鍛えてるんですね。ビックリしましたよ」


「我々は仕事柄体を鍛えてなんぼだからね。ハイブ君同様に君も車の中に送り込むつもりで走ったのだけれど。うん、素晴らしい。それはスキルなのか素なのか。気になるところだけどその質問はタブーだね」


 ここまでの道中。伸二は早々に脱落し車の中に放り込まれた。だがあのスピードだったらそれが普通だ。どうやらこの4人。身のこなしだけでなく体力も常人からはかけ離れているようだ。


「だがお陰で目的の場所まで早く来れた。早速レアモンスターを狩るとしようか」


「狩るって……ここでですか?」


 唖然とした表情の翠さんだが、俺も全く同意見だ。


 青い空と風になびく広大な草原が俺の前に広がっている。それ以外には何もない。そう、何もないのだ。俺たち以外の人もいなければ、モンスターの姿すらも。


「ふっふっふ、まあ見ていなさい」


 そう言うと大尉は懐をがさごそと漁りだし、黒光りする棒状の物を取りだした。


 ……はあ!? 何そのワイセツ物ぎりぎり手前みたいなブツ。アカン、アカン流れだよこれは。トップはトップでもとんでもない方向のトップ走ってるよこの人。

 葵さんの前で何とんでもないブツ出してるんだ。見ろあんなに顔を真っ赤にして。なんてことしやがる。あんな顔見れてラッキー……じゃなくって! あぁもう思考がまとまらん。


「これを……こう!」


 さらにそれを口にくわえた。


 よし、殺そう。


 だが次の瞬間、草原を駆け抜けるような颯爽な笛の音が辺りに鳴り響き、俺の殺気を霧散させた。


「え……笛?」


 ……なんて紛らわしいデザインなんだ。まぁだが安心し――ん? おい待て伸二。何だそのがっかりな顔は。お前は何を期待していたんだ。やめろよな。葵さんメッチャびっくりしてたじゃないか。

 それに翠さんだって……あれ? 特に何も気付いた様子は無いな。もしかして全くわからなかったのかな? だとしたら翠さんって俺が思ってるよりも天然で純粋な子なのかもしれないな。対して葵さんは文学系だから知識だけはそれなりにある系ってことなのかな。


 ふむ……これは中々素晴らしい情報かもしれないぞ。大尉、腹立つがグッジョブだ。だがそのしてやったりな笑顔はやめろ。殺意が湧く。


「ただの笛だとも。いったい何だと思っていたのかな? ソウ君は」


 あぁ、殴りたい、この笑顔。


「いえ、いきなりチョコバナナを食べるなんて中々ユニークな人だなって思っただけですよ」


「はっはっは、そうかい。だがそれは間違っていないよ。私はユニークなおじさんだから――ね!」


 俺の中で紳士キャラから変態紳士に脳内変換された大尉はいたずら成功とばかりに後ろの仲間たちへと振り返る。


 その笑顔を受けた仲間たちの内、無愛想軍曹は無視、筋肉ダルマ伍長は敬礼、アマゾネス大佐は溜息をついていたから、俺の敵は変態紳士と筋肉ダルマで間違いないだろう。


「さて、じゃあ敵が来る前に説明しておこうか。今吹いたのは、あるレアモンスターを呼び出すためのアイテム。少し前に個人的に手に入れたんだ。何回かに分けて襲ってくるらしいから、最初は我々が迎撃しよう」


「あの……どんなモンスターなんですか?」


 あぁ可愛いなぁ葵さん。まだ顔がほんのりと桜色で、まったくもって素晴らしいよ。それに上目遣いで瞳ウルウルのコンボも加わっていたら俺は間違いなく卒倒していたよ。鼻から赤い涙を流していたよ。


「これから来るモンスターの名前は《馬叉氏(バサシ)》。中々手強いモンスターだよ」


 あぁ憎たらしいなぁ大尉さん。まだ顔が微妙にニヤけていて、まったくもって殴りたいよ。それに暑苦しさと変態成分のコンボが加わったら俺は間違いなく発砲していたよ。全身に赤い汁を咲き散らしていたよ。


「バサシ……ですか? いったいどんな見た目の――」


 葵さんの言葉は最後まで出ることはなかった。必要なくなったのだ。


 そのモンスターが、勢いよくこちらに向かってきているせいで。


「来たぞ皆。戦闘準備」


「「「ハッ!」」」


 大尉の声に蒼天のメンバーは鍛え上げられた規律すら感じさせる反応を見せる。


 だが俺の関心はそこには無かった。俺の目は、眼前に迫り来るモンスターに釘付けになっていた。


「おい総……あれ」


「あぁ……」


 俺と同じリアクションをとる伸二から漏れた言葉に、俺も短く同意する。


 そこにいたのは、二足歩行へと進化(?)した馬。その右手には剣と同じサイズの包丁が、左手には盾と同じサイズのまな板が握られていた。あのヒズメでどうやって物を持つのか非常に気になるが、そこはまぁドラ○もん的な事情でクリアなのだろう。そして腹の一部は切り開かれており、そこから覗く新鮮な桜色の肉が光を零している。


「もしかして……馬刺しか?」


「……じゃねえかな」


 このモンスター作った人、絶対にオッサンだろ。

次回『この日見たトップギルドの実力に俺たちは「おー」』

更新は木曜日の予定です。

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