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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第4章 キュウシュウ踏破編
79/202

79話 この日彼女の家を訪ねた俺はマジでやらかした

 既に日を跨ごうかという時間帯。俺は葵さんの家の前まで来ていた。


 だが問題はここからだ。こんな時間に家を訪ねてきた男を、ご家族はいい顔であげてくれるだろうか。


 もしこんな夜遅くに、瑠璃に会いに知らない男が我が家まで来たら、俺は優しい顔でそいつを家に上げられるだろうか。いや、無理だ。絶対に裏山に埋めてしまう。なら葵さんのご家族も、こんな時間に来た俺を殺したいと思ってしまうんじゃなかろうか。


「う~ん……」




 家の前で頭を抱えていること数分。俺はある視線を感じ反射的に後ろを振り向く。


 そこには――


「おいおぃいい~こんなところで何をしているかぁ~青少年?」


 千鳥足で顔を真っ赤にした中年の男が俺に訝しげな視線を向けてくる。やや後退の見え始めている頭にはサラリーマンの正式装備ネクタイが巻かれ、左手には妻へのご機嫌取りアイテムSUSHIを装備している。


 まぁ、要するに酔っ払いだ。


「いえ、ちょっと友人に会いに来ただけです。おじさんは会社の帰りですか? 早く帰ってあげないと奥さんが心配しますよ?」


 これ以上関わりたくないのは山々だが、相手は理屈の効かない酔っ払い。ここは無難に対応し、この人にはさっさと退場してもらおう。


 だが俺の思惑とは裏腹に、男性は先ほどよりも顔を歪ませ俺を凝視してくる。


「あぁ~ん? おめえに俺の何がわかるってんだ。知ったような口を利いてんじゃねぇぞ小僧」


 いかん、家族の話はNGだったか。しかしどうする……いっそのことそこの道端で少しの間眠ってもらうか? 俺の最優先任務は葵さんへの謝罪だ。そのためには、多少の障害は排除すべきではないか?


「大体ガキがこんな時間にぃ~……うろついてるんじゃね~よ! 電話で我慢しろ電話で」


 そうか電話だ。電話で葵さんに玄関前まで来てもらおう。これならご家族に見られることなく葵さんと会おうことができるぞ。おっちゃんナイスアイディアだ。お礼に優しく意識を奪ってやるぜ。


 俺がそんなことを考えていると、男性がふと糸の切れた人形のように前のめりに倒れ始め、


「おじさん、危な――おっと!?」


 抱えようと近づいた俺の頭に、いきなり回し蹴りが飛んできた。


「ほう、今のを難なく止めるか。やはり只者ではないな、少年」


 な、なんだいきなり。動きが明らかに素人じゃないぞ。もしかして親父の仕事関係の人か?


 ゆっくりと離れていく右足に目をやりつつ、俺は男性に声をかける。


 が――


「いきなり何を――わっと!」


 引いていった足の反対から、今度は左足が再び頭目がけて飛んでくる。最初よりも警戒していたためそれ自体は難なくかわせたが、その蹴りの鋭さに俺の意識は男を最大限に警戒していた。


「今のも躱すか……おじさん、君に興味が湧いてきちゃったよ」


「そうかい、俺は俄然排除してきたくなってきたぜ」


 こんな危険人物を葵さんの家の付近に置いておくわけにはいかない。近くの川に沈めるか、林に捨ててくるかでもしないと危険だ。


 俺は懐からナイフと銃を――


「……持ってきてなかったな」


 葵さんを怖がらせないようにと家に置いてきたままだった。


 仕方ない、格闘戦でケリをつけよう。


 俺は姿勢を低くし、男の懐に素早く潜り込む。


「――げ、はやっ」


 俺の速度に対応できずにガラ空きだったボディに1発。掌底を叩き込む。


 が、それはすんでのところで腕で防がれてしまった。


 なら――


「あっぶな……だが残念、そ――っ!?」


 下がったガードの上にある人体の弱点。顎に横から手刀を入れ、脳を揺らす。


「あ……がっ……」


 後はどうにでも料理できる。さて、どうするか。とりあえず意識を確実に奪うか。


「ロープもないし、ちょっときつめに意識は奪っておこうか」


 そう言い倒れようとしている男の体を支えようと近づく。


「甘い!」


「――っ!」


 懐からスタンガンを取り出した男が、弾けるような音を立てながら突き出してくる。それをさっきよりも余裕なく辛うじて避けると、男は真っ赤な顔をニンマリと歪める。


「ふむ……今の間合いでもかわすか。本当に強い、不思議な少年だ」


「そりゃどーも。アンタも結構強いよ、不思議なおっさんだ」


 リアルで俺とやりあえる人間は久しぶりだ。この人、できる。スタンガンを持ってるぐらいは別にそこまで珍しくもないし驚きもしないが、気になるのはその使い方だ。迷いの全くないあの動き、どう見ても素人のそれじゃない。


「まぁ強いなら強いで、それに応じた動きをするだけだ」


 俺は先ほどよりもより速く、鋭く、男の懐に潜り込む。


「――!?」


 反射的に出てきたスタンガンをかわし様に、手首を払いスタンガンを飛ばすと、そのままボディに掌底を叩き込む。


「ぐほっ!」


 後方へと吹き飛ぶ男に追撃を加えるべく、そのままの勢いを保持し接近する。


 この後男が倒れたならば喉元を押さえる。立つならば頭に回し蹴りを入れて昏倒させる。


 2つの選択肢を頭に置き奴の動きを注視する。



 だがこの戦いの流れは、俺の予想から大きく外れた。


 視界の端で、葵さんの家の玄関の照明が灯る。それに僅かに遅れ、玄関の扉が、ガチャリと音を立てゆっくりと開いていく。そこから出てきた人の顔は、俺の時間を完全に凍結させた。



「――葵、さん?」


「……そ、う君?」


 玄関を開きこちらを見つめるのは間違いなく、俺が傷つけてしまった女性。


 俺の思考は完全に止まった。


「総君、どうしてここに?」


「いや、その……」


 何から言うべきか。さっきはごめん? 俺が護るよ? 結婚しよう?


 うーん、個人的には最後のやつを――ってそうじゃない!


 今ここには変質者がいるんだ。葵さんが一番怖がるタイプのシチュエーションじゃないか。彼女が気付く前に奴の排除を――いや、駄目だ間に合わない。

 なら葵さんを先にここから逃がそう。怖がらせてしまうことにはなるが、なによりも安全確保だ。


「葵さん、ここから急いで離れ――」


 だが倒れている変質者を見つめる葵さんの口から出た言葉は、俺の予想の遥か斜め上を行っていた。




「……何してるの? お父さん」






 ……。







「おとうさん!?」



 俺の素っ頓狂な声は夜の住宅街を走り抜けた。





 ■ □ ■ □ ■





「申し訳ございませんでした」


 葵さんの家のリビング。ソファーに腰掛ける葵さんとその両親の前で、俺はリアル土下座をきめていた。夜間の突然の訪問に加え、酒に酔った家長をボコボコにしたのだ。もうこれ以上ないほど最悪の第一印象だ。俺の残された手札には土下座しか残されていない。


 問題はその方法。静かなる土下座とジャンピング土下座、トリプルアクセル土下座の三択で少し悩んだが、今は夜遅くの静かな時間帯。俺はその辺を考慮し、静かなる土下座で彼女の家の床へと顔を(うず)めた。


 「いいのよ。あなたがやらなくてもどうせ私がボコボコにしてたから、気にしないで頂戴」


 そう軽く言うのは男の妻、つまり葵さんのお母さん。いやちょっと待ってお母さん。今サラリと怖いことを。


「それに、大方この人の方から仕掛けたんでしょ?」


「え、どうしてわかるんですか?」


 まるで始めから見ていたかのような口ぶりに俺の頭は激しく混乱する。もしかして誰にでも喧嘩を吹っ掛ける困った親父さんなのか? いやだがそんな人からこんなに優しい娘が生まれるはずがない。ならいったいどういう――


「始めから見ていたもの」


 始めから見ていた。答えは出た。簡単明瞭にして、実に納得のいかない答えだ。


「なら早く止めてくださいよ!?」


 思わずツッコんでしまった。片想いとはいえ好きな女性のお母さんにツッコミを入れてしまった。


 あぁしかし美人なお母さんだな。仮想世界での葵さんと同じアッシュグレイの髪に、瑠璃色の瞳をしている超美人だ。それに……葵さんも成長したらここまでいくのだろうか。最高かよ。どこがとは言わないが、とにかく最高かよ。


「ごめんなさいね。葵から聞いてた話が本当なのか見てみたくなっちゃって。でも本当に強いのね。この酔っ払いも相当な腕なのに」


 現実逃避をしていた俺の思考を、聞き逃せない言葉が強引に引き戻す。葵さんが俺のことを話していただと?


「お、お母さん!」


「あら? 秘密だったの?」


 してやったりのような笑顔のお母さんと、顔を真っ赤にして言いよる娘。仮想世界(向こう)でも似たようなやり取りを見たが、まさか現実(こっち)でも同じ環境だったとは。ということは翠さんは葵さんにとって親友でもありお姉さんでもある的な感じなのかな?


「相変わらず恥ずかしがり屋なんだから。ごめんなさいね藤堂君、こんな娘で」


「い、いえ、とんでもないです」


 むしろ最高です。


「ふふっ、かわいい。それにとってもハンサム。葵がそんなんなら私が代わりに貰っちゃおうかしら」


「お母さん!」


 葵さんの強烈なツッコミにお母さんはハイハイといった様子で会話を切り上げる。それにしても何ともノリのいいお母さんだ。翠さんのお母さんと言われても信じてしまいそうだ。


「あの、それで総君はどうして家に?」


「そうだ小僧、貴様こんな時間に何しに来た! 大方葵に手をかけようとやってきたのだろう。だがそうはいかんぞ。先程は後れを取ったがこの冬川彰三(しょうぞう)、腐っても元自衛官。娘の為ならたとえ万の軍隊だろうと薙ぎ払って――」


「はいはい、腐った親父は黙ってましょうね。でないと明日の生ゴミの日に出すわよ」


「そ、そんな、イリーナさん」


 威勢の良い親父さんの言葉を、静かなる言葉で沈黙させたお母さん。やはりどの家庭においても頂上に君臨するのは母か。


 ていうか親父さん元自衛官だったのか。それであの動きを……納得だ。いやでも元自衛官ならなおさら暴力振るっちゃ駄目だろう。何故いきなりあんなことになったんだ?


「気にしなくていいわよ藤堂君。この人君のことを葵からしょっちゅう聞いてて、君に会ったら飛びかかってやるって前から言ってたのよ。多分、偶然を装って君に近づこうとしただけだから」


 あれ偶然を装うとしてたの!? メチャクチャ不自然な酔っ払いでしたよ!?


「もう! お母さんもお父さんもちょっと黙ってて! ……行こ、総君」


「ま、待ちなさい葵。まだ話は――」


「いきなり私の友達に襲い掛かる人の話なんて知りません!」


 至極まともな答えだ。完全に葵さんが正しい。でも俺もさも当然のように反撃してスイマセン。


「葵、私はお前のために――」


「もう……お父さんなんて大っ嫌い!」


「――――――――!?」


 あ、出た。世の父親が娘に言われたくないセリフ第一位、大っ嫌い。その効果は俺の眼前でムンクの叫びとなっている親父さんを見れば一目瞭然だ。


 そして俺は、砂となって消えていく親父さんに心で黙とうを捧げ、彼女の部屋へと誘導されていった。

(´・ω・`)この子、リアルでもゲームでも()ってること変わらない(困惑)


次回『あの日交わした約束は社交辞令ではなかった』

更新は木曜日の予定です。

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