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リアルチートオンライン  作者: すてふ
第3章 キュウシュウ上陸編
70/202

70話 ニジュウロクで咲かせろ、光の華

 3階建てビルの屋上から見降ろされているに等しい視線を受け、俺は疾走する。


 しかしこの体格差、一撃でも貰えば俺は死ぬだろう。見た目からの印象だけで言えばジーザーよりも強そうな気がする。何とも燃える状況だ。


『ヌゥオオオオオオオ!』


 肌にビリつく鬼の咆哮。その声が鳴りやまぬ内に、鬼は右手に持つ巨大な金棒を頭上に振り上げる。


「あれは……喰らったら絶対死ぬな」


 考えるまでもなく絶対にオーバーキルだ。キロを超してトンはありそうな重量の鉄塊が尋常じゃない膂力で振るわれる。


「喰らったらな」


 金棒が降り降ろされた地点が空爆でも受けたかのように爆ぜ飛び、1メートル以上も余裕をもって躱した俺を空中に吹き飛ばす。


 空中を舞う俺を巨鬼の眼球がギョロリと追う。


「――やべっ」


 その場から一歩踏み込んだ鬼の左拳が異常な速度で俺に迫る。


 ――あれもヤバい、絶対ヤバい。


 空中で動ける唯一の手札(疾風)を、俺はここで切る。


 唸りを上げるかのようにして迫る拳を、辛うじて回避しそのまま着地する。


 あっぶね。そう心中で感じるも、言葉として出ることはなかった。


 その暇さえ、今の俺には許されなかった。


 未だ土煙舞う戦場に、1つの影が出来ていた。それが俺の真上に何が来ているのかを知らせてくれる。


 ――見る間も惜しい、動け、とにかく動け。止まれば()られる。


 その場から前に飛び込むと、直後に大質量の足が轟音と共に降ってくる。


 だがそれだけでは終わらない。


『――劫火(ゴウカ)


 その声が聞こえるのとほぼ同時、奴の全身から蒼い炎が噴出する。


「――――!」


 何かが聞こえた気がする……が、それが何かはわからぬまま、俺は爆炎にのまれていった。





 ■ □ ■ □ ■





「――がはっ!」


 背中を壁に打ち付け、肺の空気が一気に抜ける。


 ――ヤバかった。


 蒼い炎に飲み込まれる一瞬手前で、別の炎が俺を包んでくれなかったら完全に直撃を喰らっていた。


 あれが一体なんだったのか、何となくの想像はつくが――どうやらそれすらも言う暇を与えてくれないようだ。


 眼前に迫る巨大な炎の塊が、俺の選択肢を狭めていく。


「くそっ」


 迅雷を起動し、その場から横に大きくスライドする。


 防戦一方になるな、避けながら攻撃しろ、あらゆる手を出しつくせ。


 照準を奴に合わせる。狙いは奴の足首。奴の近接格闘能力とスピードを同時に奪う。


 しかし俺の放った弾丸は、奴の皮一枚抉った辺りで勢いを殺し、(ひしゃ)げた形でポトリとその場に落ちた。


「リロード【徹甲弾PT-02】」


 奴の硬皮を撃ち抜ける弾丸へとすぐさま切り替え再度放つ。


 その弾は奴の体に確実に撃ち込まれたが……


『ハッハッハ、何ダソレハ。豆鉄砲カ?』


「だよねー」


 この体格差だ。ジーザーの時のように直接体の中に撃ちこむようなことをしない限り、有効打にはならないだろう。


 だがそれでも奴のHPはレッドゲージ。残り10%程度しか残ってない。これがもしHP満タン状態からのスタートだったら相当に絶望的な状況だったが、この状況ならまだ打つ手はある。


 俺は奴の周囲を旋回するように動き、徹甲弾を奴の足首に放ち続ける。


『無駄ナコトヲ――(ホムラ)


 奴はそれを余裕をもって眺め、俺に炎の塊を投げつけてくる。


 奴からすればただの投擲も、俺からすればガソリンタンクに火の付きかけた軽自動車を放り投げられるのとほぼ同義だ。一発でも貰うわけにはいかない。


 次々と投擲される一撃必殺の炎の塊を避けつつ、俺は奴の足首に徹甲弾を放ち続けた。




『ドウシタ。豆鉄砲ヲ撃ツシカ出来ナイノカ?』


 そう煽ってくれるな。手順ってものがあるんだ。お前をぶっ飛ばす手順がな。


 そうして再度リロードした全ての徹甲弾を奴の足の一点に集中させた後、俺は久しぶりな感覚を味わいながら口を開いた。


「――よし、準備完了だ」



『……準備完了? 今度ハ何ヲ見セテクレルンダ?』


 完全に舐め腐った態度の鬼が、愉しそうに俺を見つめる。


 焦るなよ、今見せてやるから。


 俺は次の瞬間、自分の頭に銃を突き付け、2回、引き金を引いた。


『……ハ?』


 俺の拳銃自殺の現場を目撃した鬼と仲間たちは、揃って困惑の顔を浮かべる。葵さんとカノンに至っては瞳を潤ませているぐらいだ。


「ごめんよ2人とも。説明する暇がなかったんだ。でも、これで勝てるからな」


 俺はレッドゲージに突入した自分のHPゲージを確認し、そう呟く。


 そして――


「覚悟しろよこの野郎。俺のリベンジはこっからだぞ」


 紅く燃え上がる瞳とオーラを携えて、()は鬼を見つめた。





 ■ □ ■ □ ■





『ソウ言エバ……貴様モ鬼ダッタナ』


 赤鬼と化した俺を見つめ、奴の巨大な顎が動く。


『ダトシテモ結果ハ変ワランガ――ナッ!』


 そう言うと鬼は巨大な金棒を振り上げ、神速の鉄槌を振り下ろした。


『シマッタ……コレデハ奴ノヤラレタ姿ヲ拝ム暇モナカッタナ。ハッハッハ』


 濛々と土煙が立ち込める中、愉快そうな声が洞窟内に響く。


 さて、あの耳障りな声を黙らせてやるか。


 俺は迅雷のリキャスト時間の10秒が過ぎるのを奴の背後で待ちながら、腰の刀を抜く。


 そして――


『サテ……次ニ何ヲスル――』


 俺は再び迅雷を起動し、奴の足首に渾身の突きを放つ。


『ヌゥオアアア!』


 深く突き刺さった刀を、傷口を引き裂くようにして素早く引き抜く。


『グッ、貴様』


 再び奴の背後に立ち、その時を待つ、いや誘導する。


『調子ニ、乗ル――!?』


 そして、その時は訪れた。


『ヌッ!? グォオオオオオ!』


 背後の俺を押し潰そうと勢いよく振り返った鬼が、突如その場に膝をつく。


『貴様ッ! 何ヲシタ!?』


 理解の及ばぬ現象に困惑する鬼をよそに、俺は冷たく言い放つ。


「したのは俺じゃない、お前さ」


 俺が徹甲弾でしつこく狙い撃っていたのは奴の右のアキレス腱。ゆっくりと、しかし確実に撃ち込んだ楔に、刀での一押し。


 後は奴が足首に大きく負担のかかる動きをしてくれれば、晴れてアキレス腱断裂の出来上がりだ。


「お前が人型で良かったよ。俺は対人戦の方がずっと得意でね」


『グゥゥゥ、貴様、ダガコノ程度ノダメージデ我ヲドウニカ出来ルト』


 おっと意外だな。まさかこれで終わりだと思われていたとは。


「まさか、思わないさ――この程度の攻撃ならな」


 さぁ、いよいよだ。この時を待っていたぜ。ゲームを始めた最初の日からずっと、ずっとな。


 俺は一拍の間、これまでの苦難の道のりを思い出し、そして決別を告げた。


「――極光六連(きょっこうろくれん)!」





 ■ □ ■ □ ■





 ナガサキに来るにあたって頑張ると誓ったことが2つある。


 1つは友人を増やすこと。


 そしてもう1つは、ゲームシステムを少しでも使いこなせるようになること。


 今カゴシマでは伸二が、翠さんが、約束を守るべく頑張っているはずだ。ならば俺も、2人に負けないように努力しよう。強くあるべく。




『ナ、何ダコレハ!?』


 鬼の体に六ケ所、雪の結晶を思わせる紋章が刻まれ光を放っている。


「極光六連、俺のアーツだよ。効果は今すぐにその身で感じ取りな」


 ジーザーを倒した直後に取得していたアーツ。使い方もタイミングも難しくて、ものにするまでに相当な時間を要したが、今の俺ならやれるはずだ。


 俺は残り時間に気を配りつつ奴の体に浮かぶ紋章の内、4つに銃弾を放り込む。


『ヌッ!? ナン、ダ……? 何モ起コランゾ。失敗カ?』


 弾丸を撃ち込まれた紋章は、一層輝きを増すも、それ以外には何の変化ももたらさなかった。


『ハッハッハッハ、何ヲシテクルカト思エバ。只ノ手品カ――バフッ!?』


 奴の舌に浮かんでいた紋章に2つ目の銃弾を撃ち込む。


 隙だらけだな。普段であればこのアーツを完成させるのはそこそこ大変なのだが、敵が油断しているせいか、楽に決まる。

 3つ、4つ、5つと次々に紋章を撃ち抜く。やつはそれなりに警戒し防御の構えを見せてはいたが、所詮は巨大な鬼。外すわけがない。そして――


「さぁラストシューティング――締まって行こうか」


 残るは奴の頭頂部。ちょっと厄介な場所だが、赤鬼の能力なら何とか駆け上れるだろう。


 だがそう考えていた俺の思惑は、見事に外れた。


『ナラバ……コレデドウダ!』


 巨鬼は武器を手放し両手で頭を完全に覆ってしまった。


『ハハハハハ、ドウダ、手モ足モ出マイ』


 手が出ないのはそっちじゃねえかと普段の俺ならツッコミを入れただろう。だが今の俺にとって、巨鬼の取った手は相当に効果的だった。


 極光六連には制限時間がある。それにタイミングやリキャスト時間も相当に使い勝手が悪く、ここで外せばもう使う機会はまず訪れない。


 あの鬼がそこまで読み取って対処したとは考えにくいが、結果としてこうなってしまった。


 だがそれでもやるしかない。もうそれしか、勝機はない。


 俺は覚悟を決め奴へと――


「ソウ君、最後の紋章を撃てればいいのよね!」


「そういうことなら僕らにお任せ!」


 歯噛みして奴を見据えていた俺の横を、2つの影が駆け抜け果敢に突っ込んでいく。


「僕らが道を開く!」


「ソウ君はとっておきをお願いね!」


 そうだった。俺はここで、新たな剣を2つも得たんだった。えらく変態で、猫かぶりな癖だらけの剣だが――最高の剣を。


「私もとっておきよ、一刀破斬(いっとうはざん)


「トっ君、バーンストライク!」


 雪姫さんの持つ剣が何倍にも大きくなり鬼の巨腕に振るわれ、トっ君(炎鳥)がその身にさらなる炎を纏い神速の矢と化しもう一方の巨腕へと放たれる。


「「いっけぇええええ!」」


 しかし、鬼の動きは俺たちの想像を遥かに超えていた。


『グゥ、舐メルナァアア!』


 鬼は両手を広げ、雪姫さんの剣とトっ君の突撃を受け止めた。


「そ、そんな……」


「まさか……こんな……」


 2人の開いた口が塞がらない。それもそうだろう。


『ハッハッハッハッハ、見込ミガ外レタヨウダナ!』


 あぁ、見込みが外れた。こいつがこんなに――


「「「馬鹿だったなんて」」」


『――ハァ?』


 間抜けな声を発する鬼の頭の上に立ち、俺はそう呟いた。


「まさか両手を自分から空けてくれるとは……まぁお前にはこんな最後がお似合いかもな」


『キ、貴様……イツノ間ニソコヘ……』


「なぁに、ナイフと刀さえあれば壁を駆け上がる程度わけないさ――っと時間もない。残念だがこれで終わりだ」


 俺は紋章に銃口を向けた拳銃の引き金に指をかけ――


「あばよ、クソ野郎」


『オ、オノレェエエエエエエ!』


 最後の弾丸を紋章へと放った。


 直後、紋章が輝きを増し奴の体全体を極光が包みだす。


『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』


 異常な発光体と化した鬼がもがき苦しむ。身を包む光に体を蝕まれながら。


『アアアアアアアアアアアア!』


 そして奴の体は完全に光に包まれ、


「……きれい」


 光の華を咲かせ――散った。

次回、第71話『ニジュウナナで流れる、天使の涙』

更新は月曜日の予定です。

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